文学科・史学地理学科・心理社会学科の3学科、14専攻からなる明治大学文学部では、自分自身や他者の考え・気持ちを理解し、それをもとに生涯にわたって自分やまわりの人を支えられる力を身につけることを教育目標に掲げています。その一環として、正課の授業である「キャリア・デザイン」や「海外現地研修」に加え、新入生向けガイダンスや卒業生によるパネルディスカッション形式のキャリアイベントなど、継続的なキャリア教育に注力しています。そこで、明治大学文学部ならではのキャリア教育の内容や特徴について文学部長の田母神氏にお話を伺いました。
Profile

田母神 顯二郎 氏
明治大学文学部 文学部長
1982年、早稲田大学第一文学部英文学専攻卒業。明治大学大学院文学研究科仏文学専攻を経て、パリ第八大学博士課程を修了。文学博士。1999年、明治大学文学部専任講師に就任。2009年より専任教授、2023年から現職。研究テーマはフランス近現代詩で、専門科目は「フランス文学演習」「文学研究方法論」。 主な著書に『Fragments & Wholes』『ベルギーを<視る>』(以上共著)など。
社会で活躍する卒業生の経験に触れられる機会を提供

―まず、明治大学文学部のキャリア教育の特徴について教えてください。
大きな特徴は、社会で活躍する卒業生の経験やキャリアに触れる機会を多く設けていることです。文学部は専門分野や学びの幅が広いため、卒業後の進路を具体的に描きにくい学生も少なくありません。そこで、多くの卒業生のリアルな話を通じて、進路選択の視野を広げる場を提供するよう心がけています。
文学部は、文学科・史学地理学科・心理社会学科の3学科、14専攻で構成されています。『万葉集』『源氏物語』といった古典文学から、現代のメディア理論やジェンダー理論まで、扱うテーマはさまざまです。
さらに、イスラム史やフランス象徴主義など、多様な分野を横断して探究できるのも特徴です。こうした幅広い学習内容があるからこそ、学生時代の学びが社会でどのように活かされるのか、イメージしにくいのかもしれません。
―社会で活躍する卒業生の経験やキャリアに触れる機会の提供について、具体的な取り組みを教えていただけますか?
主に2~3年生を対象に、卒業生によるパネルディスカッション形式のキャリアイベントを継続的に開催しています。特定の事例を唯一の「正解」とせず、多角的な視点でキャリアを考えられるよう企画しています。
登壇してくれる卒業生は、幅広い業界で活躍する20代の若手が中心です。「社会で求められている力とは何か」「学生時代の学びをどのように社会で活かしているのか」といったことから、「就職活動のスタート時期」「学生時代に取り組んでおくとよいこと」まで、幅広いテーマについて具体的な経験を交えて語ってもらっています。
―キャリアイベントに参加した学生からは、どのような反応がありますか?
私たちや大学職員がキャリアについて話しても、学生にはどこか他人事のように受け止められてしまうことが少なくありません。ところが、卒業生の話になると学生の感じ方はまったく違います。
身近なロールモデルの言葉だからこそ、自分のこととして捉えやすいのでしょう。実際、キャリアイベント後のアンケートでも、「意識が変わった」「行動を起こそうと思った」といったポジティブな声が毎回多く寄せられます。
それだけでなく、キャリアイベントを通じて成長した卒業生たちが、今度は登壇者として学生をサポートするという良い循環も生まれています。
入学直後からスタートする多彩なキャリア教育

―明治大学文学部では、他にはどのようなキャリア教育を行っているのでしょうか。
入学後には「新入生キャリア支援ガイダンス」を行い、学生生活の過ごし方が将来のキャリアにどうつながるかを考える機会を提供しています。
また、1~2年生に向けて正課の授業として「キャリア・デザイン」を開講しています。全14回にわたり、外部講師も招きながら「学生が気づいていないグローバル成長業界・企業とは」「これからのマスコミ・映像業界に求められる人材とは」「国際NGOで働く――グローバルなキャリアステップ」など、多様なテーマで“働く”を考える講座を展開しています。
さらに、全学年を対象にヨーロッパやアジアで海外現地研修を実施しています。現地の街や企業を視察したり、大学生と交流したりするなかで、海外で学び、働くことを身近に感じられるプログラムを提供しています。
世界で活躍する卒業生と交流できる機会もあり、海外で働く卒業生の話に触れることで、グローバルなキャリアの可能性を具体的にイメージできるようになります。
このほか、文学部独自の海外留学制度も用意しています。具体的には、ドイツ、フランス、韓国などにある計12大学と学部間協定を締結しています。現地での体験を通じて異文化理解を深めるとともに、自分の将来について考える契機にもなっています。
―国内でも、さまざまなフィールドワークを実施しているそうですね。
いろいろな街の産業や伝統、文化などに触れる機会を数多く設けています。ほかにも、自治体の課題解決に取り組むプロジェクトなど、地域連携の取り組みにも注力しています。こうした経験を通じて、教室の外での“生きた学び”を得られる機会を提供しているのです。
学生の変化から見える継続的なキャリア教育の成果

