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低学年キャリアデザイン賞|働く×暮らす 地域と学ぶ三大学連携の実習|駿河台大学・岩手大学・横浜国立大学

学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取組を表彰する「第8回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」で「低学年キャリアデザイン賞」を受賞したのは、駿河台大学・岩手大学・横浜国立大学の3大学が連携して展開する地域実習プログラムです。学生が地域に根付いた企業や産業で働くことと、その地域で暮らすことを同時に体験できるユニークな仕組みが評価されました。2016年度に岩手県内の大学で始まり、現在は駿河台大学・横浜国立大学へと広がった本実習。低学年から地域に飛び込み、早い段階から地域と深く関わることで、学生たちにどのようなキャリアを考える機会を提供しているのか。また、実施に向けた難しさや今後の展望などについても、この取り組みを推進する駿河台大学 船場氏、岩手大学 穴田氏、横浜国立大学 田中氏の3名にお話を伺いました。

※地域志向型インターンシップネットワークinいわて
学生を受け入れる市町と学生を送り出す大学の担当者が設立したネットワークで、経常的にさまざまな情報共有をしながら、キャリアデザインプログラムに関するオンラインでの合同説明会、参加学生の事前・事後の交流会、成果報告会、コーディネーターの勉強会などの企画・運営を行っている。

Profile

船場 ひさお
駿河台大学 メディア情報学部 教授
一般企業で10数年間エンジニアとして働いたのち、九州大学大学院芸術工学府 芸術工学専攻 博士後期課程修了。博士(芸術工学)。音環境のユニバーサルデザイン、音や音楽と地域デザイン・地方創生を専門とする。フェリス女学院大学専任講師、岩手大学特任准教授、横浜国立大学客員教授などを経て、2023年度より現職。地域志向型インターンシップ ネットワークinいわての立ち上げメンバー。

穴田 光宏
岩手大学 地域協創教育センター 客員准教授
東京農業大学卒業後、岩手県岩泉町に移住。2016年に岩泉町まるごと営業本部にて、地域志向型インターンシップを立ち上げ。2019年より一般社団法人KEEN ALLIANCEにて岩泉町移住コーディネーター。同時に2024年7月より岩手大学地域協創教育センターにて、地域×キャリアデザインプログラムを担当する。

田中 稲子
横浜国立大学 大学院都市イノベーション研究院 教授
2000年に東京工業大学大学院にて博士(工学)の学位取得後、日本学術振興会・特別研究員、名古屋工業大学・助手を経て2007年に横浜国立大学に着任。2022年4月より同大学大学院都市イノベーション研究院・教授に就任。現在は、建築環境工学分野の研究・教育に従事、地域連携推進機構・機構長、副学長(地域担当)を務める。

長い時間と全員の協力で大きく成長したプログラム

「第8回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」の「低学年キャリアデザイン賞」の受賞、おめでとうございます。受賞された感想をお聞かせください。

船場:「低学年キャリアデザイン賞」が新設された年に受賞できたことは、本当に光栄で心から嬉しく思います。最初から完璧なプログラムだったわけではなく、学生や地域の皆さまが楽しみながら学び合い、気づきを重ねて少しずつ形になってきました

だからこそ、今回の評価は非常に意味があると考えています。このプログラムの素晴らしさを改めて感じることができましたし、私自身、岩手大学から横浜国立大学、駿河台大学と籍を置く大学は変わっても関わり続けられたことを誇りに思っています。

穴田:記念すべき最初の年に受賞できたのは、私も非常に嬉しいですね。正直、応募しようと思った時は、受賞は厳しいのではないかと感じていました。しかし、資料を整理しながら改めて振り返ると、ローカルなものとして始めた私たちの取り組みは、まさに低学年に価値のあるプログラムだったのだと再認識できました

田中:岩手県で学生たちを支えてくださる皆さま、そして、この取り組みを立ち上げ、きめ細やかに伴走してきた船場先生や穴田先生のお陰で、横浜国立大学の学生たちはのびのびと地域の農業や産業を体験し、課題に直接触れることができています。携わってくださった皆さま全員に、心から感謝の気持ちを伝えたいです。

