第二次世界大戦終戦の翌年である1946年に、戦後の社会復興を担う指導者を育成するという志のもとに札幌文科専門学院として開学。以降、1950年に札幌短期大学、1968年に札幌商科大学を設立、1984年には札幌学院大学と改称し現在に至る大学です。開学100年に向けて2020年9月には「One life, Many answers」というタグラインを掲げ、ロゴマークも一新。2021年4月から新札幌キャンパスも立ち上げ、次の一歩へ踏み出している同大学のキャリア教育について、キャリア支援課の加藤氏にお話を伺いました。
Profile
加藤 祐司 氏
札幌学院大学 キャリア支援課 課長
大学卒業後、札幌学院大学に入職。教務課(現:教育支援課)、就職課(現:キャリア支援課)、入試課(現:広報入試課)と幅広くキャリアを積み、2012年からキャリア支援課へ二度目の着任。自身も北海道出身であり、北海道をはじめとした日本の地方が抱える問題を按じながら、地域社会の未来へつながるキャリア教育の在り方を模索している。
早期から働く視点を養い、大学生活全般をキャリア教育にする
―開学100年に向けて、新たな取り組みにも挑戦されていくタイミングだと伺っています。まずは、その根幹にあるキャリア教育の考え方についてお聞かせください。
私たちの大学では、キャリア教育というものは特別なものではなく、大学生活全般を通じて行うものだと考えています。まず、大学生になると、高校生よりも行動範囲が広くなりますよね。大学の授業はもちろん、部活もある、遊びにいくこともある、アルバイトだってあります。そのすべてが社会や社会人との接点であり、社会性を身に付ける絶好のチャンスです。
だからこそ、大学生活全般が今後の人生にとってより有益な経験となるよう、早期から就業の視点を養う指導を体系的に行っています。具体的には、1年生の後期からキャリア教育関連科目である「職業と人生」という授業を設置。基礎的な内容から始めていき、3年生では前期・後期を通じて実践的な就職活動の進め方や業界研究、卒業生(先輩社会人)との懇談など、3年生に対する就職支援行事は授業以外の講座等も含め年間140コマに及びます。
ちなみに、業界研究では、BtoB企業や地元企業の方に登壇いただくことが多いですね。たとえば、地域に根を下ろした運送会社などは典型的な例です。この広い北海道でロジスティクスが担う役割は非常に重要にも関わらず、学生からするとドライバーさんのイメージしかないため、「運転は興味がないから」などの理由で敬遠されてしまいがちです。そうした地元のBtoB企業にも目が留まるよう、学生に新たな気づきを与えることを意識して企業を選択しています。
また、企業研究の他にも、少人数によるワーク形式の講座、地域社会が抱える課題に取り組むPBL(Project Based Learning)型プログラムも用意。いわゆるシャッター通りといわれる商店街の活性化など、地域貢献につながるテーマも扱っています。実際に現場へ行って商店街や地域の方々にインタビューをし、チームで課題に取り組む。頭と体を使った実地型の教育です。
北海道の発展を担う人材の育成という使命
―なるほど、北海道の企業と協働してのプログラムが多いのですね。
そうですね。キャリア教育のために特別に協働いただくというよりも、もともと中小企業家同友会や商工会議所といった地元の経済団体の皆さまと今後の北海道についての問題意識を共有している中で自然とそうなっていきました。
約520万人の人口を抱え、全国でも2番目に広い岩手県の5倍以上もの面積を持つ北海道。その広大な土地で若年労働者がどんどん流失している。札幌などの都市部はまだいいかもしれませんが、地方は危機的な状況です。本学でも卒業生の約7割が北海道内に本社を置く企業や団体に就職しているのですが、ほとんどが札幌本社。北海道の魅力の一つである観光資源を担っている道内の地方企業には、なかなか結びつきません。
観光以外でも、アグリビジネスとして脚光を浴び始めている農業分野などでも若い人材の柔軟なアイデアや活力は必要です。本学の学則第1条には「北海道の産業の発展及び北海道の社会文化並びに道民の福祉の向上に貢献し得る人材を育成することを目的とする。」とあるように、北海道の産業に新しい風を吹き込むような人材を育てていくことも使命の一つと強く認識しています。
また、本学には北海道全域から学生が集まってくるのですが、自分の地元企業を知っている学生がどれほどいるのか。少し個人的な意見になりますが、もしかしたら大学に入学する前の段階でキャリアの意識付けを行うことも必要かと考えています。自分の出身地にいる間に、地元企業へ目を向けられるような施策を、地元の高校や行政などとも協働しながら実施していけたらとも考えています。
多様化する学生一人ひとりに適した指導方法を
―そのような取り組みから、地元に貢献したいという気持ちも芽生えるかもしれませんね。一方で、地元出身ではない学生が地方企業を選択することもありますか?
