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STEAM教育とは?事例と背景、今後の展望やSTEM教育との違い

STEAM教育とは?事例と背景、今後の展望やSTEM教育との違い

昨今、日本でも話題になっている「STEAM教育」。
ここでは、新しい教育の考え方であるSTEAM教育について、事例や背景、今後の展望などを詳しく解説します。

STEAM教育とは?

「STEAM教育」とは、以下の5つの領域の学問の頭文字を取った言葉です。「スティーム教育」と読みます。各教科での学習を実社会での問題発見・解決に活かしていくための教科横断的な教育を指します。

  • S:科学(Science)
  • T:技術(Technology)
  • E:工学・ものづくり(Engineering)
  • A:芸術(Art)
  • M:数学(Mathematics)

ICT(情報通信技術)を活用しながら5つの領域を横断的に学ぶことで、テクノロジーの進化に対応可能になるだけでなく、自発性や創造性、論理的思考力や問題解決能力といった能力を育みます。

文部科学省では、今後のIT社会に順応した、社会課題を解決できるような競争力のある人材を育成するための教育としてSTEAM教育を推進しています。

STEAM教育の5つの領域では具体的に、何を学び、どのような能力を伸ばすことを目的にしているのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

【S】科学(Science)

「科学」の分野では、植物や動物、人体、元素など、身近な世界をつくり出している原理から宇宙に至るまで、幅広く網羅的に学びます。
研究者を育成するために不可欠な科目であり、数理的思考の土台となる、課題や法則に気付く力を養います。
文部科学省では2002年度から、先進的な理数系教育を実施している高等学校などを「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し支援する取り組みを実施しています。

参考:国立研究開発法人 科学技術振興機構「SSHとは|スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」

【T】技術(Technology)

「技術」には、新たな学習指導要領(2017年3月公示)により小中学校で必修化されたプログラミングのほか、「材料と加工の技術」「エネルギー変換の技術」「生物育成の技術」も含まれています。STEAM教育では、プログラミングなどの学習を通じて論理的思考力や課題解決力を養います。地道で細やかな作業を続けることで根気やストレス耐性を養うのに加え、将来のキャリアの選択肢を増やすことにもつながります。
またITに強い人材を育成することで、将来の技術者不足解消も狙います。

【E】工学(Engineering)

STEAM教育の「工学」では、技術の学習で得た知識を活かしてものづくりをおこない、その経験を通じて生産力や空間的把握能力を育みます。自らの発想を実現することで、成功体験の獲得にもつながります。
実際におこなわれている授業としては、自分たちでプログラミングして自走可能なロボットを製作するほか、設計図や電子回路を作成するといったものが挙げられます。
また、実際のものづくりの現場を知り、新製品を生み出すプロセスや技術開発の方法を学べるような授業もおこなわれています。

【A】芸術(Art)

「芸術」は美術の範囲より広く、ダンス・演劇・音楽などの舞台芸術、写真・絵画・デザインなど視覚的芸術、3Dプリンタやグラフィックアートといったように、芸術性および創造性を育む幅広い分野が含まれます。

STEAM教育では「教養」などの意味を持つリベラルアーツも含まれています。そのため人文科学や社会科学、自然科学、統合科学、国際関係学など幅広い分野を学ぶことになります。また文部科学省でも、芸術のほか文化、生活、経済、法律、政治、倫理観を含めた広い範囲として定義しています。

アイデアを具現化する発想力や想像力の源として、自分の思いや考えを表現したり伝えたりする力を養います。

【M】数学(Mathematics)

「数学」の分野では、計算や図形などの学習をおこないます。STEAM教育の数学では公式などの法則に触れ、問題を解くなかで論理的思考力を養います。
根拠に基づいた考え方は、他の科目でも役立てることができるでしょう。

STEAM教育推進の背景

STEAM教育はどのような背景のもと推進されてきたのでしょうか。それにはまず、前身である「STEM教育」について解説する必要があります。

「STEM教育」は科学技術人材を育成し国際競争力を高めることを目的に、1990年代のアメリカの教育政策として注目されてきました。
実際にSTEM教育という言葉が使われたのは2001年。アメリカ国立科学財団で、「現実世界の課題解決や革新的なことを追求していく機会という文脈上の学修」として位置づけられていました。

2006年にはブッシュ元⼤統領が「STEM教育強化10の指針」を示し、2008年にはオバマ元大統領が⼤統領選挙の際に「STEM教育の支援」を公約として掲げ、2011年には10年間で10万⼈のSTEM分野教員雇⽤を目指すことを発表しました。
このように、アメリカでは国家戦略として早い段階から取り組まれてきています。

その後2006年から2008年にかけて、アメリカの教育者ジョーゼット・ヤークマン氏が統合型STEM教育に感性や想像力の源となる芸術(Art)の要素を加えて「STEAM教育」として提唱、発展しました。

日本では、2016年に内閣府が目指すべき未来社会の姿としてSociety 5.0を発表したことで、STEAM教育への関心が高まりました。Society 5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、経済の発展と社会的課題(少子高齢化など)の解決を目指す人間中心の社会」のことです。