地域課題から生まれたプログラムの原点

穴田先生のお話にあったように、初めはローカルな取り組みだったということでしたが、このプログラムの始まった背景はどのようなものだったのでしょうか。

穴田:最初は岩手県内の一部だけで行っていたローカルな取り組みでした。背景には、人口減少など地域の課題があり、地域の外から若者をどう呼び込むかというテーマが長らくありました

私自身、学生時代に岩手県の岩泉町を訪れた経験から、岩泉町への移住や仕事に至ったこともあり、学生の頃に関わればより記憶に鮮明に残り、将来の移住や関係人口の増加につながるのではと考えました。

そこで、岩泉町役場に声をかけ、一緒に岩手大学へ相談に行き、そこから船場先生たちとこのプログラムの原型となる取り組みを立ち上げました。

船場:岩手大学に勤務していた当時、大学としても、大学がある盛岡周辺に学生のインターンシップ先が偏ってしまう課題がありました。また、岩手県内には魅力的な企業が数多くありますが、小規模な企業が多い上、岩手は広いので宿泊が必要なため、単独でインターンシップを組む難しさもあったのです。

そこで、自治体が中心となって地域ぐるみで学生を受け入れる仕組みが必要だと考えていました。泊まり込みで様々な企業や産業を体験し、夜は学生同士で振り返りを行う。穴田先生から相談のあった内容はまさにその課題に向き合ううえでぴったりでした。

田中:その後、船場先生が横浜国立大学、駿河台大学と職場を変えていく中で、首都圏の学生も参加するプログラムに成長してきました。

地域での就職は働くことに加え、その土地で暮らすということ

では、実際のプログラムの特徴についても教えてください。

船場:基本は5日間程度、学生たちは自ら選択した岩手県内の自治体に滞在します。日中はそれぞれの地域に根ざした企業や事業所で実習や見学を行い、夜は宿泊施設に戻って参加した学生たちで振り返りをしたり、交流を深めたりします。

また、休日には地域を散策したり、地域のイベントの手伝いをしたりといった体験もあり、インターンシップのように働くことを経験するだけでなく、その地域での暮らしまで体験できる点が大きな特徴です。

参加した学生の話を聞くと、「地域の人たちに本当に良くしてもらえた」「今までこれほど充実した1週間はなかった」といった声もあり、地域で働く、暮らすことへの関心が高まっていることがわかります。

穴田受け入れる自治体や企業としても、若い人たちが来ると喜んでもらえますからね。自治体の首長や企業の社長がわざわざ学生たちのために時間を用意して話してくれたりすることも、学生にとっては新鮮な体験のようです。

また、葛巻町はエネルギーや酪農、一戸町は農業、二戸市は企業連携と、自治体によって体験できる内容が異なる点も学生たちは魅力を感じています。

田中:横浜国立大学では2017年からこのインターンシップへの参加が始まり、今では「地域課題実習」という全学教育科目の1プロジェクトに位置づけられています。農業や漁業といった第一次産業の抱える課題、震災の記憶など、都市部ではなかなか出会えないテーマに触れられるのも魅力に感じているようです。その後の大学での学びや将来を見つめ直す良いきっかけにもなっています。

穴田:迎え入れる地方の立場からしても、ここ数年、首都圏の学生の地方への関心が高くなっていることや、第一次産業へのハードルが逆に低くなっていることには驚いています。

船場:駿河台大学の学生の中にも、このプログラムへの参加を通して農業関連の企業への就職を考え始めた学生もいました。また、3大学が連携して行うプログラムにまで成長したことで、学生たちは地域の人たちとの関わりだけでなく、他大学の学生とも関わることができ、その点もこのプログラムの大きな特徴になっていると思います。

