愛媛県松山市に位置する松山大学は、1923年創立の松山高等商業学校を前身とする私立大学。創立以来、「真実」「実用」「忠実」の3つを合わせた校訓「三実」を掲げ、実学を重視した教育を展開してきました。また、同大学では教員、職員、卒業生、地域企業など、大学内外の多様な主体が連携しながら学生のキャリア形成を支える取り組みを進めています。今回は、そうした松山大学独自のキャリア支援の考え方と具体的な取り組みについて、学長の池上真人氏とキャリアセンター課 課長の鈴木真木子氏にお話を伺いました。
Profile

池上 真人 氏
松山大学 学長
広島市立大学大学院国際学研究科博士後期課程修了、博士(学術)取得。2006年に松山大学経営学部講師として着任し、准教授、教授、副学長を経て、2025年より松山大学学長に就任。専門は英語教育学。現在も教壇に立ち続ける。

鈴木 真木子 氏
松山大学 キャリアセンター事務部 キャリアセンター課 課長/東京オフィス 課長
松山大学経済学部経済学科を卒業し、民間企業を経て2009年に松山大学へ入職。財務、経営企画、キャリアセンター、教務、東京オフィスなど複数部署を経験し、現在はキャリアセンター課 課長として学生のキャリア形成支援を担当。
学生の成長を支えるのは、キャリアセンターだけではない

―まず、松山大学のキャリア教育や就職支援の考え方について教えてください。
池上:松山大学では、学生のキャリア教育や就職支援をキャリアセンターだけがおこなう役割とは考えていません。教職員はもちろん、保護者の会、卒業生組織など、さまざまな人たちが関わりながら学生の成長を支えていく仕組みを大切にしています。
また、松山大学はもともと高等商業学校としてスタートした歴史があり、社会や地域のなかで働くこと、貢献することを重視してきました。そのため、学生のキャリア形成についても大学だけで完結するものではなく、地域企業をはじめ、地域社会全体で育てていくという意識が自然と大学には根付いています。
鈴木:実際に、キャリア教育や就職支援には多くの方が関わっています。それぞれが自分たちの立場で学生に関わることで、教育や支援の質も高まっていると感じていますし、相互に連携しながら支援することで「学生を取り巻く支援の輪」ができ上がっていると思います。
教員と職員が連携して実施するオーダーメイドのゼミ訪問

―そうした支援の輪で、具体的にはどういった取り組みを実施しているのでしょうか?
鈴木:特徴的な取り組みの一つが「ゼミ訪問」です。一般的にキャリア支援というと、決まったプログラムを学生に提供する形が多いかと思いますが、松山大学の場合はゼミごとに内容をオーダーメイドで設計するものも多数あります。
キャリアセンターの職員がゼミに出向き、教員と連携してキャリアに関する授業やワークショップをおこなうのです。たとえば、法学部のあるゼミではディベート大会にキャリアセンターの職員も審査員として参加し「論理的に議論する力が社会ではどう活かされるのか」という視点でコメントを加えています。
池上:大学の授業では、学問を通して論理的に考えることは学びますが、それを実社会のなかでどう活かすかという部分が重要で、でもそれは学生にとってなかなかイメージしづらいことですよね。そこでキャリアセンターの職員が、学問の現場に社会からの視点を提示するのです。
ディベートの技術一つとっても、相手に打ち勝つことが重要なのではなく、相手を理解しながら合意形成を図るコミュニケーションが社会では求められます。そうしたリアルな視点を学生に伝えることも、大切なキャリア支援だと考えています。
―とても良い取り組みですね。他には、どのようなゼミ訪問があるのですか。
鈴木:たとえば、経済学部などは学問の内容の幅が広いために、入学時に将来の目標を持てていない学生が多いという課題がありました。そのため、早い段階でキャリアセンターの職員が経済学部の教員と連携し、学生自身の経験や価値観を振り返る「自分史」のワークを行い、自分の興味や強みを整理するプログラムを実施しました。
池上:就職活動の時期におこなう自己分析のような内容ですが、こうした取り組みを低学年時に取り組むことで、学生にとって自分自身の将来と大学の学びのつながりを見出すことができ、その後の大学での学び方や勉強に対するモチベーションの向上にもつながっていくと考えています。
「学生のために」という共通の志を共有することが大切

