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大学事例|理論と実践を重ね自分の人生を自分で創造する力を養う|大阪大学

外国語学部を有する唯一の国立総合大学である大阪大学は、社会と共鳴しながら共創活動を続けています。1838年に開学した適塾を前身とし、我が国6番目の帝国大学として1931年に創設。世界最先端の工学や医学などの学部をはじめ、11学部を有する研究型の総合大学としても名を馳せています。また、キャリアセンターでは、理論と実践のダブル・スパイラル型のキャリア教育支援に力を入れているとのこと。そこで今回は、キャリアセンターの副センター長である家島氏に、学生と社会の架け橋を築く大阪大学独自のキャリア支援についてお話を伺いました。

Profile

家島 明彦
大阪大学 キャリアセンター 副センター長 / 准教授
大阪大学人間科学部人間科学科を卒業後、京都大学大学院教育学研究科の修士課程を修了。米国シカゴのノースイースタン・イリノイ大学心理学部のVisiting Scholarを経て、京都大学大学院教育学研究科の博士後期課程を学修認定退学し、島根大学キャリアセンターでの経験や海外の研究大学のキャリアセンター視察を活かし、大阪大学にキャリアセンターを立ち上げる。大阪大学教育学習支援センター講師などを経験したのち、2019年7月より現職。公認心理師(国家資格)、キャリア・カウンセラー(日本キャリア教育学会認定資格)、島根県ふるさと親善大使、松江観光大使、俳優など様々な資格と肩書を持つ。

緻密に考え抜かれたキャリア支援を実施

早速ですが、まずは2つの柱を持つ「ダブル・スパイラル型のキャリア支援」について詳しく教えていただけますか。

理論に基づいた学問を学ぶキャリア教育と、学んだことを実践的に活かす就職支援を組み合わせて行っているのが、大阪大学独自のダブル・スパイラル型のキャリア支援です。

正課(単位が出るキャリア教育の授業)と正課外(単位が出ない講座や就職支援のセミナーやガイダンス)を連動させたキャリア支援と言うこともできます。正課(単位が出る授業)としては「現代キャリアデザイン論Ⅰ」などのキャリア教育科目を実施しています。

そこでは人生100年時代を生き抜くための知識・技能・態度を学生に修得してもらうことを目的としています。一方、正課外(単位が出ない講座)としては「就職・キャリアガイダンス」など各種セミナーやガイダンス、学内合同説明会などの就職支援イベントを実施しています。

また、もう1つのポイントは、この両輪を同じ人間が設計・担当しているということです。私が研究者・教育者・実務家としてデータに基づくキャリア教育の授業を行うと同時に実践的な就職支援イベントも企画し、学生たちのキャリアを2つの軸から支えられるようにしています

なるほど。ちなみに、今お話に出てきた「現代キャリアデザイン論Ⅰ」とはどのような授業なのでしょうか。

「現代キャリアデザイン論Ⅰ」は2単位の授業なので全15回ですが、ここでも理論に基づく回と実践に基づく回を設けています。同時に、インプット中心の回とアウトプット中心の回も設けています。

まず、理論に基づくインプット中心の回では、キャリアを考えるうえで必要となる基礎知識や理論を学術的に学びます。続いて、理論に基づくアウトプット中心の回では、学術的に開発された職業興味検査や心理テストを活用して自己理解を深めます。

そして、実践に基づくアウトプット中心の回では、実際に起こった事件を題材に学生同士でディスカッションを行います。さらに、実践に基づくインプット中心の回では、社会人ゲストによる具体的な生き方・働き方の話を聞く機会を設けます。

また、この授業は全学部・全学年が対象なので様々な学部・学年の受講生と交流ができます。毎回グループワークを行うので授業を通して交流も自然と増え、学部・学年を超えた人脈も視野も広がり、自分自身の価値観に気づき、自己理解をより深められる場になっています。まさに、“自分の人生は、自分で創る!”ための力をしっかり身につけることができる授業なのです。

選べる時代だからこそ自分で選択する力を

就職活動に関する学生へのアンケートも実施されたそうですね。どのような結果が出たのでしょうか。

学生にアンケートを実施したところ、7割から8割の学生が就職に不安を抱えており、就職支援をしてほしいという結果が出ました。というのも、結果を掘り下げてみると、実は学生の多くはこれまでの進路選択で悩んだ経験が少ないのです。

たとえば、大学は日本だけでも800以上ありますが、阪大生の場合、大学受験時に検討したのは片手で数えられるほどという学生も多いと思います。そういった阪大生が数年後に数多くの企業の中から自分に合った就職先を選んでいくのは、なかなか難しいことなのではないかと感じています。