学生と地域をつなぐ運営の知恵とは

では、このプログラムを運営していく上での難しさはありますか。

田中:現地での失敗も含め、学生自らが学びとることが重要ですので、教員は前に出すぎないよう心がけていますが、その分、地域の方々に心労をお掛けすることになっているのも事実です。それでも、学生達を温かく導いてくださる皆さまには感謝するばかりですし、先輩達も同じように感じているはずです。失敗も含めた先輩達の経験知を次へつなぐ場を絶やさないことも大切だと思っています。

穴田:低学年の学生を対象にすることの難しさもあります。高校から大学へ上がったばかりの1年生や2年生にとっては、まったく知らない地域社会に飛び込むこと自体もハードルが高いと感じます。しかし、その分得るものが大きいことも事実です。だからこそ、大学側も事前の準備や事後の振り返りを丁寧に設計して、地域と連絡を取り合いながら、安心して挑戦できるように工夫しています。

船場:もう一つは自治体の負担です。宿泊や送迎、食事の提供など、学生を受け入れるにはどうしてもコストがかかります。それでも学生に来てほしいと地域の皆さまが尽力してくださっているおかげで、このプログラムは成り立っています。私たちもその思いに応えられるよう、事前・事後の学生とのコミュニケーションには力を注ぐ必要があります。

学生と地域全体を点ではなく面でつなぐ

—このプログラムをさらに発展させるにあたって、今後の展望や挑戦したいことはありますか?

船場:これまでは夏に集中して実施してきましたが、一度きりの体験で終わらせない仕組みをつくりたいと考えています。たとえば、首都圏で開かれる自治体フェアへの協力や、追加調査、発表の機会など、体験後も学生が関われる場を増やしていきたいです。

穴田:とはいえ、プログラムを受け入れる地域を無理に拡大する予定は現在ありません。大事なのは、関心を持って自然に手を挙げてくれる地域が増えていくことです。その中で学生の需要に合わせて受け入れ枠を調整し、持続的に続けていくことを目指しています。

田中:私たち教職員が細かく作り込みすぎず、体験した学生が課題や次の取り組みを考えていく余白を残すことが大切だと思っています。余白があることで学生たちも、自分たちで考えたり、動いたりする楽しみも責任感も生まれると思うのです。

穴田:余白を残すのは、地域の皆さまのためにも大切です。自治体ごとに自分たちでプログラムを考える余白があるからこそ、一生懸命やってくださるのだと思います。こうした考え方は、今後も大切にしていきたいですね。

最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。

田中:学生はモチベーションさえあれば自ら動きますので、大学はその入口を作ることが大切だと考えています。現場での学びは、学生にとって想像以上に強いインパクトがあります。

船場:学生は私たちが思っている以上に地方に関心を持っています。でも、現状では地域の情報にアクセスしにくいのも事実です。地域としてもまずは機会を作ることが重要で、岩手県に限らず、地方で暮らし、働くという選択肢を取りやすくするために、積極的にサポートしていくことが必要だと思っています。

穴田:どうしてもインターンシップというと、特定の企業や事業所、いわば点とのつながりに目が向きがちになってしまうのではないでしょうか。しかし、低学年向けのキャリアプログラムでは、点ではなく面として地域全体とつながることが大切だと考えています。

そして、働くことだけでなく、その地域で暮らすことを伝えるには、自治体や住民との関わりが不可欠です。大学が地域としっかり結びついて進めることで、安心して継続できる良いキャリアプログラムが生まれるのだと感じます。

船場:各地域でこのような取り組みが増えていくことになれば、私たちも嬉しく思います。そして、皆さまとの情報交換もできればと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

Editor’s Comment

専門性を深める前段階にある学生が、漠然としたキャリア意識の中でも主体的に学べるよう工夫されている点が印象的でした。大学・自治体・企業が協働し、社会課題の解決や教育的視点、キャリア形成など多面的な要素を取り入れながら、学生一人ひとりの問題意識に応じた学びが自然に生まれるよう設計されています。お話を伺う中で、低学年だからこそ可能な、柔軟で多様な学びの場づくりの重要性を改めて感じました。
(キャリアデザインプログラムアワード 実行委員長:久保)

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