1876年の札幌農学校開校を創基とし、長い歴史と幅広い学術領域を有する北海道大学は、12学部・21大学院を有する国立の総合大学。「HU VISION 2030」を掲げ、高度な専門性と幅広い知識・スキルを身につけ、グローバル社会や地域社会で活躍できる人材の育成を目指す大学です。学部から博士課程までを一貫して支えるキャリア支援体制の整備を目指し、専門性と汎用性、個別の学生への最適支援と全体制度設計の両立を図る取り組みを行っているといいます。今回は、低学年次からのキャリア支援、博士人材の育成、多様な学生へのアプローチなどについて、2001年より北海道大学で教鞭をとり、2022年からキャリアセンター長を務める亀野氏にお話を伺いました。
Profile

亀野 淳 氏
北海道大学 キャリアセンターセンター長/高等教育推進機構教授
1987年に労働省入省後、中央官庁において雇用政策の立案、労働市場の分析などに約9年間従事。その後、民間シンクタンクに5年間勤務した後、2001年より北海道大学に勤務。教育と職業の関連性などについて研究を行うとともに、学内においてはキャリア教育やインターンシップの拡充などにあたる。2022年よりキャリアセンター長を兼務。
学部生から始める支援が選択の自由を拓いてゆく

―まずは、北海道大学で博士課程までを視野に入れたキャリア支援を掲げている背景について教えてください。
北海道大学は、研究大学として博士人材を社会に送り出すという使命があります。しかし、まだまだ博士課程まで進む学生は限られています。
日本全体としても、海外と比べて博士課程に進む学生の少なさや博士人材の就職先の懸念などが課題となっていますが、その原因の一つとして、学生の情報不足や博士を取ったその先のキャリアが見えづらいことが挙げられるのではないでしょうか。
だからこそ、私たちは学部生のうちから、キャリアの選択肢として博士という進路の価値をしっかりと伝え、学士課程から博士課程までの一貫したキャリア教育を意識的に設計しています。
―具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
まず、入学者全員を対象とした「北大での学び」というオンデマンド授業。これはキャリアに特化した内容ではなく、大学の理念や研究の進め方、研究倫理、学生生活の基礎など、大学で学ぶ意味を幅広く伝えることを目的としています。
ただ、その中の1コマにはキャリアについて考える回を設けており、社会が求める人材像や大学で得られる力の活かし方などを早い段階から伝えています。
また、北海道大学出身のOB・OGが学生時代の経験や現在の仕事について語る動画や、リアルに卒業生との意見交換の場も設けるなど、低学年のうちから、なぜ学ぶのか、その学びがどう社会とつながっているのか、といった問いに向き合うことができる環境を用意しています。
仮説から始める社会を知るためのインターンシップ

―低学年でインターンシップも推奨しているとお伺いしました。
そうなんです。インターンシップというと、どうしても就職活動の一環というイメージが強いと思います。ですが、北海道大学では、1年生のうちからの参加を積極的に勧めています。
就職活動としてではなく、まずは視野を広げるための経験として活用してほしい。やりたいことがまだ決まっていなかったり、社会のことをよく知らなかったりする時期だからこそ、早い段階で社会に触れることに意味があると思うのです。
とはいえ、低学年のうちは、何を目的に行けば良いのかわからないと不安に感じる学生も少なくありません。そこで私たちは、参加前に仮説を立てるという仕掛けを取り入れています。
―どういった仮説を立てているのでしょうか。
仮説を立てて、現場で検証し、考察する。このプロセスは、研究と同じです。たとえば、「この企業はきっとこういう価値観を大事にしているのではないか」や「自分の強みがどう活かせるのか」といった仮説を、学生自身に考えてもらいます。
大切なのは、正しい答えを出すことではありません。自分なりの問いを持ってインターンシップに参加することです。それによって、インターンシップが、単なる体験で終わるのではなく、自分なりの発見が生まれる場に変わるのです。
さらに、終了後には「その仮説はどうだったか」と振り返る機会を設け、このプロセスそのものが学生にとっての学びと成長の機会になるよう設計しています。
型にはめずに自分で考える力を育む支援を

―では、学生のキャリア支援をしていくなかで、課題だと感じていることはありますか?
実際に支援していて強く感じるのは、学生一人ひとりの意識の差が非常に大きいということです。北海道大学には、学ぶ領域も将来の希望進路も多様な学生が在籍しており、キャリアに対する意識の濃淡も様々です。
積極的に動いている学生がいる一方で、何から始めればいいのかわからないと不安を抱え、なかなか一歩を踏み出せない学生もいます。
学部を卒業して就職する者、修士課程に進学し就職する者、博士課程に進学して様々な道を歩む者など進路の幅も広がっていますし、さらに日本での就職を希望する留学生も年々増加しており、すべての学生に共通するキャリア教育を体系的に整備するのは、決して簡単なことではないと感じています。
―そういった課題に対してどのようにアプローチしているのでしょうか。
キャリア支援において、私たちが何より大切にしているのは、学生一人ひとりに丁寧に向き合うことです。学生の悩みは、本当に千差万別です。
たとえば、博士課程への進学を考えていた学生が途中で就職に切り替えたり、逆に修士で就職する予定だった学生が、研究の魅力に惹かれて博士進学を目指すようになることもあります。
こうした進路の迷いにこそ、寄り添う支援が求められます。そのため、個別に対応できる面談や相談窓口では、その場しのぎのアドバイスではなく、学生自身が言葉にして考え、納得して選び取れるよう、じっくり対話を重ねるようにしています。
自分で考え、自分で選んだ道こそが、きっと将来の糧になるはず。私たちは、学生に直接、答えを与えるのではなく、一緒に考える姿勢を大切にしています。
意思決定する力を育てること。それが、私たちの考えるキャリア支援の本質です。キャリアには、こうすれば上手くいくという決まった型はないと考えています。だからこそ、私たち支援する側も、常に学生の悩みに向き合いながら、共に考え続ける姿勢が求められていると思います。
連携の力で日本の課題に向き合えるキャリア支援

―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
キャリア支援は、すぐに成果が見えるものではありませんし、大学ごとに抱える課題も異なると思います。さらには、博士人材の減少といった問題は、大学だけでなく、企業や日本社会全体にとっても共通の課題です。
だからこそ、大学間での連携はもちろん、企業など多様な関係者とも意見を交わしながら、学生が充実した学生生活を送れるよう支援していきたいと考えています。互いに連携し、支え合いながら、より良いキャリア支援を目指していけたらと思っています。
Editor’s Comment

大学全体のビジョンをふまえ一貫したキャリア教育を行うことと、学部生~修士~博士と多様な学生をフォローすること。亀野先生がお話しされていた「一貫性と多様性の両立」については、学生のキャリアを考える人材にとって共通の命題だと感じました。
また、インターンシップにより積極的に取り組んでもらうために、インターンシップ参加前に問題意識の明確化、さらに研究手法を応用して「仮説」作りを促進しているとのお話が、研究とキャリアのつながりが見え、とても印象的でした。
(マイナビ副編集長:谷口)
「マイナビキャリアサポート」は
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