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大学事例|大学院進学が多いなか自律的にキャリアを構築できる仕組みを|名古屋工業大学

「ものづくり」「ひとづくり」「未来づくり」を理念に掲げる、国立大学法人 名古屋工業大学。1905年に官立 名古屋高等工業学校として創設されて以来、7万人以上の人材を輩出し、産業社会の繁栄を支えてきました。学べる領域は広く、生命・応用化学科など5学科からなる高度工学教育課程、学部・大学院の6年一貫制の創造工学教育課程、5年の夜間教育を主とした基幹工学教育課程の3課程を擁します。1学年およそ900名の学生たちを相手に、唯一のキャリア支援専任教員として奮闘するキャリアサポートオフィスの桑原氏に、工学系単科大学ならではのキャリア支援についてお話を伺いました。

Profile

桑原 容子 氏
工学教育総合センター キャリアサポートオフィス 特任助教
大阪大学大学院 工学研究科 船舶海洋工学専攻 博士前期課程 修了。自動車メーカー関連企業の技術職を経て、大手人材会社にて技術者の転職支援に従事。その後、2つの私立大学でキャリア支援を担当し、2015年より現職。

およそ8割の学部生が大学院へ進学

学部生の7〜8割が大学院へ進学すると伺いました。一般的なキャリア支援とは異なる工夫が必要そうですね

そうですね。昨年は76%の学生が大学院へ進学しました。そのため、就職活動に臨むのは修士1年生と一部の学部3年生です。さらに、ほとんどの学生が技術系の職種を目指します。総合大学とは、だいぶ状況が異なると思います。

そのような背景から、日々の勉強、実験や研究を積み重ねることが就職の基礎、エンジニアとしてのベースになるんです。そして、その地道な姿勢は、社会に出てからも大切です。研究や開発というのは一筋縄にはいきません。ひとつの企業でじっくりと腰を据えて取り組み、結果を出すことも多いのです。

そういう意味でも、技術者のファーストキャリアは重要です。決して、大手企業がよいということではなく、技術者として自分らしく力を発揮できるところに向かって歩んでほしい。一人ひとりがそのような場所を見つけられるようサポートしています。

研究との両立に役立つオンデマンド講座

―具体的には、どのようなサポートをされているのでしょうか

2016年度から開設されたキャリア教科を含む、学部1、2年生の必修科目では、工学技術者として求められる産業社会への責任と自分のキャリアについて考える能力を涵養することが目的となっています。就職に備える要素もありますが、早くから自分の在りたい姿を模索し、毎日の勉学に意味を持たせてほしいという担当教員全員の思いが込められています。

また、コロナ禍のタイミングから、キャリアガイダンスのオンライン化にも力を入れており、ここにも工学系ならではの理由があります。学生たちは日々研究に多くの時間を費やします。朝に実験を仕込み、それがうまくいくか数時間、ときには夜まで見守ることもあります。ずっと作業しているわけではなくても、シミュレーション中に何かあったら対応しなければなりません。そのため、就職ガイダンスとはいえ、90分も実験を抜けられないこともあります。

そのような背景から、学生たちの隙間時間、たとえば実験を待つ合間でも見られるようオンデマンド配信を始めました。いまは、大きく3つの形式で講座を展開しています。キックオフのような気持ちのやりとりが必要なものはリアル講座自己分析やエントリーシート、あと理系特有の研究レジュメなどはオンデマンド講座。自学自習ができるようにワークシートも用意しています。

最後に、昨年から始めたミニ講座。夕方の時間に、私がラジオ形式で番組配信しています。オンライン会議システムを通して30分で旬なキーワードを解説しており、視聴は平均30人、多いときは100人くらい集まります。その年ごとで、学生が気になることも、社会で話題になるワードも異なるため、そうしたトレンドに対応する講座です。ちなみに、どの講座も毎年アップデートしています。

リニューアル後の学生の反応はいかがでしょうか

個別相談も受けているのですが、話す内容の質が変わってきたと思います。自分で進められる学生が増えてきた印象です。さきほどお伝えしたワークシートにしても、白紙ではなく、できない箇所だけを相談に来るようになりました。また、活動が遅れがちの学生も早めに気づき来談し、キャッチアップしていくようになりました。