だからこそ、自分とじっくり向き合い、自分で選ぶというプロセス自体を学ぶ必要があるのです。とくに、今の時代は昔とは異なり、どう働きたいか、どう生きたいのかということを自身で考え、自分の将来を自分で構築する必要がありますからね。

今は自分のキャリアを、自分で構築しなければならない時代だということですね。

そうです。自分で選ぶことができる自由な時代です。しかし、裏を返せば、自分で選ばなければいけない時代でもあります。

自由というのは、freedomではなくlibertyです。長い歴史の中で勝ち取った自由。つまりそれは、私たちが自由に職業を選べるという権利です。

その権利はしっかり行使していかなければいけない一方、学生たちは高校までの教育の中で、自分がしたい職業の探し方もキャリアの選択肢も学ばないまま、大学に進学しています。

だからこそ、大学でキャリア教育を行っていくべきだと考えています。それも職業教育、つまり、ある職業になるための専門的な教育だけではなく、ワークキャリアを含めたライフキャリアの構築を手助けするキャリア教育が必要なのです。

就職先の選択は悔いなく賢く生きるため

海外の研究大学も多く視察に行っていると伺ったのですが、日本と海外の違いについて、また日本の就職の現状について教えていただけますか。

日本は新卒一括採用があるので、就職率はとても高いですよね。アメリカの有名大学でも新卒の就職率が半年後で40%ほどのところもあると知り、日本の就職活動事情が独特であることを再確認しました。

しかし、数字が高いから良いというわけではなく、しっかり自分のキャリアを考えて選んだのかどうかが重要なわけです。自分で情報を得て、やりたいことを自ら見つけて選んだ企業や職業であれば、簡単に気持ちが揺らぐことはありません。

しかし、そのプロセスを経ていない人は、自分に合っていないのではないか、もっと自分に合う会社があるのではないかという思いに駆られ続け、転職や離職という道を安易に選択しがちです。

とはいえ、転職自体も良い悪いではなく、自分に合った生き方を選んでほしいということです。ジョブ型やメンバー型といった企業の雇用形態の選択も同じです。自分にはどちらが向いているのか。学生は、自分で調べて考えて行動しなければなりません。

厳しい現実も知ったうえで学生本人が選ぶのなら、後悔はないと思うのです。私たちは、学生がそういった悔いなく賢く生きるための支援こそ、行っていくべきではないでしょうか。

学生をひとり残らず支援するために挑戦し続ける

今後挑戦したいことはありますか。

これは私個人の密かな野望なのですが、キャンパス内で就職活動が完結できるように、産学共創を象徴するようなキャリアセンター棟を建てたいと考えています。

たとえば、その建物内にある机ひとつとっても、机が完成するまでにどんな企業が関わったのかがわかるような仕組みにしたいですね。備品のすべてに関わった会社のロゴがデザインされていて、自分たちの生活がどれほどの企業に支えられているのか、実感できるような場所です。

また、これも私個人の密かな野望なのですが、大学生データベースであり大学生のためのキャリア形成プラットフォームでもある「大学生キャリア形成プラットフォーム」(仮称)も作りたいです。

大学生を採用したい企業とその事業に興味がある学生、もしくは留学やボランティアを募集している先と行きたい学生など、様々なマッチングやキャリア形成機会提供の可能性が考えられます。賛同して資金や技術を提供してくださる方の連絡をお待ちしております。

最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。

やはり、キャリア教育を行ううえで、データはとても重要だと思います。自分の経験だけで伝えるのではなく、データに基づいた授業を行い、さらに教職員もデータのリテラシーを高めることが大切なのではないでしょうか。

イメージや数字に騙されないスキルを身につけ、学生のキャリア支援に尽力していければと思います。そして、入学してきた学生をひとり残らず支援しましょう。そのためには、大学間の連携や切磋琢磨も必要です。ぜひ、一緒に全力を尽くしましょう。

Editor’s Comment

「就職活動に不安を持っていないのでは?」という学内外のイメージに疑問を持って行ったアンケートでは、学部学生、修士、博士含めて7~8割が不安を抱えていることが分かり、家島先生の「大学選択時に調べて絞り込んで選ぶ」という経験が少ないことが職業を選ぶという就職活動への不安に繋がっている可能性がある、というお話には目から鱗でした。
そして国内外のキャリア教育の知見を学生に還元することに熱意を持っておられ、正課でも正課外でもキャリア教育支援プログラムの実施を意欲的に進めており、「将来はキャリアセンター棟を建てたい」という野望も、実現は決して遠い未来の話ではないと強く感じました。
(マイナビ編集長:高橋)

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