Society 5.0の実現においては、社会問題を解決し新たな価値をもたらす人材の育成が必要であるため、STEAM教育の推進が検討されるようになりました。

参考:経済産業省 第1回 「未来の教室」とEdTech研究会 中島委員提出資料「21世紀の教育・学習」
参考:中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 大島まり「STEAM教育への取り組み」
参考:内閣府「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」

STEAM教育を反映した新しい日本の教育

文部科学省はSTEAM教育を推し進めており、学校教育にも反映されています。
全国の学校で一定の教育水準が保てるように教育課程の基準として定めている「学習指導要領」が、約10年に1度の改訂期を迎えました。
2020年度から小学校、2021年度から中学校、そして2022年度から高校で、それぞれ新たな学習指導要領が実施されましたが、いずれもSTEAM教育に通じるプログラミング教育や理数教育に力を入れるものとなっています。

新たな学習指導要領がどのように変わったのか、小中学校と高校に分けて説明します。

小中学校での教育

小学校ではプログラミング教育が必修化されます。
これにより、コンピュータに意図した処理をおこなわせるために必要な論理的な思考力などを育みます。
また、理数教育は、観察・実験などによる科学的に探究する学習活動や、データを分析して課題を解決するための統計教育を充実させました。

中学校でもプログラミングが必修化され、内容がさらに充実したほか、総合的な学習の時間では教科を横断した学びを進めています。
例えば、ネットワーク技術をもとに双方向通信を学び、それを活用して観測や計算を実践するといった授業が挙げられます。また私立の中高一貫校では、ロボット制作からプログラミングを用いて動かす内容の授業などが実施されました。

参考:文部科学省「幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント」

高校での教育

高校では2022年から必修科目として「情報Ⅰ」を新設し、すべての生徒がプログラミングのほか、ネットワークやデータベースの基礎などについて学習します。
また総合的な探求の時間や理数の科目では、STEAM教育を推進し教科を横断できる探究活動の充実を進めています。

参考:文部科学省「高等学校学習指導要領の改訂のポイント」
参考:文部科学省「STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について」

STEAM教育の海外での実施例

海外では、STEAM教育をどのように実施しているのでしょうか。

STEM教育提唱国であるアメリカは2013年、「STEM教育5ヵ年計画」を発表。2020年までに初等中等教育段階のSTEM分野の教育者を10万人養成し、高校卒業までの間でSTEM分野の経験を持つ若者を毎年50%増加させるとしました。
さらに2015年にはSTEM教育法が成立しており、国家戦略として積極的な支援が進んでいます。

学校での取り組みとして有名なのが「High Tech High」です。授業料無料、教科書なし、成績表なしを掲げたカリフォルニア州の公立校で、eラーニングを積極的に取り入れています。
またプログラミングなどのスキルや意欲や創造性を高める非認知能力の育成に力を入れており、チームを組んでプロジェクトを動かす課題解決型学習(PBL)を通して、自分たちで考えて実現する力を養うような取り組みを進めています。

一方、アジアでもSTEAM教育が推進されています。
中国は2010年、「国家中長期教育改革・発展計画綱要」で「傑出したイノベーション人材を絶えず輩出できる局面を形成」するとし、初等中等教育でプロジェクトを実施。
一般高校200校、育成拠点校29校、大学等36機関が連携しておこなう「翺翔(こうしょう)計画」にて、研究者のもとで各自の課題に取り組むイノベーション人材育成策を実施するなど、人材の育成に重きを置いています。

またシンガポールでは政府直属のサイエンスセンターを設置し、修士号、博士号を持つスペシャリストがSTEAM領域関連の授業をおこなっています。韓国でも、高度なSTEAM教育を実施するために英才教育院を設置するなど、各国でSTEM・STEAM教育に関する取り組みが推し進められています。

参考:文部科学省「諸外国の政府におけるSTEM人材戦略の取組①」

STEAM教育の日本での実施例

日本でも、STEAM教育を実践する取り組みが開始されています。具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは5つの事例を紹介します。

STEAMライブラリー(経済産業省)

「STEAMライブラリー」は、経済産業省が公開している無料のデジタルコンテンツライブラリーです。学びのSTEAM化を実現するために、民間事業者や高校、大学、研究機関などが参画しています。

小中高校生を対象とした教材コンテンツがオンライン上に掲載、配信されるため、指導者が学校現場で活用できるほか、子どもたち自身がいつでも視聴・活用することが可能です。映像でまとめられているため、気軽に閲覧でき、子どもの興味関心を探すきっかけづくりにもなります。

参考:経済産業省「未来の教室-STEAMライブラリー」

科学の甲子園(国立研究開発法人 科学技術振興機構)

「科学の甲子園」は、高校生たちのチームを対象に理科や数学、情報の複数の分野を競技として競う大会です。
国立研究開発法人科学技術振興機構が2011年度に創設した大会で、高校生の視野を広げ、学生が活躍できる場を設けるとともに、その力を伸ばすことを目指しています。

