「教育付加価値日本一の大学」を目指し、学生の面倒見のよさや安定した就職率に定評のある金沢工業大学。この4学部12学科、大学院3研究科からなる理工系総合大学では、キャリア教育の新たな取り組みとして産学協同型プログラム「コーオプ教育」を2019年からスタート。2020年からは実際に学生が企業に数ヶ月間就業し、実社会の課題に向き合っています。今回は、このコーオプ教育の話を中心に、進路開発センターの二飯田氏にこれからの社会が求める技術者のキャリア教育について伺いました。
Profile
二飯田 一貴 氏
金沢工業大学 進路開発センター 次長
金沢工業大学出身。大学卒業後は、コンピューター関連メーカーで商品企画を担当。その後、同じ部署に配属された新入社員の能力の高さに驚き、大学での人材育成に興味を持つ。2009年、母校である金沢工業大学に転職。2014年からは同大学の進路開発センターでプロジェクトデザイン教育、イノベーション教育の支援などに携わっている。
自ら問題を発見し、解決できる技術者を育成するために
―産学協同型プログラムである「コーオプ教育」を導入しようと思ったきっかけは何ですか?
そもそも、金沢工業大学には「自ら考え行動する技術者を育成する」という大きな教育目標があります。その人材育成の導入となるカリキュラムが「プロジェクトデザイン教育」です。このカリキュラムは全学部の学生が1年生から必修として履修し、授業ではチームで問題を発見し、解決まで結びつける方法を学んでいきます。
そして、さらなる問題発見解決の学びを深めたい学生には「SRI’s Introduction to Innovation ワークショップ」という、アメリカのSRIインターナショナルと金沢工業大学が共同で実施しているプログラムを用意しています。SRIインターナショナルは、アメリカのシリコンバレーでイノベーションを生みだし続けてきた国際的な研究開発機関。この機関が提唱しているイノベーションを生み出す5つの原則から、マーケットに求められる新しい価値創出のノウハウを学んでいくという内容です。
ただ、この5つの原則の中でもとくに重要性を謳われている「顧客視点」について、どうしても大学内の学びだけでは限界があると感じていました。そこで、その一つの解決策として、現在は大学4年生や修士課程の1年生が対象とはなりますが、企業で実際の業務に携わりながら学ぶことができるコーオプ教育を導入することになったのです。
社会は答えのない問題ばかり。だから、答えのないプログラムが必要
―コーオプ教育は、金沢工業大学の目指す人材を育成する上で必要な取り組みだったのですね。
そうですね。授業でも課題を見つけて解決策を提案することは可能なのですが、そこに顧客視点を踏まえて、実際に手を動かし完成させていく……ところまで経験させることはなかなか難しい。ならば、学びの場を社会に移そうと考えました。
ちなみに、コーオプ教育発祥の地であるアメリカでは、すでにインターンシップよりも一般的なのです。よくこの2つのプログラムの違いを聞かれるのですが、現在の日本のインターンシップは企業が学生のために問題と答えを用意するケースが多いのではないでしょうか。一方でコーオプ教育は実際の業務の中で行うため、答えのない教育プログラムになっています。そこが両者の大きな違いです。
―なるほど。しかし、学生が実際の業務に携わるとなると、学生を迎え入れる企業を探すのも大変なのではないですか?
