100年以上の歴史を持つ教育学部、経済学部のほか、2017年に日本で初めてデータサイエンス学部を設立した滋賀大学。社会のなかで急速に重要性が高まるデータ活用人材の育成にいち早く取り組み、統計学や情報学の基礎に加え、実データを用いた課題解決型の教育を展開してきました。これからのAI時代にも欠かせない新たな専門人材を育てるデータサイエンス学部は、前例のない学部であるがゆえに、企業側の理解や卒業後の進路のあり方も手探りのなかで築き上げられてきたといいます。今回は、学生一人ひとりの専門性をどのように社会につなげていったのか、その試行錯誤と工夫について、滋賀大学 教育・学生支援機構 特別招聘教授の入江氏にお話を伺いました。
Profile

入江 直樹氏
滋賀大学 教育・学生支援機構 / 特別招聘教授
1984年に新卒で製薬会社に入社。その後MR、営業所長、人事、秘書、総務などを担当し、2016年に滋賀大学に赴任。キャリアデザイン論、自己理解、リーダーシップ論などの科目を担当。2020年より教育・学生支援機構で学生の就職相談やキャリア支援に従事している。
前例なき学部で切り開く学生に寄り添ったキャリア支援

―まず、データサイエンス学部の特徴について教えてください。
滋賀大学のデータサイエンス学部は、2017年に日本で初めて設立され、データ活用人材の育成に取り組んできました。
特徴としては、統計学や情報学といった基礎に加えて、実際のデータを使いながら課題解決に取り組む点にあります。単なる知識の習得にとどまらず、その知識を「どのように社会で活かすのか」までを含めて学ぶカリキュラムを構成しています。
―データサイエンス学部ならではのキャリア支援の難しさについても教えていただけますか?
最も大きな課題は、当初企業側にデータサイエンスという学問が十分に浸透していなかったことです。データサイエンティストという職種自体の認知度もまだ低く、新卒採用においてはDX人材としての募集が中心でした。
一方で、学生は自らの専門性を活かしたキャリアを思い描いています。その理想と現実との間に、大きなギャップがありました。前例のない学部だからこそ、学生の進路も企業との関係性も、一から手探りで築いていく必要があったのです。
そこで私たちがまず取り組んだのが、データサイエンス人材を4つのカテゴリーに整理することでした。一般的なデータサイエンティスト、高度なデータサイエンティスト、IT・システム系職種、そして技術系総合職です。
データサイエンティストと一口に言っても、その役割や求められるスキルは多様です。カテゴリーとして整理・可視化することで、学生自身が現実的に進路を捉えやすくなると考えました。
そのうえで、面談を重ねながら本人の志向や適性を丁寧に見極め、一人ひとりに合ったキャリアを共に設計していくことを大切にしました。
企業と学生の相互理解が生み出すキャリアの可能性

―企業との関係づくりで、意識されていることはありますか?
単に学生を企業に紹介するのではなく、その企業にとってデータサイエンスをどのように活かせるのか、どのような人材が求められているのかを、企業と一緒に考えることを意識しています。そうした視点で企業を見ていくと、これまで想定されていなかった新しいポジションが見えてくることもあります。
そのうえで、その企業に最も合った学生を紹介します。場合によっては、学生の紹介にとどまらず、卒業生が活躍している企業が提供する商品やサービスを活用した方が、その企業にとっての課題解決につながると判断することもあります。
その際は、そうした企業を紹介することもあります。常に多様な選択肢を持ちながら、企業ごとの課題や状況を踏まえ、最適な提案ができるよう心がけています。
無理にマッチングを成立させるのではなく、その企業にとって本当に価値のある選択は何かを、企業と一緒に考えながら向き合っていく。その積み重ねが、学生や大学からの一方通行な関係ではない、双方にとって意味のある関係づくりにつながっていると感じています。
―その取り組みを通じて、どのような変化がありましたか?
少しずつではありますが、企業側の理解は確実に深まってきています。特に、製造業やインフラなどの大手企業では、データ活用の重要性が広く認識されるようになり、受け入れの幅も広がってきました。
以前は限られた職種にとどまっていたものが、現在ではさまざまな部門でデータサイエンス人材を活かそうとする動きが見られるようになってきています。
また、学生側にも変化が生まれています。最初からデータサイエンティストという職種にこだわるのではなく、「自分の専門性をどのように活かせるか」という視点で企業を見るようになり、キャリアの選択肢が広がっています。
こうした相互理解の結果として、学生・企業双方にとって満足度の高い選択につながっているのではないかと考えています。
就職活動を超えて育むのは生涯学び続ける力