全国大会では、チームで筆記競技と実技競技に取り組みます。
筆記競技は理科、数学、情報から習得した知識の活用について問われるほか、教科や科目の枠を超えた問題も出題される可能性があり、幅広く理解しておく必要があります。
実技競技はものづくりの能力、コミュニケーション能力などを用いて、課題解決能力を競います。
筆記競技は6人1チーム、実技競技は3~4人1チームとなっており、チームで協力する姿勢やコミュニケーション能力も問われます。

参考:科学技術振興機構(JST)「科学の甲子園」(2023年2月21日閲覧)

STEAM教育実践モデル校事業(兵庫県教育委員会)

「STEAM教育実践モデル校事業」は、兵庫県が2020年に立ち上げたプロジェクトです。
Society.5.0時代に完全移行する前に国内外で活躍できる「未来を創造する力」を備えた人材を育成するため、文理融合型のカリキュラムを開発して兵庫型STEAM教育モデルを作成することを目指しています。

2022年はモデル校・協力校である4校においてプログラムを実施。ビッグデータを活用したプロジェクト型授業・探究活動や、ロボットプログラミングと芸術的自己表現の融合カリキュラムの開発など、学校ごとの特色を反映して実践しています。

参考:兵庫県教育委員会「兵庫型STEAM教育について」

STEAM教育の抱える課題

すでに多くの取り組みが始まっているSTEAM教育。しかし推進にあたっては課題も抱えています。ここでは4つの面から説明します。

パソコンやタブレットなどIT環境の整備

まず挙げられるのは、パソコンやタブレットなどのIT環境の整備です。
STEAM教育はテクノロジーと密接なかかわりを持つだけでなく学ぶ情報量も多く、ICTの活用が不可欠です。

文部科学省によるGIGAスクール構想(ICTを活用し個別最適化された教育環境を実現させるという構想)が前倒しで実施されたことで、小中学校の児童生徒に対する情報端末配備が進みました。同時に校内のネットワークも整備されており、着実に環境構築が進んでいるものの、どの学校でも安定した高速通信の実現は道半ばとなっているのが現状です。
デジタルを生かした授業を展開するには、高速で安心したIT環境は不可欠です。引き続き、IT環境の整備が課題となるでしょう。

GIGAスクール構想については以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

「GIGAスクール構想とは?目的やメリット、現状の課題」を読む

専門知識をもつ教職員の数

STEAM教育に対し、専門知識を持つ教職員数が不足していることも課題として挙げられます。
STEAM教育はまだ始まったばかりであり、科目によって専門性を有する教職員はいるものの、教科の区別なく横断的に取り入れて指導にあたった経験は少ないでしょう。

また、小中学校ではプログラミングの授業が必修化されました。プログラミングを専門とした教職員も少なく、忙しいなかでさらなる専門的スキルを求められています。授業の質を一定に担保していくには、研修の活用など教育者側のスキルアップは欠かせません。

家庭や地域における教育の質の差

家庭や地域によって、児童生徒が受ける教育の質に差が出る可能性もあります。これも課題の一つです。具体的には「自治体の取り組み」「私立と公立」「自宅のインターネット環境」などで子どもが受ける教育や体験に差が生まれる可能性があります。

STEAM教育は自分の力で学び、考える力を伸ばすことができます。授業の際に理解できなかったとしても、eラーニングを活用した家庭学習は可能です。
しかし自宅に通信環境が整っていなければ十分な活用は難しくなります。家庭や地域の事情を超えて、どこでも気軽に端末が使えるよう改善していくことが必要です。

STEAM教育の認知度の低さ

日本でのSTEAM教育の認知度の低さも課題となっています。
海外では国策として取り組まれ、教育施設の新設やプロジェクトが次々とおこなわれています。
しかし日本は新たな学習指導要領がスタートしたばかりで、学校や地域によって取り組みに差があります。すべての子供が質の高いSTEAM教育を受けられるようになるには、学校や地域による差をなくす必要があるでしょう。

教育の変化に応じた適切なキャリアサポートが求められる

STEAM教育を経て大学に入学する学生は、考え方や興味関心がより多様になることが予想されます。大教室による一斉授業では物足りなさを感じ、少人数で対話しながら学ぶスタイルを望む学生が増えるかもしれません。
そのため大学は、授業のあり方や学生への対応などで大きな変革が求められるでしょう。
キャリア・就職支援の現場でも、学生の変化に対応しながら支援していく必要があります。

卒業後の進路の選択肢やそこに至るまでのプロセスも、今よりもさらに多様化する可能性があります。
こうした変化に対応すべく、キャリア・就職支援担当者は今後ますます、一人ひとりの個性に応じたサポートが求められると予想されます。

まとめ

STEAM教育は、科学、技術、工学、芸術、数学の5つの領域の学習を実社会での問題発見・解決に活かしていくための教科横断的な教育です。
文部科学省もSTEAM教育を推し進めており、学習指導要領に反映したりGIGAスクール構想で後押ししたりと積極的に取り組みを進めています。

数年後にはSTEAM教育を受けた学生が大学へと入学してきます。キャリア・就職支援担当者はさらに多様化する学生の気質を見極めながら、一人ひとりに対応した個別の支援が必要になるでしょう。

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