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EdTechとは?注目される理由と日本での取り組み事例

EdTechとは?注目される理由と日本での取り組み事例

近年、教育支援において急速にIT化が進んでいます。こうした支援のなかの一つに「EdTech」があります。
この記事では、EdTechがどのような取り組みなのか、注目される理由や抱えている課題について詳しく解説します。

EdTechとは?

「EdTech(エドテック)」は、Education(教育)とTechnology(技術)の2つの単語を組み合わせた言葉です。成り立ちの通り、テクノロジーを活用して教育を支援する取り組みのことを指します。

EdTechのように、既存の業界のビジネスとAIやビッグデータ、IoTなどの先進的なテクノロジーを結びつけて生まれた新たな製品やサービス、あるいはその取り組みのことをまとめて「X-Tech(クロステック)」といいます。
ここでいう「テクノロジー」には、人工知能(AI)や仮想現実(VR)に加え、すでに一般的となったアプリケーションやソフト、デバイスといったツールも含まれます。

EdTechに該当する取り組みは多岐にわたり、具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 受験用のアプリなど生徒向けの学習支援システム
  • 教師のための授業支援システム
  • インターネット上で英会話やプログラミングなどを学習できるサービス
  • 学校利用を主眼に置いたSNS

eラーニングからEdtechへの変遷と歴史

ここからは、教育支援とITの歴史について解説していきます。

Edtechが注目されるようになるよりも前から、パソコンやタブレット、スマートフォンといった情報端末を利用し、インターネットで学習する「ICT教育」や「eラーニング」という取り組みが存在しました。
こうした取り組みにより、時間や場所にとらわれず「いつでも、どこでも、何度でも」教育を受けることができるようになりました。

eラーニングは2000年頃、大企業や一部の先進的な企業が研修に取り入れたことが普及のきっかけとなりました。
最初は文字を使った教材が主でしたが、技術の発展とともに映像や音声を使った教材が登場しコンテンツも充実していきました。さらに集合研修前の事前学習に取り入れられるなど、知識学習としても活用され始めました。
とはいえ当時は、「机の上のパソコンで見ながらeラーニングをおこなう」というのが基本であり、場所や環境に制限がありました。

転機となったのは、スマートフォンやタブレットの爆発的な普及です。
スマートフォンやタブレットの普及により、手元でコンテンツの閲覧が可能となり、eラーニングでは難しいとされてきた接遇マナーや新人スタッフの教育など、店舗や現場の教育にも対応し、学びの幅が広がりました。

そして現在では「Edtech」が、こういったICT教育やeラーニング、オンライン授業なども含めた取り組み全体を指す言葉として定着しつつあります。

EdTechの市場動向と今後の予測

日本の民間教育産業の市場規模は近年2.5兆円前後で推移しています。

昨今は人生100年時代ともいわれ、社会人も常に学び続ける姿勢が求められています。
そのため企業内の研修やリカレント教育でもEdTechの活用が広がっていくことが予想されます。

参考:経済産業省「参考資料(平成30年1月19日)」

EdTechが注目される理由と実施による効果

EdTechが注目されるのはなぜでしょうか。また、実施により得られる効果はどのようなものがあるのでしょうか。ここでは6つの点から説明します。

GIGAスクール構想の実現

EdTechが注目される最大の理由として、「GIGAスクール構想」の実現が挙げられます。
GIGAスクール構想とは、1人1台の端末と高速で安定した通信ネットワークを一体的に整備し、ICTを取り入れた新たな教育を実現する構想です。特別な支援が必要な子どもを含めて誰一人取り残さず、公平で個別に最適化された教育を目指すという取り組みです。
文部科学省のデータによると2021年度の段階で、ほとんどの小中学校に1人1台の端末が整備されました。高校でも2024年度末までに導入を終える予定です。

GIGAスクール構想が実現すると、学生の理解度や進捗状況に合わせた学習計画の作成、能動的に授業を受けるアクティブラーニングが可能になります。
また、感染症の流行などの影響で教室で一斉に授業が受けられないといった突発的な出来事が発生しても、学び続けられる環境を作り出せます。

このように、GIGAスクール構想によって学習環境が整備され、EdTechにより教育コンテンツを充実させることができれば、学生の学習効果を高めることができるでしょう。

GIGAスクール構想については以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

「GIGAスクール構想とは?目的やメリット、現状の課題」を読む

参考:文部科学省初等中等教育局「GIGAスクール構想の推進等の近年の教育政策の動向について」
参考:文部科学省初等中等教育局 修学支援・教材課「高等学校における学習者用コンピュータの整備状況について(令和4年度見込み)」

