立命館アジア太平洋大学は「自由・平和・ヒューマニティ」「国際相互理解」「アジア太平洋の未来創造」を基本理念として、学校法人立命館が大分県や別府市、国内外の関係者からの協力のもと、世界市民の育成を目的として2000年に開学。日本語と英語による二言語教育システムを展開し、国際学生(留学生)と国内学生がおよそ半数ずつ在学しています。国や文化、宗教、政治、価値観などが異なる世界の100を超える国・地域の若者たちが描く未来は、まさに地球規模。その広範囲かつ多様な進路を支えるキャリア・オフィスの篠﨑氏、竹林氏にお話を伺いました。
Profile
篠﨑 裕二 氏
立命館アジア太平洋大学 キャリア・オフィス 課長
大阪外国語大学 インドネシア語学科 卒業。銀行に12年間勤め、海外勤務も経験。立命館アジア太平洋大学に入職後は、数多くの部署を歴任し、2022年から二度目のキャリア・オフィスでマネジメントに従事。
竹林 誠悟 氏
立命館アジア太平洋大学 キャリア・オフィス
立命館アジア太平洋大学の1期生。卒業後は建築・都市設計会社の営業として活躍していたが、学生の夢や目標をサポートする仕事がしたいという想いから2007年に学校法人立命館へ入職。就職活動やインターンシップ、起業支援を担当。在学中、篠崎氏に指導を受けたことも。
100人の学生がいれば100通りの想いと志がある
―立命館アジア太平洋大学(以下APU)といえば、学生の多様性が特徴としてあげられます。国際的なキャリア支援を行う上での考えをお聞かせください。
篠﨑 :私たち自身がAPUを称する際に「小さな地球」なんて言ったりします。実際、在学生のおよそ半数が国際学生。しかも、その出身地は100カ国以上(2022年11月1日時点)に広がっています。もう半数の日本人学生においても、北は北海道、南は沖縄から集まってくるため、当たり前に習慣も文化も価値観もさまざま。
もちろん、キャリアの考え方もじつに多様です。在学中に就職先を探すという日本での当たり前は、他国では違う。世界的に見ると、大学を卒業してから就職先を検討するのも一般的です。また、同じアジアの国々でも、大学院に進んだほうが初任給やその後の給与にプラスとなる国も少なくありません。
そのような国ごとのキャリア観の違いの上に、さらに学生一人ひとりの想いと志がある。企業で働きたい、国際機関に勤めたい、はたまた自ら起業をしたい。そして、それをかなえる地は日本かもしれないし、フランスやケニア、ウズベキスタン、ペルー、アメリカかもしれない。まさに100人100通りのキャリア観に寄り添い、一緒に考えていくことが「小さな地球」でキャリア支援する私たちに求められることとなります。
国際学生の7割は世界中へ広がっていく
―きめ細か…という言葉にも括れないほど、丁寧さと根気のいる仕事となりそうですね。具体的にはどのような支援を行っているのですか。
竹林:キャリア支援のあり方からして、他大学と異なるかもしれません。APUの公用語は、英語と日本語。国際学生のほとんどは、日本語ができない状態で入学します。そのため、ガイダンスも、個別学生相談も英語と日本語の二言語で実施しています。日本の就職活動を英語で説明したり、海外就職においては英語と母国語を織り交ぜながら実施するというのは、他大学ではあまり見ない光景かもしれませんね。
また、体系的なキャリア教育としては、1回生から「キャリアデザイン科目」を設けています。何に喜びを感じ、何が人より得意で、何を将来深めていきたいのか。そして、ライフスタイルはどのようなものを望むのか。「自分らしい生き方」をデザインするために、ワークショップ形式で自分の価値観を深掘りしていきます。他には、語学の授業と連携して、日本企業が求める日本語能力検定の基準や海外で活躍している企業が求める英語力の話をしたりしますね。
―二言語でのキャリア支援が確立されているんですね。ちなみに、日本企業への就職を希望する国際学生は多いのですか?