―教員との連携は、どのように広がってきたのでしょうか?
鈴木:もちろん、最初からすべてがスムーズだったわけではありません。ゼミ訪問の取り組み自体は以前からありましたが、本格的に力を入れ始めたのは最近です。興味を持ってくださった教員から始まり、その教員が別の教員に紹介する形で少しずつ広がっていきました。現在では年間約50名の教員と連携し、1,000人以上の学生にキャリア教育の機会を提供しています。
池上:教員の立場から言うと、自身が担当する授業に外部の人が入ることに抵抗を感じる人もいるでしょう。しかし、学生の成長のためになることならば協力したいと考える教員は多いものです。重要なのは、「キャリアセンターが主導する取り組み」ではなく、「学生のために一緒に取り組むものだ」と共有することだと思います。
―なるほど。ちなみに、キャリアセンター職員の負担が大きいようにも感じますが、実際いかがでしょうか?
池上:実のところ、このゼミ訪問の取り組みは、キャリアセンターの若手職員から声が挙がって実現したものなのです。松山大学には、職員の意見やアイデアが実現できるような土壌があります。自発的におこなうからこそ、さまざまな取り組みが生まれており、かつ、その熱量が高まる好循環が形成されています。
鈴木:その一つとして、内定が決まった学生を対象とした「入社前教育」といった取り組みも形になりました。卒業後に社内でよいスタートが切れるように、この取り組みでは外部パートナーの力もお借りし、社会人になる前に働くことのリアルを考える機会を設けています。
池上:キャリア教育とは、単にマナーやスキルを教えることではもちろんありません。これからも受け入れる側の企業や地域のみなさまとともに、社会で何が求められているのかを考える機会をつくることが重要だと感じています。
キャリアミライ事業として、より進化を加速させていく

―今後の展開についても教えてください。
池上:私が考えていることは3つあります。1つ目は、学生のキャリアに関する成長モデルを整理することです。どのような経験を積んだ学生が、どのように成長していくのかをある程度体系化し、指導に活かしたいと思っています。2つ目は教職協働の強化。教員だけでなく職員も学生の成長に直接関わってもらいたいです。そして3つ目が地域企業とのさらなる連携です。
大学は敷居が高い場所と思われがちですが、企業の方々がもっと気軽に相談できる存在でありたいと考えています。地域、企業、大学の三者が互いに学び合いながら学生を育てる循環をつくることが、松山大学の役割だと考えています。
鈴木:2026年度からは「キャリアミライ事業」という新しい枠組みで、スタートします。採用難やミスマッチなどの課題に対して、大学側が企業の魅力や学生が知りたいリアルな情報をまとめた冊子を作成し、事前に企業を広く知る時間を設けることで学生と企業の出会いの質を上げていく予定です。さらに、ただ社会に送り出すだけでなく、地域の方々と一緒に人材育成まで取り組める仕組みも考えています。
―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
鈴木:地域の持続可能性が問われる中で、キャリアセンターの役割は「つなぐこと」だと思っています。学生を取り巻く支援の輪を広げることで、学生の可能性は大きく広がり、その先にある卒業生の活躍が、地域の力へとつながっていくと考えています。ぜひ、みなさまの大学の「つなぐ取り組み」もお聞きしたいです。
池上:教員と職員は役割こそ違いますが、「学生を成長させたい」という思いは同じはずです。その共通点を大切にしながら、協力していくことが重要だと思います。松山大学で学ぶすべての学生が社会で幸せに生きていけるようにする、そのような環境をつくることが、私たちの使命だと考えています。
Editor’s Comment

今回は、松山大学の池上学長とキャリアセンターの鈴木課長に取材しました。池上学長の「部署が違っても学生の成長を支援したいという目標を共有できれば、一緒に協力できる」という言葉が強く印象に残りました。多様な学生に対して複数のキャリアの道筋を示し、それぞれにあった進路を歩んでほしいという思いで取り組まれている姿勢も心に響きました。取材を通じて、池上学長の情熱と鈴木課長の学生への優しさ・愛情が随所に感じられました。また、地域企業との連携による地域活性化の取り組みや、他大学ではあまり例のない入社前教育からは、卒業後も学生に活躍し続けてほしいという強い願いが伝わってきました。
(マイナビ編集長:高橋)
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長い学生生活の出口で、学生たちを社会へと送り出す。その大きな役割と責務を担っている皆さまに寄り添い、活用いただける情報をお届けするため、2022年にサイトをリニューアルいたしました。
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