教育環境や機会の多様化

従来の授業形態は、児童生徒30〜40人に対し1人の教職員が同じ内容の説明をおこなう一斉学習の授業スタイルでした。
こうした授業スタイルの場合、受動的な態度で受講する生徒が多くなりやすく、加えて個々の理解度や学習進捗を把握しにくいという課題がありました。

しかしEdTechを活用できれば、こうした課題の解決につながるかもしれません。
例えば、VRを用いることで今まで実現できなかった体験型の学習機会を設けられるようになり、より主体的で実践的な環境を用意できるようになります。
また、タブレット端末を利用して学習進捗の管理をおこなえば、指導側はそれぞれの児童生徒が今どのような学習進捗にありどのぐらい理解しているかすぐにわかります。

状況に応じて先取り学習や復習ができるため、生徒一人ひとりの興味やつまずきに気付きやすく、適切な指導が可能になるでしょう。
さらに自宅でも授業の動画を見られるようになれば、わからないところを何度も繰り返して学習できます。

こうしたオンライン学習による的確な指導と場所を問わない学習の機会が、「一人も取り残さない教育環境」の実現につながります。

IT化・グローバル化にともなう教育方針の変化

IT化やグローバル化にともなう国の教育方針の変化も、EdTechが注目される理由の一つとして挙げられます。
文部科学省は、社会の変化を見据えて2020年度から2022年度にかけて学習指導要領を改正しました。
これにより小学校でプログラミングが必修化されたほか、英語教育の充実を目指すカリキュラムが追加されました。

また学習指導要領改正の背景には、STEAM教育(実社会の課題解決に向けた教科横断的な学び)の推進もあります。
こうした教育方針の変化に合わせて授業で必要なコンテンツを提供するには、ICTを活用した教育体制が必要になります。

STEAM教育については以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

「STEAM教育とは?事例と背景、今後の展望やSTEM教育との違い」を読む

教育の格差の是正

EdTechによる教育格差是正への期待も、注目されるポイントです。
これまで都市部と地方では受ける教育に差が生じやすい環境にありました。都心部では、塾や進学校など学習サポートが充実し、選択肢も多い状況です。一方、地方ではインフラの整備や経済的事情などの理由から、都心部よりも教育を受ける機会が少ない傾向にあります。

しかしEdTechを活用することで都心で扱われている教育コンテンツやシステムを地方でも利用できるようになれば、地理的な制約を受けずにいつでもどこでも学ぶことが可能になります。
その結果、都市部と地方における教育格差の是正につながるでしょう。

教育現場の労働環境改善

長年、教職員の長時間労働が問題になってきました。長時間労働の原因として、教職員の業務量の多さが挙げられます。

  • 授業で使う教材の準備
  • クラス運営と管理
  • 事務書類の記入
  • 保護者への対応
  • 職員会議の調整
  • 生活指導
  • 部活動の引率

上記は教職員の業務の一部です。こうした仕事の一部を公務支援システムなどのICTを活用してペーパーレス化できれば、業務の負担の減少につながります。
このように、教育現場の労働環境改善もEdTechの浸透により進むのではないかと期待されています。

社会人教育とリカレント教育の充実

社会人教育やリカレント教育が充実してきていることも、EdTechが注目されるポイントです。
人生100年時代を迎え、ライフスタイルが多様化しつつあります。ライフステージの変化に合わせた生き方や働き方が求められ、社会人になってからも学び続ける必要が出てきました。
その結果、会社を辞めて留学する、転職や起業で新たな仕事を始める、子育てをしながら働く、定年後も新たな仕事に挑戦するなど、キャリアチェンジしながら人生を歩んでいくスタイルも珍しいものではなくなってきています。

そんな中、例えばeラーニングやMOOC(Massive Open Online Courses)を活用することで、効率的に資格取得やスキル習得が期待できます。こうした変化に柔軟に対応できるという点でも、EdTechが注目されています。

参考:総務省「平成30年版 情報通信白書|リカレント教育に役立つICT」
参考:政府広報「「学び」に遅すぎはない! 社会人の学び直し「リカレント教育」」

EdTechが抱える課題

メリットの多いEdTechですが、一方で検討していくべき課題もあります。ここでは2つの課題を紹介します。

ICT環境の整備が遅れている

まず、ICT環境の整備が遅れていることが課題として挙げられます。
EdTechはインターネット上で学習するため、端末と安定した通信環境が欠かせません。
GIGAスクール構想により小中学校への端末配備は完了したものの、高校では完了までに時間がかかることが予想されています。
また、高速で安定した通信ネットワーク環境の整備を目指していますが、児童生徒が端末を一斉に立ち上げると回線速度が遅くなったり、動画が閲覧できなかったりとトラブルも発生しています。
ICTを活用した授業を安定して展開するには、環境の整備が必要不可欠です。

