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学生たちが「キャリア自律」の時代を歩んでいくために|多摩大学 初見准教授

学生の社会的・職業的自立に貢献したキャリアデザインプログラムを表彰する「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」。文部科学省、厚生労働省、経済産業省による、いわゆる三省合意で、キャリア形成支援プログラムの在り方が見直されてから初開催となった今年度。694法人​770プログラムが集まり、あらためて学生のためになるプログラムを考えるよい機会となりました。表彰式を含めた「キャリアデザインカンファレンス」では、多摩大学の初見氏によって「キャリア形成活動と卒業後の活躍について」と題し講演いただきました。キャリア支援を大観的にとらえた調査と分析について、本記事でも、初見先生へのインタビューを通してご紹介します。

Profile

初見 康行
多摩大学 経営情報学部 准教授
大学卒業後、人材業界で法人営業や人事業務に従事。2017年、一橋大学大学院商学研究科にて博士号を取得。2018年より現職。専門は人的資源管理。大学生のインターンシップ活動に関する研究に取り組んでいる。主著に「若年層の早期離職」(中央経済社)、「人材投資のジレンマ」(日本経済新聞出版)など。2019年より「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」にて講演を担当している。

キャリアプログラムの効果を社会での活躍度で測る

―今回の調査テーマは、従来よりも大きな視点でキャリアをとらえたものだとお伺いしました。

以前から取り組みたいという思いはあったのですが、調査がなかなか難しいテーマでした。それが、マイナビ様のご協力のもと、とうとう実施できたんですね。どういうものかと言いますと、インターンシップをはじめとするキャリア形成プログラムの効果を、入社後の活躍度から測るというものです。

従来の成果指標である、プログラムや就職活動の満足度というのはもちろん重要ですが、卒業後の人生のほうが断然長く、学生にとってもそこでの活躍がより大切なはず。今回は、そこに踏み込むことができました。これまではどうしても卒業後の学生とコンタクトをとることが容易ではなく、実現が難しかったテーマです。

具体的な内容を教えていただけますか。

まず、サンプル数はふたつ。ひとつは、第4回のアワード、当時は「インターンシップアワード」という名称でしたね。ここで調査した学生群。もうひとつは、文部科学省の科学研究費助成事業による調査をおこなった群です。在学中に調査した対象に、入社半年後にも追跡調査を実施。つまり、すでに在学中の活動結果はあるので、それと現在の活躍度を掛け合わせました。ちなみに、活躍度の指標としては「ワーク・エンゲージメント」を採用しました。

ワーク・エンゲージメントと社会人基礎力

―「ワーク・エンゲージメント」とは、何でしょうか?

「ワーク・エンゲージメント」とは、簡単に言うと「仕事に対するポジティブで充実した心理状態」です。
「活力」「熱意」「没頭」の3要素から構成されており、生産性向上やストレス低減、離職率の低下にも関わっていると言われています。今回は、日本において第一人者である、慶應義塾大学の島津先生の尺度(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度短縮版)を使用。入社半年後の社会人に、仕事への活力や誇り、夢中さという9項目を聞きました。そして、「ワーク・エンゲージメント」の結果と在学中の活動を照らし合わせ、統計的に有意なつながりを見い出すことができたのが「社会人基礎力」でした。

―経済産業省が提唱している、豊かな仕事をするのに必要な能力ですね。

その通りです。図表1は横軸に在学中の社会人基礎力、縦軸に入社半年後のワーク・エンゲージメントを配置した結果です。分散分析という統計手法を用いて分析した結果、「低群」と「中群・高群」の間に統計的な有意差(偶然とは考えにくい差)が確認されました。ちなみに、男性・女性や文系・理系に分けても同様の結果が得られています。つまり、属性に関わらず在学中に社会人基礎力を育成することが、入社後のワーク・エンゲージメントをポジティブに作用させるようです。

図表1:在学中の社会人基礎力と入社半年後のワーク・エンゲージメントの関係

就業体験を通してマインドも能力も高まっていく

―このメディアを読んでいる方々にとっては、興味深い結果ですね。となると、社会人基礎力向上の方法も気になります。

そうですよね。そこも、分析してみました。その結果、「自律的キャリア観」というワードが浮かび上がってきました。「キャリア自律」や「キャリアオーナーシップ」とも呼ばれますが、自分の職業上のキャリアを自主的・自律的に築いていく姿勢・態度です。これが、社会人基礎力と強く相関関係にあったのです。つまり、キャリア自律という「マインド」と、社会人基礎力という「能力」は、密接に関係している。卵が先か鶏が先かのように、どちらが先かの判断は難しいですが、私としては、多くの学生においては、自律的キャリア観というマインドが行動を促し、その結果、能力が向上していくと考えています。

