1884年に創設された横浜バプテスト神学校を源流にもつ、11学部14学科5研究科からなる関東学院大学。約11,000名の学生が、横浜・金沢八景キャンパスと2023年4月に開設された横浜・関内キャンパスで学んでいます。キャリア教育に関しては、昨年、同大学が推進している「社会連携教育」の枠組みに沿って、キャリア教育のカリキュラムを再編。より段階的に社会とつながっていく新たな仕組みづくりに挑戦している最中とのことです。そこで今回は、その変革を牽引する高等教育研究・開発センターの吉田氏、江頭氏に新カリキュラムのポイントなどを中心にお話を伺いました。
Profile
吉田 広毅 氏
関東学院大学 高等教育研究・開発センター長
常葉大学 専任講師・准教授・教授を経て、2017年より関東学院大学国際文化学部教授。2023年度から、副学長(教育改革・産官学連携担当)として初年次導入教育やキャリア教育といった全学的教育プログラムの企画・開発を行う。また、各学部の教育改善活動等を支援する役割を担う高等教育研究・開発センターのセンター長を務める。
江頭 幸代 氏
関東学院大学 高等教育研究・開発センター次長
広島商船高等専門学校、大原大学大学院を経て、2014年より関東学院大学経営学部准教授、2018年教授就任。2021年から教育の内部質保証に関わる教育改革支援および大学全体の授業運営、教育支援の役割を担う教務部長を務める。博士(商学)および税理士資格も取得している。
1年次から3年次まで体系的に学べるように
―2023年度にキャリア教育のカリキュラムを再編されたと伺いました。どういう背景があったのでしょうか?
吉田:これまでも大学1年生向けに必履修の「KGUキャリアデザイン入門」という科目はあったのですが、それらの科目と大学3年次に履修するインターンシップ科目とのつながりが学生に意識されづらいという課題がありました。そこで、学生が社会やキャリアに対する意識を段階的に高めていけるよう、本学が掲げる「社会連携教育」のフレームワークに沿ってキャリア教育カリキュラムを再編しました。
具体的には、キャリア教育科目を、社会を「知る」科目、社会を「みる(体験する)」科目、社会について「考える」科目、社会に「働きかける」科目に再編し、社会で生き抜くための知識やスキルを身につけつつ、それらを活かして社会課題の解決を図る学びを螺旋的に継続・発展させる独自のカリキュラムを開発しました。
―成果が現れるのはこれからだと思いますが、この再編によって変化は見られていますか?
吉田:大きな成果はこれからだと思いますが、インターンシップを意識する時期になって慌てて動き出す学生が例年より少なくなったように感じます。というのも、以前はインターンシップにエントリーする際に、自分自身の強みや弱み、業界のこともよく知らず、エントリーの段階でうまく動き出せない学生も少なくありませんでした。さらに、インターンシップに向けて勉強しようと思っても、社会でどんな知識やスキルが求められているかもわからない状態でした。
MATCH plusとMy CareerStudyを活用
―新しいキャリア教育カリキュラムでは、マイナビのサービスも活用していただいているとお聞きしました。
吉田:新しいキャリア教育カリキュラムにおいてマイナビの「MATCH plus」の存在は大きいと思います。学生たちは大学受験の偏差値を通して自分自身に順位を付けられるような経験をしてきました。そして、漠然と就職活動でも同じように順位付けされてしまうのでは?という不安を感じています。
しかし、「MATCH plus」は能力値の水準の高低を見せるのではなく、世の中にはいろいろな人がいて、それぞれに合う業界や仕事があることを教えてくれるツールです。自分の強みや向いていると思われる業界や仕事を知ることで学生たちのモチベーションも高まります。
江頭:さらに、この「MATCH plus」を1年次、2年次、3年次と継続的に活用することで、自分自身の成長や変化も可視化できるのではと考えています。
吉田:また今回、マイナビの「My CareerStudy」も導入しました。再編したカリキュラムでは、1年次に「KGUキャリアデザイン入門」で自分自身の強みや弱み、業界などの基礎知識を知ることからスタート。その後、学内でのPBLを経験し、2年次になると学内と学外(社会)を融合したP B Lが行われ、3年次のインターンシップにつなげていくといった流れで、身近なところから徐々にキャリアを学ぶ空間が広がっていくイメージです。
そして、これらの科目と並行して、学生自身がオンラインで社会人基礎力などを自律的に学ぶことができるよう「My CareerStudy」を活用することにしました。その結果、自分自身に足りない知識やスキルをその都度修得できる環境を整えることができました。
キャリア教育に対する教員の意識や情報もアップデート
―ちなみに、お二人とも専門科目を持つ教員という立場でキャリア教育に深く関わっていますが、関東学院大学ではどのように教員の方々を巻き込んでいるのですか?