教職員にも一定の専門知識が求められる

EdTechの広がりにより、授業で端末を活用する場面が増えていくでしょう。
そのため端末操作や情報セキュリティなどの知識が求められますが、実際に対応できる教職員の数は多くないのが現状です。
そのため、ある程度のITリテラシーを備えた教職員の育成に力を入れる必要があります。

日本国内におけるEdTechの取り組み

日本ではEdTechに関してどのような取り組みが進められているのでしょうか。ここでは各省庁の取り組みを説明します。

各省庁の取り組み

各省庁では、教育現場でテクノロジーを活用できるようにするための取り組みが進められています。
学校教育を所管する文部科学省は、「1人1台端末は令和の学びのスタンダード」として「GIGAスクール構想」を推し進めています。1人1台の情報端末と高速で安定した通信ネットワークを整備し、教育でICTを活用するための取り組みです。
これにより一人ひとりが最適化された教育を受けられるように整備し、創造性を育む教育の実現を目指しています。

一方、「Society5.0」へ向けたICT関連の環境整備を担当する総務省は、教職員が利用する校務系システムと、児童生徒も利用する授業・学習系システムの連携を検討する「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」を実施しました。
この事業は文部科学省の「次世代学校支援モデル構築事業」と連携する形で2017年から進められているほか、教育現場でのクラウド活用による安全性について議論する有識者会合を立ち上げるなど、環境整備を進めています。

参考:文部科学省「GIGA スクール 構想の実現へ」
参考:総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業(平成29年度~令和元年度)」

経済産業省主導「未来の教室」プロジェクト

経済産業省は、所管する民間の教育事業者側のEdTech化を進めています。その一つが「未来の教室」プロジェクトです。
このプロジェクトでは、「学びのSTEAM化」「学びの自律化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の3つを柱とし、9つの課題とアクションを提言しています。
2018年度からスタートした実証事業として、2021年5月時点で100を超える事業がおこなわれています。対象は就学前の子どもから社会人(リカレント教育)まで幅広く、さまざまな企業や団体が未来の教育を試行してプロジェクトの企画開発をおこなっています。

また、科学・技術・工学・芸術・数学の5つの領域を教科横断的に学ぶ「STEAM教育」は、授業実践が難しいのが課題でした。そこで経済産業省では、STEAMライブラリーという無料のデジタルコンテンツライブラリーも立ち上げています。ライブラリーには動画やワークシート、資料などが掲載、配信されています。必要なコンテンツは授業でも活用できるほか、子どもたちが学校外で学ぶのにも最適です。

参考:経済産業省「「未来の教室」実証事業」
参考:経済産業省「「未来の教室」STEAMライブラリー」

EdTechについて就職支援担当者が意識すべきポイント

ここまで、EdtechやGIGAスクール構想、STEAM教育によって学習の場が変化していくことを解説してきました。こうした環境で育った学生を受け入れるにあたって、大学も変化を求められていくでしょう。
講義はオンラインでの対応が定着し、体験型の学習との組み合わせがスタンダードになるかもしれません。

教育市場におけるEdTechの拡大は目覚ましいものがあります。キャリア・就職支援担当者はEdTechに絡めた支援について、常にアンテナを張っておく必要があります。
例えば、2020年からキャリア・パスポートが運用されています。キャリア・パスポートは小学校から高校までのキャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを児童・生徒自身に記述してもらい、蓄積した記録を振り返ることができるポートフォリオのような教材を指します。
こうした記録は進路を検討する際に重要な情報となります。そして大学に入ってからも学生が引き続き自己の学びについて振り返れるように、学生自身が学びをアウトプットできる場を設けるなどのサポートが必要です。

まとめ

「EdTech」とは、テクノロジーを使って教育を支援する取り組みやサービスのことです。文部科学省による新たな学習指導要領やGIGAスクール構想を追い風に公教育で広がりを見せています。

同時に社会人教育やリカレント教育といった幅広い教育の形に対応できるようになるため、 市場規模はさらに拡大する見込みです。
一方でキャリア・就職支援担当者は、社会の情勢や学生の気質の変化を見極めながらサポートにあたる必要があるでしょう。

マイナビキャリアサポートでは社会情勢を見極めながら、キャリア・就職支援担当者に参考になる情報を発信しています。今後もぜひご活用ください。

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