そして、さらに一歩踏み込み、自律的キャリア観や社会人基礎力が高い学生がどのようなキャリア形成活動をしているのかも分析しました。最初に立てた仮説は3つ。早めに動くという意味での「時期」か、それとも行動の「量」か、はたまた「内容」なのか。結果として、「時期」はあまり関係なく、「量」は多少相関がありました。しかし、最も特徴的だったのは、キャリア形成活動の「内容」です。自律的キャリア観や社会人基礎力が高い学生は、「就業体験系(企業が提供している就業体験や仕事体験)」プログラムをより多く経験している傾向が確認されました。つまり、就業体験系を中心としたキャリア形成活動への参加が、自律的キャリア観・社会人基礎力をより高める可能性が示唆されたということです。

もちろん、これは就業体験以外のプログラムに意味がないということではありません。「キャリア教育系(大学提供のキャリア科目やガイダンスなど)」や「業界・企業研究・就活支援系(企業提供の業界研究や研究所訪問など)」も積極的に取り組めば、自律的キャリア観・社会人基礎力が向上することが確認されています。

また、この結果を受け、今後検討の必要があると感じたのは、「就業体験系」プログラムについて、じつは望んでも参加できていない学生もいるのではないかということです。通常、「キャリア教育」「業界・企業研究就活支援系」を経て「就業体験系」に臨む学生が多いと思いますが、企業側も労力がかかるだけに、まだキャパシティ(参加枠)が追いついていない状況がある。つまり、参加を望む学生全員に就業体験の機会を提供するのは難しいという課題が見えました。

自らキャリアをデザインする時代に求められる学びとは

―「就業体験系」プログラムの実施は、たしかに簡単ではありませんね。

そうですよね。加えて、低学年からキャリアを考えるという流れもあります。私は、個人的に、低学年からキャリア形成活動を開始した方が良いと考えているのですが、もしそうなった場合、企業の人事担当のみなさまにお悩みが出てくると思っています。例えば、低学年向けのインターンシップを企業が実施しても、直接「採用」には結びつかないかもしれません。また、それまで発生しなかった予算の獲得や社内の協力というものもより必要となるでしょう。そのためには、低学年に向けてのインターンシップは、自社にとってブランディングなのか、CSRなのか、はたまた若手社員の教育の一環なのかという、新たな価値を付加して、経営層に問う必要が出てくると思います。

―キャリア形成活動の低学年化は、大学にはどのような影響があるのでしょうか。

もちろん、むやみに低学年化をあおるわけではありません。就職活動の早期化につながらないよう、十分に気を付ける必要があります。しかし、インターンシップをはじめとしたキャリア形成活動は、大学での学習意欲を高める効果があることが明らかになっています。私としては、キャリア形成活動と大学の学びが、早くから連動していくと良いのではないかと考えています。たとえば、学外インターンシップで揉まれ、そこで感じたことを、学内の授業やゼミで取り組んでいく。言い換えれば、「学外での学び」と「学内での学び」を連動させ、学習の相乗効果を図っていくということです。実践を経て理論に臨み、また実践に活かす。そのような循環によって、キャリアも、学問も、いま以上に高めていけるはずです。

社会に目を向けると、「キャリア自律」という流れはおそらく止まりません。私自身も、全員が自らのキャリアをデザインしていくことは、じつは厳しい部分もあると感じています。しかしながら、そのような現実はたしかにあり、そのなかでも充実した人生を過ごしていけるよう多くの学生を送り出したい。簡単なことではなく、もしかしたら、その過程で自信を失う学生も出てくる可能性があります。そのような場合は、ぜひキャリア支援に携わるみなさまに、フォローしていただけましたら幸いです。ひとりでも多くの学生が、自己肯定感を高く持って社会に飛び立ち、充実したキャリアを歩んでいけることを願っています。

Editor’s Comment

弊社後援の「第6回 学生が選ぶ キャリアデザインプログラムアワード」の2023年5月のカンファレンスにてご講演された内容をふまえ、改めて初見先生へインタビュー取材をいたしました。
在学中の社会人基礎力の育成や、自律的キャリア観、また就業体験系のキャリア形成活動が、入社半年後のワーク・エンゲージメントを高めるということで、たいへん興味深い内容でした。
大学ではキャリア観をしっかり学び、インターンシップ等で実践する…というサイクルを回すことの重要性を改めて感じたインタビューでした。
(マイナビ副編集長:谷口)

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