―なぜ早い段階からキャリア教育に取り組んでいるのでしょうか?
就職活動の時期を迎えてから準備を始めるのでは、どうしてもスタートが遅くなってしまいます。だからこそ、早い段階から自分のキャリアや仕事観について考えることが大切です。
とりわけ、専門分野や学びの広がりが大きい文学部の学生は、卒業後の進路を具体的にイメージしにくい傾向があります。そのため、早くから多様な経験を通じて、視野を広げる機会を提供したいと考えているのです。
―こうした取り組みの成果は、どのように現れていますか。
将来のキャリア形成に対する学生の意識が、年々高まっていると感じています。1~2年生向けに実施している「キャリア・デザイン」は、当初は約50名の参加にとどまっていましたが、今では、約350名もの学生が受講するまでになっています。
これほど多くの学生が関心を寄せるのは、講座がキャリア形成に直結していると学生自身が実感しているからではないでしょうか。
マイナビが提供している自己分析ツールなども積極的に活用しています。学生が将来のキャリアをより具体的に描けるようになるとともに、一人ひとりの可能性を広げる一助になっていると言えるでしょう。
自ら考えて行動できる「自己本位」な人材を育成

―継続的なキャリア教育を行う大切さや、学生に伝えたいことを教えていただけますか。
1年次から途切れることなくキャリア教育を行うことで、3年次からの実践的支援をサポートする就職キャリア支援センターへスムーズにバトンを渡せるようになります。この流れを通じて、文学部での学びの価値を、将来の進路と結びつけて理解できるのです。学問を教えるだけでなく、このようにキャリア形成の土台を築くことこそが、私たちが重視している点です。
学生にはまず、自分自身を知るところから始めてほしいと考えています。「自分とは何か」「本当にやりたいことは何か」を見つめることが、キャリア形成の第一歩です。そのうえで、多様な世界に触れることも大切です。
海外現地研修やキャリアイベントなど、さまざまな機会を通じて自分の可能性を広げてもらいたいです。同時に、大学の講義で深く考える力や本質を見抜く力を養い、正確な情報を素早く取り入れながら、学びを自分のキャリア形成に活かしてほしいと思います。
―田母神先生にとって、キャリア教育とはどういうものでしょうか?
「人間をつくる」という意味で、キャリア教育は大学の講義と深く関わっています。仕事のイメージと現実のギャップを知り、それを埋めるために何が必要かを学ぶことで、学生が自分で人生を切り拓く力を育む機会だと言えるでしょう。
「人間をつくる」とは、学生が他人の受け売りに頼らず、自ら考えて主体的に行動できる力を養うことです。かつて明治大学で文学を教えていた夏目漱石の「自己本位」の思想にも通じており、自分の内面に根ざした価値観を大切にし、個を確立させることを意味しています。
―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
正直に言えば、私たちの取り組みが正解かどうかはわかりません。だからこそ、他大学の皆さまと知見を共有し、学生のためのキャリア教育をより充実させていきたいと考えています。
スピーディに変化する時代にあって、教育者である私たち自身も、一緒にキャリアデザインへの考え方を常に進化させていければ嬉しく思います。
Editor’s Comment

明治大学の文学部長、田母神先生へのインタビューでした。キャリア教育というと、どうしても就職支援の文脈で語られがちですが、今回の取材からは「学生が自分自身を理解するための教育」としての本質が伝わってきました。入学直後から多様な卒業生や世界に触れさせることで、学生は少しずつ自分の軸を言語化していきます。3年次以降の支援へと自然につなげていく設計も、教職員の連携あってこそ実現するものです。文学部ならではの幅広い学びを前提に、こうした「考え続ける場」を経年で大学が提供する意義を、改めて感じさせられました。(マイナビ副編集長:谷口)
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