はい。コーオプ教育をスタートして3年目ですが、最初は相当苦労もしました。学生が実際の業務に携わるとなると、企業側の責任や負担も大きいと理解しています。
そこで、まず、大学側と企業側で協議し、「データサイエンス」や「サイバーセキュリティ」など、学生を募集する技術テーマを設定。応募してきた学生には合計700分のテーマごとの事前講座を学んでもらい、さらに企業から出された課題も提出してもらいます。その課題をもとに企業が選抜した学生だけが企業の職場に入ることができるのです。結果、初年度は3社の企業に理解いただき、4人の学生が経験。2年目は、続けて参画してくれる企業もあり、また賛同する企業も増え、8社で11人の学生を受け入れてもらいました。
―受け入れ学生数は徐々に増えていますね。
そうですね。企業の方々とお話しすると、「迎え入れるまでの負担は大きいけれど、その分、私たちが得られるメリットも大きい」といった話も聞くようになりました。たとえば、学生が配属されると若手社員が「指導する」という経験を得られるため、若手のリーダー教育につながったという声であったり、学生との密なコミュニケーションを通して「自分たちの会社の魅力を、学生にどう伝えればよいか学ぶことができた」といった声を聞くこともあります。
もちろん、教育の一環なのですが、企業は学生を長期的な視点で見られる、学生も企業を深く理解できるという事実はあります。実際、コーオプ教育で就業した企業が就職先の選択肢となることもあるようです。
学びの意識が変わる、キャリアの意識が変わる
―金沢工業大学の学生側にはどのような効果がありますか?
様々な効果を実感しますね。コーオプ教育から帰ってきた学生たちは、見違えるように成長しています。たとえば、ふつう社会人になってから「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」と言ったりしますが、コーオプ教育から帰ってきた学生はこの言葉を口にします(笑)。「あの授業をもっと学んでおけばよかった」と、大学での学びの大切さに改めて気づくのです。そして、まだ学生だから間に合う(笑)。
その一方で、大学では得られない意識の変化もあります。「企業では、自分のやりたいことをやってもまったく通用しなかった」「顧客の求めるものこそが必要なことだとわかった」と、まさに私たちがコーオプ教育を通して学んでほしかった「顧客視点」を身をもって知って帰ってくるのです。それを理解した上で、再び大学で専門性を磨けるのは非常に大きいと思いますね。その後の学ぶ姿勢がガラッと変わります。
教員たちも学生の成長ぶりに驚いています。また、レポートの期限を守るようになるなど、時間や約束に対する意識も変わりますね。さらに、キャリア観にもよい影響が見られます。一度社会に出たことで、働く場所に求めるものが明確となり、企業を見る自分なりの判断基準が備わるようです。
10年後には、コーオプ教育が当たり前となるように
―では、最後に。これからのコーオプ教育の展望と、貴学と同じようにコーオプ教育に挑戦してみたいという大学へのアドバイスをお願いします。
コーオプ教育のこれからの課題は、参加学生の数を増やしていくことです。現在は4ヶ月間の就業を推奨しているのですが、この期間だと参加できる学生が限られてしまいます。そのため、学部3年生でも参加できる仕組み、たとえば長期休暇の40日間で完結できるプログラムなどの開発も行っていけたらと考えています。
ちなみに先日、WACE(世界産学連携教育協会)の国際会議が金沢工業大学で行われ、コーオプ教育に取り組んでいる世界中のメンバーと情報交換をしました。世界を見ても、企業が在学中の学生を受け入れる流れは加速しています。今後は日本でも少しずつ増えていくはずです。
だからこそ、私たちと同じようにコーオプ教育に挑戦してみたいという大学がありましたら、ぜひ、情報交換をさせてください。より多くの大学が連携することで、日本のコーオプ教育がいっそう充実し、学生の成長の機会もさらに増えていくと思います。そして、10年後にはコーオプ教育が当たり前の社会になるように、一緒に取り組んでいきましょう。
Editor’s Comment
『大学事例』初の理系大学の取材でした。理系学生は文系学生に比べ、低学年から卒業後の職業やキャリアが定まっている学生が多いと言われている中(『マイナビ大学生低学年のキャリア意識調査(2021年12月)』)、どのようなキャリア形成支援をしているのか興味深く伺いました。
実際感じたのは、教職員が先んじて既成概念にとらわれることなく、キャリア形成支援、産学連携にも挑戦をしている姿勢でした。コーオプ教育、SRI internationalとのワークショップなど、学生が卒業後に世界で活躍できることを願って日々支援されていると感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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