これからの技術者は、キャリア自律がより求められていきます。どんなに企業が充実した研修や環境を整えても、それをどう自分の力にしていくかは技術者次第です。だからこそ、学生時代から自らのキャリアのベースを身につけていくことが重要になると思います。また、ある程度自分自身で進められる学生が増えたことで、学生一人あたりの相談回数が減り、より多くの学生対応ができるようになりました。

大学3年生のインターンシップを上手に活用してほしい

―効果が表れているのですね。ところで、大学院進学が多いなかで学部3年生はどのような時期になるのでしょうか。

分岐点となる学年ですね。大学院に進むのか、就職するのか。それは、言わば、自分がどのように技術と向き合っていくのか自問自答する時期です。例年、なんとなく大学院に進み、苦しむ学生がいます。この技術を学問として究めたかったのではなく、異なる形で携わりたかったことに後から気づくのです。

しかしながら、近年は大学3年生のインターンシップでそこに向き合う学生が増えてきました。仕事体験だけでなく、学部生として何が評価されるのか、周囲の院生はどのようなレベルなのか、自分はこの技術を学問にしたいのか、仕事にしたいのか。それを確かめに行くことができます。さらに、そこからOB・OGやリクルーターと繋がりを広げる学生もいます。

じつは、そのような変化から、大学院での支援も大きく変わってきています。学部時代に進む道がある程度見えた学生は、修士1年の就職活動も効率的に進められるのです。そのため、就職の相談をするのは本当にピンポイントな部分だけ。それは本来やるべきこと、研究に没頭できている、ということでもあるのです。

工学系の就職活動は、研究との時間のせめぎ合いです。8:2で研究に時間を掛けるべきときもあれば、3:7で就職活動に割かなければならないタイミングもある。だからよく「やるべきことに日々真剣に集中して向き合おう」といったことも伝えるようにしています。

少数派である、就職希望の学部3年生への支援はどのようにされていますか。

基本的に変わりませんが、ただ、周囲に就職活動仲間が少ないことは気掛かりです。まだ研究室に所属していないため、面接練習などの相手をしてくれる先輩がいない、といった状況もよくあります。そのため、就職希望の学部生だけのイベントを開催することで「つながり作り」を促しています。

また、大学院進学がかなわず、浪人か、他大学院か、就職かを迫られる学生もいます。彼らには、とくに丁寧に伴走します。就職希望の学生には、専用オンデマンド講座と個別相談支援も実施。企業のご協力のもと、学内合同説明会も開催します。

進路を悩んでいる学生も、社会人の方と話をすることでいろいろと考えることや気づきがあるようで、それによりほぼ全員がモチベーションを取り戻してくれているので、学生たちの底力にはいつも驚かされます。

キャリア支援のヒントは目の前の学生の中にある

お一人でここまでの支援をされていることに頭が下がります。課題と感じられることはありますか。

レベル調整、期待値調整が難しいですね。院生に合わせると学部生がついていけない。学部生に寄りすぎると、院生が興味を失ってしまう。そうなると、多くの情報が世にでているので、大学のキャリアサポートから離れてしまいがちです。

ですが、大学ならではの情報もあります。だからこそ、大切なリソースとして活用してほしい。そのためにも、期待を裏切らないバランスを保つことに心を傾けています。

最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。

学生の周囲にいる私たちは、それぞれの立場でまだやれることがあります。それらを重ね合わせ、学生を導いていきたい。そのなかでも、私たちは学生にいちばん近い存在です。

私は3大学でのキャリア支援を経験してきましたが、大学によって、やはりカラーが違います。そのことに気づくことは、自分の大学にどのような支援が必要か気づくことでもあります。世の中や採用の流れが大きく変わり、ついついそちらに気を取られがちですが、それよりも目の前の学生たちをしっかりと見ること。それが大切だと考えています。

Editor’s Comment

「ものづくり・ひとづくり・未来づくり」を大学憲章とし、大学院へ進学しその後は技術者というキャリアを歩む学生が多い名古屋工業大学においてキャリア支援をされている桑原先生を取材させていただきました。
学生生活の大半が学修、研究、実習という環境において、少しでも社会を見せ、自分と社会のつながりを感じさせることにより、学生生活のモチベーションをあげ、キャリア自律ができるような取り組みをされていました。
「採用の早期化に対応できる学生が増えてきているように感じる」というお言葉に、キャリア支援の一つの成果が見えました。
(マイナビ編集長:高橋)

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