―これからのキャリア教育で、重要だと考えていることについて教えてください。
重要なのは、生涯を通じて学び続ける力だと考えています。これからの時代は、大学を卒業後も学び続けることが前提になると感じているからです。これまでは、培ってきた個人の能力やスキルで成果を出すことができた面もあると思いますが、今はそう簡単ではありません。
社会に出た後も、リスキリングなど限られた時間のなかで、自分の能力を高め続けることが求められています。そのためにも、大学在学中に「学び続ける姿勢」を身につけておく必要があります。
また、キャリアの選択肢は就職だけではありません。独立や起業なども含め、多様な道があることを知る機会をつくることも重要だと考えています。
外部から実務家や起業家を招き、自身の経験を語ってもらうことで、学生がロールモデルを持ち、自分の将来像をより具体的に思い描けるようになると感じています。
キャリア支援は、単に就職先を決めるためのものではなく、その土台を育てるものへとシフトしていくことが大切なのではないでしょうか。
―具体的には、どのような取り組みをされていますか?
授業のなかで、マイナビのMy CareerStudyを活用しています。その際、これは「就職のためだけのツールではなく、一生学び続けるためのツール」だと伝えたところ、学生の反応が想像以上に良かったですね。
活用するうえで意識しているのは、学生の主体性を大切にすることです。My CareerStudyでは、自分の興味・関心に合わせてコンテンツを選び、自主的に学ぶことができますし、そこで得た気づきを次の行動につなげることもできます。
だからこそ、私たちもツールを使うこと自体が目的にならないよう心に留めています。「どう活用すれば学生の成長につながるのか」という視点で考えられるよう、問いかけ方にも工夫をしています。
生涯を通じて学び続ける学生が増えていけば、その後の意思決定や行動も大きく変わっていくはずだと信じています。
▼My CareerStudyはこちら
https://mcstudy.mynavi.jp/mem
主体的な学びを支えるキャリア支援のあり方

―今後の進路支援について、強化していきたい点はありますか?
現在は7〜8割ほどの学生が就職を選択していますが、今後は修士・博士課程への進学率も高めていきたいと考えています。データサイエンスという学問分野そのものを社会に定着させ、発展させていくことも滋賀大学の重要な使命だと感じているからです。
そのためにも、学部段階の早い時期から研究や学びの面白さに触れられる機会を増やし、就職だけでなく進学も含めた多様な選択肢を、学生が自然と視野に入れられる環境を整えていきたいと考えています。
また、全国のデータサイエンス系の学部を持つ大学とも連携し、AI時代におけるデータサイエンティスト育成にも取り組んでいきたいです。
―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
データサイエンス学部は前例のない学部だったこともあり、これまで多くの試行錯誤を重ねてきました。振り返ると、最初からうまくいったことばかりではなく、手探りで進める場面も少なくありませんでした。
そうした経験を通じて、私たち自身が改めて感じたのは、学生が自ら考え、学び続ける力を育てることの大切さです。これは特定の分野や学部に限らず、多くの大学に共通するテーマではないでしょうか。
大学ごとに置かれている環境や求められている役割、提供できる価値はさまざまだと思いますし、正解も一つではありません。学生一人ひとりに個性があるように、大学にもそれぞれの特色があります。
それぞれの大学が自らの個性を大切にしながら学生に向き合い、私たち教職員自身も学び続けていく。そんな姿勢を、これからも皆さまと共有し合っていければ嬉しく思います。
Editor’s Comment

滋賀大学 教育・学生支援機構の入江先生に取材しました。日本初のデータサイエンス学部生に対するキャリア・就職支援は前例がないため、非常に困難であったと想像に難くありません。
また、「データサイエンティスト」という言葉の認知度が低いため、企業側の理解が十分に浸透していなかったという壁もあったようです。しかし、学生の職種を分類し、学生の志向や適性にあてはめる支援方法は参考になりました。
「今後は全国のデータサイエンス系の学部を持つ大学とも連携し、AI時代のデータサイエンティスト育成に取り組みたい」と語る穏やかな口調の奥には、教育者としての強い情熱を感じました。
時代の変化が激しい分野だからこそ、支援する側も常に学び、変化し続けなければならないと語るその姿は、現代社会に生きる私たちへの示唆とも感じました。(マイナビ編集長:高橋)
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