篠﨑 :日本で就職するのはおおよそ3割くらいですかね。その他は出身国や他国で就職したり、大学院に進学をしています。一方で、国内学生は9割が国内で就職をしています。しかしながら、やはりグローバル展開している企業を志望する傾向にあり、そのような企業が集まる首都圏を目指すことになります。いったん国内で就職しても、転職や起業で海外に行くケースもよく聞きます。また、地域振興を志す学生も一定数いるので、九州や沖縄といった地方というケースもあります。
グローバルなインターンシップや起業プロジェクト
―就職を希望する場所が本当に広範ですね。インターンシップも行っていると伺いましたが、その場所も世界中になりますか。
竹林:企業と協定を結んだ上で行う、協定型インターンシップですね。もちろん、日本語で受け入れる企業とも数多く連携していますが、英語での受け入れ、もしくは現地語での受け入れの海外企業も開拓しています。幸い、開学から20年以上経ち、2万人以上の卒業生たちが国内外で活躍しているため、国内企業の駐在先や同窓会組織である校友会を通じて海外の企業を紹介してもらったり、時には直接海外企業に出向き営業するなど年々地域を拡げられています。マレーシアにインドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、インド、モンゴルなど。マイナス20℃の中、モンゴルの政府機関や企業を回ったのはいい思い出です(笑)。
また、国際機関であるUNITAR(国連訓練調査研究所)やJICA、JETROといった機構とも協定を結びインターンシップをはじめとした連携を実施しています。国連においても、現在の校友会代表が勤務されているということもあり、現役職員を招へいした講座も開講。他方では大学院進学支援にも注力するなど、国際機関に勤めるためには大学院レベルの専門性が求められることもあり、国内、海外大学院それぞれに対応した支援をしています。
―先ほど、起業を望む学生もいるとお伺いしました。そのような学生にはどのような支援がありますか。
竹林:近年、起業を志す国内学生が増えてきましたが、もともと国際学生の中には非常に多く、チャレンジする学生を応援するため2018年に「APU起業部」を発足させました。APUの教職員をはじめ、様々な創業支援機関様などの力を借りながら起業における各種講義や企画を実施し、毎年約50人の学生が参加。実際、世界中の工芸品やユニークな商品を販売するECサイト、日本人の英語力向上のためメタバース留学を提供するサービスなど、4年間で12件ほどの起業案件が誕生しています。
また、起業におけるAPUならではの強みは、国際学生、国内学生の双方の視点や考え、知識を化学反応させられること。当初は一人で取り組んでいた学生も、たとえば日本の法律だったり、現地の価値観だったりという壁にぶつかった時、それを乗り越えられる仲間といつの間にかグループで臨んでいたりします。
我が大学ならではのキャリア支援をつくり上げる
―多様な学生の、多様な進路を支えるお話が聞けました。さらに目指すところがありましたら教えてください。
竹林:せっかく多様な学生が集まっているので、より学生同士が交流し、切磋琢磨できる環境を整えていきたいですね。たとえば、それぞれが関心あるテーマについて議論し、そこに卒業生や教職員が加わっても面白い。キャリア・オフィスは、就職活動だけでなく、大学院進学や起業と多様なキャリアを支える場所です。今まで以上に、一人ひとりの想いと志に寄り添っていきたいですね。
篠﨑 :グローバルなキャリア支援において、私たちができることはまだまだあります。一方で、現在までの取り組みを再評価し、他大学や企業に還元していくことも大切だと考えます。以前、留学生の多い大学と情報交換をした際、どの大学もまだまだ模索中だと感じました。日本の大学だけでなく、海外の大学においても。私たちも特別なことをしてきたわけではありませんが、日英二言語でキャリア支援してきたノウハウと経験、そして世界中で切り拓いてきたつながりがあります。それらを共有し、発信していくことは、日本の力、ひいては世界の力になるかもしれない。
今、キャリア教育という分野にはありとあらゆるサービスがあります。それこそ、インターネットを開けば無数の情報やサポートを得られると思うのです。ただ、その中で、大学が提供すべきことは何か。APUが提供すべきことは何か。それぞれの大学が、それぞれの特色を発揮した人材育成を行っていく未来が描ければ良いと考えます。
Editor’s Comment
取材を終え、「開学以来、常に多様性を前提としたキャリア形成支援を続けられている」と感じました。2000年の開学当初から学生の約半数が100以上の国や地域から来た留学生のため、キャリア・オフィスの方々をはじめ教職員の皆さまも、私たちが日ごろ「当たり前」と考えていることが、留学生にとっては「当たり前」ではなくい状況で各支援に取り組まれています。さらに個々の学生が持つ価値観、文化的背景を考慮し、就職だけでなく、起業支援や地域貢献などに取り組む視線の先には常に世界があると感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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