6年ほど前から、本学でも外国人留学生を積極的に受け入れているのですが、意外にもと言いますか、マッチングするケースがあります。2ヶ国語以上話せる語学力、母国を出て学ぶ積極性、そして道外の日本語学校等で日本語を学んでから来ている留学生も多く、勤務地に固執しない点も合うのかもしれません。企業としても、今後は彼ら彼女らの力が必要と採用方針の舵を切っているところもあります。
一方で、そうした留学生に向けたキャリア支援という面ではまだまだ試行錯誤中です。情報が届いていないのか、ガイダンスの参加率も伸びない状況。自己分析やエントリーシート、自己PRなど、世界的に見ても独特な日本の「就活」に馴染めないのかもしれません。まだまだ支援には苦戦していますが、外国人留学生もこの国の地域の未来を支えてくれる人材になっていくと期待しています。
―留学生以外にも、きめ細かな支援が必要なケースはありますか?
近年、採用・就職活動の早期化に伴い学生の二極化を感じています。企業が求める人材要件として、主体性やコミュニケーション能力、課題解決能力というものが上位にあがってくると思うのですが、得意な学生もいれば不得意な学生もいます。そして、そのような能力にスポットライトが当たるほど、格差が浮き彫りになることもあります。
また、本人や周囲も気づきにくい発達障害を抱えている学生もいます。こうした学生は、通常のキャリア支援の枠組みだけでは対応が難しい面もあり、なんとか彼らともコンタクトが取れるように、大学全体でメッセージを発信し続けています。学内での支援、そして卒業後は外部機関とも連携し段階的に社会へと巣立っていけるようなプログラムも検討中です。私たちの大学に所属する学生一人ひとりが希望した働き方で、就業後も長期的にそれを実現し、社会と良好な接点をつくれるよう支援していきたいと考えています。
自分たちが生き生きと仕事に取り組む姿を見せていく
―新札幌キャンパスも開設され、今後の取り組みも楽しみです。キャリア支援に携わる全国の大学の方々にメッセージはありますか?
新キャンパスのコンセプトは「『多様なこと・ひと・もの(Diversity)』との『協働(Collaboration)』」です。札幌中心部に近いこともあり、企業はもちろん、行政や一般市民といった多様なステークホルダーと学生たちの交流の場としても機能させたいですね。現在の学生は、非常に素直で真面目ですが、そのような環境で学生たちも多くの刺激を受けてほしいと考えています。
現在、キャリア支援課の各学部担当職員が3年生全学生と一人30分ほどかけて個人面談を行っているのですが、その対話の時間も大切な交流、意識付けの場。まずは、身近な大人の一人である私たち自身が生き生きと仕事に取り組んでいる姿を見せることが大切だと思います。この変化の時代において、学生たちのキャリア支援・就職支援は決して簡単な仕事ではないと思いますが、まずは私たち自身が社会人としてのお手本となる姿勢を持つことが大切なのではないでしょうか。
Editor’s Comment
「令和2年度学校基本調査」によると、北海道の高校生の県内進学率は沖縄に次いで2位と高く、今回取材した札幌学院大学さんへの入学者も9割近くが道内出身の進学者のようです。
就職先も7割を超える学生が道内に就職しており、このような状況で
進路を考えている学生達へどのような支援をしているのか、興味深く取材させていただきました。
地元企業との連携を深め、低学年からキャリア形成支援をおこなっており、これからの先行き不透明な社会において、学生一人ひとりが自立してキャリアを切り開いていって欲しい、そのような気持ちをもって、地道な支援をひたむきにおこなう加藤課長に静かなる闘志を感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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