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低学年からキャリア形成活動に取り組む意味|実践女子大学 初見准教授

学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援の取り組みを表彰する「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」。7回目の開催となる今年は、1,013法人から 1,115プログラムという過去最多の応募数でした。その中から、学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード大賞、文部科学大臣賞、優秀賞、地方創生賞、入賞、そして今回から学生推奨プログラムが選出されました。また、当日のカンファレンスでは「キャリア形成活動の発展に向けて」と題された、低学年へ目を向けた初見先生の最新調査の講話もありました。その内容について本記事でも、初見先生へのインタビューを通してご紹介します。

Profile

初見 康行
実践女子大学 人間社会学部 准教授
大学卒業後、人材業界で法人営業や人事業務に従事。2017年、一橋大学大学院商学研究科にて博士号を取得。2024年より現職。専門は人的資源管理。大学生のインターンシップ活動に関する研究に取り組んでいる。主著に「若年層の早期離職」(中央経済社)、「人材投資のジレンマ」(日本経済新聞出版)など。2019年より「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」にて講演を担当している。

低学年のキャリア形成活動にデータの裏付けを

今回の調査は、低学年のキャリア形成に目を向けたものだとお伺いしました。

インターンシップに代表されるキャリア形成活動ですが、すでに低学年(大学1・2年生)の4分の1ほどが参加しているというデータがあります。それはいいことだと捉える向きもありますが、本当にどれくらいの意味があるのか。それをあらためて調査し、数値的裏付けを見出してみました

ちなみに、今回のカンファレンスでは、企業の方向けにお伝えした内容と、大学の方に興味を持っていただける内容の2つの側面からお話ししました。本メディアは大学の方向けではあると思いますが、企業側の視点を確認しておくこともキャリア教育や就職支援において重要です。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。

能力の向上感が適職の発見感や志望度を高める

―では、まず企業の方向けにお話しされたことをお伺いできますか。

最初にお話ししたのが、プログラムの効果を担保するには事前と事後の学習こそが重要ということです。中でも、事後のフィードバックが効果的という調査結果が出ました。
次に、三省合意改正によりインターンシップで重要な意味を持つようになった「就業体験」にスポットをあててお伝えしました。就業体験の量が学生にどのように作用するか調べてみたところ、「仕事内容・社風の理解」は就業体験の割合が増えるほどやはり高まりました。しかしながら、「仕事内容・社風の理解」だけでは、志望度の向上は限定的な可能性があります。

学生側はその企業について理解すればするほど「合わない」と感じる学生も出てきます。もちろん、高まらないから意味がないということではなく、ミスマッチをお互いに事前に気づけたという点では大きな意味があります。ただ、企業としては志望度を高めてほしくて就業体験を実施しているわけですので、そのためにはどういう就業体験が望ましいかが気になるのではないでしょうか。

今回の調査で分かったのは、就業体験に参加した学生の「能力の向上感」と「志望度の向上」には関連が見られた、ということでした。具体的には文系・理系に関わらず、就業体験を通して能力の向上感が高まると適職の発見感が高まり、それが志望度の向上につながるという調査結果が出たのです。これは企業にとっても、大学側にとっても就業体験のプログラムをつくる上で大きなヒントになるのではないでしょうか。

キャリア形成活動が学生生活にもたらすもの

面白いですね。では、大学の方向けにはどのようなお話をされたのですか。

大学の方向けには、キャリア形成プログラムを開始する学年についての分析結果をお話ししました。まず、大学1、2、3年生、それぞれの学年でどのようなプログラムに参加したか学生に聞いてみました。プログラムの種類は大きく3つ、「大学主催のキャリア教育経験」「企業主催のセミナー経験」「企業主催の就業体験」です。そして、1年次にキャリア教育を受けた経験があるかどうか、2年次に企業のセミナー経験があるかどうか、3年次に就業体験があるかどうかで分析しています。これら3種類のプログラムへの参加が「学習意欲の向上」「就職活動の満足・納得感」「大学生活全体の満足・納得感」にどのように作用するかを見ていきました。

具体的には、樹形図でどのルートや組み合わせが効果的なのかを探索したのですが、結果は大学1年生から2、3年生までに、段階的かつ全タイプのキャリア形成活動を経験した学生の平均値がもっとも高かったのです。

「早くから、段階的に、就業体験を伴う形で」ということですね。

はい、とくに「学習意欲の向上」に対する影響は顕著でした。1年生からキャリア形成活動を始めた学生の数値が最も高かったですね。つまり、低学年からキャリア形成活動に取り組むことは、学業の妨げになるという懸念もあったと思いますが、むしろ好影響を与える可能性が裏付けられたのです。そして、2年生よりもできれば1年生。早ければ早いほど良いかもしれません。大学3年生は就職活動も目前、学業も文系はゼミが決まっていて、卒論も視野に入り始める時期。理系もいまさら研究内容を変えるわけになかなかいきません。

一方で、大学1、2年生はまだ学生生活が2年以上あります。1年生からキャリア形成活動を始めれば、2年生での履修科目やゼミ選択を変え、専門や専攻さえ他の道を選ぶことが可能です。そのように学生生活を改めて見つめ直し、キャリアと学びの反復で自らのキャリアロジックを構築していく。それは、大学3年生が短い期間で築いたものと比較し、きっと倒れにくい、生涯の糧となる力強いものになると思います。

実際、社会人への追跡調査では、大学1年からキャリア形成活動を開始した人は、仕事に対するエンゲージメントや在職意思、社会人生活の満足感も高いという結果もあります。先ほど申し上げた「学習意欲の向上」などは、日々学生と向き合っている大学職員の皆さまはおそらく肌感覚で感じられていたことではないでしょうか。ただ、それが改めて数字で裏付けられたのが、今回の調査の良かった点だと思います。

まず自らのキャリアと向き合うことの大切さ

低学年からキャリア形成活動へ参加することの有効性が分かりました。しかしながら、キャリア教育と一口に言ってもいろいろとありますよね。

盛んになったがゆえに、私も整理が必要なタイミングだと感じています。オープン・カンパニーとインターンシップの効果の違いをどのように捉えれば良いのか。また、大学によってはキャリア教育のメインコンテンツが、エントリーシートの書き方や面接対策だとされているケースもあります。もちろん、就職活動の対策も大切ですが、それだけがキャリア教育というのは物足りないと思います。それぞれの内容を明らかにし、整えていくタイミングなのかもしれません

ただ、個人的には難しく考えるのではなく、まずは低学年からキャリアを考えることに足を踏み入れてほしいと思っています。大学1・2年生はまだ時間もあるので、何社か参加してみて、大学の学習内容の見直しや将来のキャリアを考えるきっかけづくりにして欲しいと思います。今回の調査結果で、低学年のキャリア支援についてあるべき姿が少し見えてきたので、ここから私たち大人がさらに洗練させていけるといいのかもしれません。

Editor’s Comment

弊社後援の「第7回 学生が選ぶ キャリアデザインプログラムアワード」の2024年5月のカンファレンスでのご講演内容をふまえ、初見先生へインタビューをいたしました。三省合意改正を経て、キャリア形成支援プログラムの対象学年や開催期間、プログラム内容の多様化が見られた第7回のアワード。初見先生からは、大きく2点「効果的な就業体験プログラムのポイント」「低学年からキャリア形成を始めることの意義」についてお話しいただきました。同じ経験でも1年生からキャリア形成活動を経験したほうがより「学習意欲の向上」につながる、というお話が特に印象的でした。
(マイナビ副編集長:谷口)

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