吉田:大学1年次に履修する「KGUキャリアデザイン入門」はそれぞれの学部学科の教員が持ち回りで担当しています。先生たちは、「KGUキャリアデザイン入門」を担当することでキャリアや就職活動に関する知識や情報のアップデートができると考えています。加えて、学生たちの「MATCH plus」の結果なども共有することで、3年次の就職活動の支援だけでなく、日々の指導にも役立てることができるようになると思います。
江頭:また、本学にはキャリア科目の特任教授もいらっしゃるのですが、この方とのつながりができることも先生たちにとっては重要なことだと思います。この交流を通して、先生たちはキャリア教育と自分の学部の専門科目をどう位置付けるかを改めて考えることができますし、何よりキャリア教育や就活支援に関して聞きたいことがあるときは気軽に相談ができるようになりました。先生たちにとっても心強い存在なのではないでしょうか。
―今回のキャリア教育カリキュラムによって様々な変化が起こっているのですね。
吉田:履修必須科目である「KGUキャリアデザイン入門」が学生に与える影響はとても大きいと思います。私が所属する国際文化学部の場合、ほとんどの科目がクラス単位で行われることもあり、どうしても学生の人間関係が狭くなりがちでした。結果、就職活動の際に得られる情報も限られたものになり、意識が高まらないこともあったのです。しかし、「KGUキャリアデザイン入門」は学科全体で学ぶ上にグループワークも多く、人間関係も一気に広がります。学生たちもこれまで以上に様々な刺激をもらえるようになったのではないでしょうか。
江頭:さらに、「KGUキャリアデザイン入門」の後に履修するキャリア教育科目は学科の枠を超え、全学部横断の科目となっているため、自分たちとは異なる視点からのコミュニケーションも増えるでしょうし、人間関係の幅もより広がっていくのではと期待しています。
吉田:学生たちの交流の幅が広がっていくことで、必然的に先生たちの交流の幅も広がっていくはずです。そういう意味では、先生たちの意識を向上させる役割も担っていると思います。
学生の興味や関心に応じてカスタマイズできる仕組みに
―キャリア教育カリキュラムの再編が行われたばかりですが、今後の展望はどのように考えていますか?
吉田:より学生のタイプに応じた学びが提供できればいいなと思っています。それぞれの興味や関心に対応できるPBLを実施したり、インターンシップ先を用意したり。学生たちを見ていると、社会貢献活動をしたい学生もいれば、スポーツに打ち込みたい学生、とにかく真面目に勉強を頑張りたい学生といった感じにタイプも様々。そうしたパーソナリティーに合わせてカスタマイズでき、自律的に進路を選択できるような状況にしたいですね。
江頭:本当にそう思います。まず、大学の中にいろいろなやる気のスイッチを用意してあげたいですし、社会に送り出す時も自分に合ったスイッチを見つけられる環境にしたいですね。
―ありがとうございます。では、最後に他大学の教職員の方へのメッセージをお願いします。
吉田:専門教育、教養教育、キャリア教育、キャリア・就職支援をどうつなげていくかということに課題を感じています。すべての学生がキャリアや就職への意識が高いとは限らない中、どうすれば徐々にモチベーションを高めていくことができるのか。この課題に関して、ぜひ、みなさんと一緒に考えていければと思っています。
江頭:私は民間企業に就職したこともありますし、現在も税理士として企業ともお付き合いしているため、比較的、キャリア教育や就職支援のイメージも湧きやすいのですが、大学の先生の中にはその部分を難しく考えてしまう方も少なくないと思います。そうした先生たちの関わり方などもどうすればよりスムーズになるのかといった意見交換もしてみたいですね。
Editor’s Comment
「KGUキャリアデザイン入門」を履修必須科目としている関東学院大学の吉田センター長と江頭センター次長に取材をさせていただきました。キャリア支援は「社会とのつながり」が一つのポイントですが、社会に対して「知る」、「みる(体験する)」、「考える」、「働きかける」という4つのカテゴリに分けてカリキュラムを再編し、スパイラル状態にして学生に届けるという枠組みは、学生に対してだけでなく、学外から見ても非常に分かりやすいカリキュラム構成だと感じました。また、学外リソースの積極活用も、生産性の高さにつながり最終的には学生と向き合う時間の確保にも繋がっていると感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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