1966年、医学者である冲永荘一氏によって創設された帝京大学。全国に5つのキャンパスを有し、医学部、薬学部、医療技術学部は板橋キャンパスに集っています。キャンパスには附属病院が隣接しており、チーム医療を実践的に学習できる環境で、即戦力となる人材を養成。また、教育理念である「自分流」という考えのもと、学生一人ひとりが職業人として自律できるキャリア教育に力を入れています。今回は、薬学部特有のスケジュールを考慮しながら、学生たちと伴走するキャリア支援に取り組む、薬学部の教授兼薬学部就職委員会委員長の黄倉氏にお話をお伺いしました。
Profile
黄倉 崇 氏
帝京大学 薬学部 製剤学研究室 教授
静岡県立大学 薬学部卒業、同大学大学院 博士課程修了後、アリゾナ大学の博士研究員などを経験し、2004年から帝京大学へ。2019年から薬学部就職委員会の委員長も務める。
働き方も生き方も多様に広がる薬学部のキャリア
―黄倉先生は製剤学の教授でいながら、薬学部就職委員会の委員長も務めていらっしゃるんですね。
帝京大学では、学部・学科ごとに教員とキャリアサポートセンターの職員が連携し、就職委員会を組織しています。その薬学部の委員長を、2019年から務めています。
心掛けているのは、薬学部から広がる進路の多様さを伝えていくことです。多くの学生が薬剤師を目指して入学しますが、進路としては医療現場での薬剤師はもちろん、メーカーもあれば、治験会社も行政もある。そして、進学し研究に従事する人もいます。
薬学部卒業生の選択肢は、仕事も役割も、そして働き方も、思っている以上に多種多様なんです。たとえば、薬剤師という職種をとっても、総合病院の薬剤師は急性期の患者さんを対応します。一方で、薬局の薬剤師は長いスパンで患者さんにかかわる。もしかしたら、看取るというところまでお付き合いするかもしれません。
また、薬局でも経営方針はそれぞれに異なります。地域医療を目指している薬局もあれば、高度医療を目指しているところもある。さらに、そこに日々変わる社会ニーズも影響してきます。もちろん、私たちも国の方針も含めて、最新情報を授業にアップデートしています。
新卒として社会へ出る前に、そのような幅広い選択肢があることを理解し、知識や技術を身に付けていってほしいですね。そして、独自の仕事観や価値観も養ってもらいたいです。
実務実習や国家試験と両立させる
―そのような視点を入学時から持っている学生は少ないかと思いますが、どのように視野を広げていくのでしょうか。
まず、各学年の始まりに開催される新年度ガイダンスでお話しさせてもらい、来年度新入生からライフデザイン演習が必修科目としてスタートします。そして、本格的にキャリア教育へ臨んでいくのは4年生から。4年生は、2月後半から実務実習や卒論実習に取り組みます。そこに備え、1〜2月に1回目の就職ガイダンスを開催。業界の動向について学んでもらっています。
そして、3月には病院への就職を希望する学生に向けてのガイダンスを実施。もともと病院で採用担当をされていた先生が、病院薬剤師の動向や病院をどのような観点で見ていくかをお話ししてくださいます。
さらに、5月には附属病院から薬剤部長にお越しいただいて、最新の状況もご紹介いただいています。また、5月にもうひとつ。こちらは全学生対象で「卒業生による講演会」が開かれます。薬剤師はもちろん、メーカーや公務員といった各業界で活躍する卒業生が登壇しますね。
そして、いよいよ秋からはエントリーシートや面接対策、また「卒業生との情報交換会」も開催しています。この情報交換会で先輩の話を聞き、就職活動のスイッチが入る学生も多いようです。
そのため、私たち就職委員会のメンバーも、薬剤師だけでなく、できるだけ幅広い職種の卒業生に参加してもらえるよう注力しています。
企業規模も大手から中堅まで幅広く、また長いキャリアが描けるよう、年代も若手から経営層にあたる方々にまで依頼しています。おかげさまで、実施後の学生アンケートは好評ですね。
―薬学部ならではのスケジュールですね。
22週間の実務実習があること、そして国家試験が控えていることが大きいかもしれません。ただ、実習はインターンシップよりも長期で濃い経験ができるので、否応なしに働くことを意識できたりするんですよ。そういう視点で実習先を見ている学生もいますね。
今年度から各々が実習で経験したこと、学んだことを共有する場が設けられます。
また、4~6年生で取り組む卒業研究も、キャリア教育という意味でも大きく意義があると思っています。卒業研究の成果が学会や論文として発表されることがあります。つまり薬学教育で本物の研究を経験できるんですよね。薬学教育における究極のアクティブラーニングではないでしょうか。
学生は「自分流」で羽ばたいてほしい
―授業や実習、そして就職活動と忙しい学生たちですが、どのような思いでキャリアを描いてほしいですか。
帝京大学の理念である「自分流」でしょうか。自分のなすべきこと、興味あることを見つけだし、自ら修得する知識、技術を力として行動する。そして、その結果に責任を持つ。その力を身に付けるためには、やはり机上だけではなく、どれだけ実際に動いて学ぶかが重要ですよね。
この考え方は、私の授業でも目標として掲げていますが、キャリアを築くうえでも大切です。そのような意識で、実習も卒業研究も、そして就職活動にも臨んでほしいですね。
―そのために、支援としてさらに取り組んでいきたいことはありますか。
毎年、卒業生に対して本学の教育やキャリア支援についてアンケートを取っています。その精度をあげて、支援に反映させていくことを目標としています。量としては、卒業生ということもあり、現状は3割程度の回収率。ここを大幅にあげていきたいですね。
そして、量だけでなく質も向上させるため、社会で役立った教育や支援についても生の声を聞きたい。一歩踏み込んだ内容にしていこうと思っています。
さらに、企業からご意見をいただく仕組みもつくりたいと考えています。それらをリアルなエビデンスとして、企画の立案やブラッシュアップに活かしていく計画です。
薬学部の課題に連携して向き合いたい
―では、最後に。他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
薬学部のキャリア支援は、薬学教育と表裏一体です。そして、私はその先にある医薬の業界をよくしていくことも重要だと考えています。薬剤師の魅力を高め、研究の質をより洗練させていく。それが医療界へのさらなる貢献につながるはずです。
そして、きっとそれはキャリア支援や薬学教育にもよい形で返ってくると信じています。そのように業界の動向とも密接にかかわる薬学部のキャリア支援は、なかなか難しい部分もあると感じています。
他大学の皆さまも、同様の悩みを抱えておられるのではないでしょうか。そのような課題に対して、ぜひ連携させていただき、支援のよりよい循環をつくっていけるとよいですね。
Editor’s Comment
取材させていただき、終始明るい笑顔を絶やさず、薬学部の学生に対するキャリア支援や薬剤師の未来について情熱的に語られていた姿が印象的でした。
社会の変化が急速に進み、薬剤師の求められる役割も多様化している中で、大学の教育理念である「自分流」を基に、学生が主体的なキャリア選択をできるようにするにはどのような力を身につけさせればよいか、といった課題にも取り組んでおられました。
薬を扱う学生、服用する患者さんだけでなく、薬剤師の未来にも目を向けていると感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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