日本初の組織的な女子高等教育機関である「日本女子大学校」が前身の日本女子大学。私立女子大学で唯一の理学部をはじめ、家政学部、文学部、人間社会学部の4学部15学科、大学院には5研究科17専攻を擁する女子総合大学です。活躍する女性人材を輩出し続け、あらゆる世代、業界に卒業生がいます。そして、同窓会組織である桜楓会の活動に象徴されるように、その結束は強く、現役学生の支援にも積極的です。今回は、卒業生とともに取り組むキャリア支援について、キャリア支援課の名和氏にお話を伺いました。
Profile
名和 直美 氏
日本女子大学 学生生活部 キャリア支援課 課長
大学卒業後、企業で人事業務を経験。その後、日本女子大学の職員となり、人事・総務・国際交流の部署を経て、2013年から現在のキャリア支援課へ。課長としてマネジメント業務に従事しながら、過去の経験を活かして部署間を越えた取り組みも積極的に行っている。
生き方を考える、生き抜く力を身に付けるカリキュラム
―本連載で初めて女子大学のお話をお伺いします。ぜひ、女子学生のキャリア支援についてお考えをお聞かせいただけますか。
女性だからというわけではないかもしれませんが、近年、学生の多様さを非常に感じています。女性はやはりライフイベントにおける選択肢が多く、それぞれに対応した情報提供を求められます。さらに今は一人ひとりの個性に応じた支援の必要性を感じたことから、2021年にキャリア支援カリキュラムを刷新。学部1年生から受講できる「JWUキャリア科目」と「JWU社会連携科目」という2つのプログラムを設置しました。
「JWUキャリア科目」では、人生100年時代と言われる中で、自分の生き方を考えるきっかけとなるような多彩なプログラムを用意。例を挙げると「仕事・結婚・わたし」「女性と身体」「女性就業と子育て支援の経済学」など、教員が本来の専門分野をベースに、学生が将来の可能性を広げられるような内容で構成しています。ちなみに、「女性就業と子育て支援の経済学」は、労働経済学の教員が担当しているんですよ。また、「ライフプランとキャリアデザイン」という科目ではゲストスピーカーとして卒業生や専門家、たとえば弁護士の方を招いてリアルなお話を伺うことができます。
一方、「JWU社会連携科目」は、社会を生き抜く豊かな力を身につけることを目標とした、より実践的な学びの場です。具体的には、自治体や企業が設定したテーマにチームで取り組み、学び、考えるというインプットから、ディスカッションやプレゼンテーションというアウトプットまで課題解決における一連の流れを学びます。一人で完結する仕事というのは、社会ではそうありません。チームでの実践を経験し、自分はどのような役割が向いているのか、得意なのかということを肌で感じてもらうことが特徴です。テーマの中には「にっぽん食を考える」なんていう、日本女子大学らしいものもあるんですよ。
OGの惜しみない支援が次世代を育んでいく
―授業に卒業生の方が登壇することもあるのですね。
そうなんです。リアリティをもった話をしてくれるので、学生にも非常に好評です。女性のキャリアと一口に言っても、当たり前ですが十人十色です。管理職の方、起業された方、産休・育休を経験された方……。さまざまな女性のロールモデルが見せられるのは、女子大学ならではかもしれません。
また、卒業生の方々は学生支援に非常に積極的で、常に温かく支援してくれます。先ほどご紹介したゲストスピーカー以外にも、キャリア支援課主催の懇親会や同窓会組織「桜楓会」と共催の就職懇談会へも登壇してもらったり、「私の職場状況」というアンケートにも多くの卒業生に協力してもらったりしています。
―アンケートですか?
はい。卒業後2〜5年目の方に、現在の仕事状況を回答してもらうアンケートを依頼しています。内容としては、勤務先や現在の業務、1日の仕事の流れ、福利厚生、会社の雰囲気などですね。丁寧に細かく、そして学生がわかりやすいように書いてくださるため、学生たちは熟読しているようです。企業訪問の前に目を通したり、復習として理解を深めるのに役立てたりと。
昨年度は約450人の方から回答をいただきました。本学のウェブサイトでも随時募集しているため、卒業後5年以上でも毎年答えてくれる方、転職したタイミングで送ってくれる方も。卒業生の方々の多大なるご協力には、いつも深く感謝をしています。
学び、考え、表現する姿勢は生涯にわたって活きていく
―他にはどのような取り組みがありますか?
昭和の時代から続く就職支援として「就職のしおり」というものがあります。手帳型の冊子なのですが、就職活動の流れから自己分析の仕方、企業情報の見方などハウトゥーが載っています。じつは、この冊子にも卒業生の応援コメントが入っているんです(笑)。
また、全5回の就職活動に向けてのガイダンスを開催しているのですが、並行して、少人数で自己分析を行うワークショップ形式の講座やキャリアカウンセラーとの個人面談も設けています。一人ひとりに細かく丁寧な支援をすることを心掛けています。
また、今年からの新しい取り組みとして「国際機関で働くOG」講演会を、国際交流課と共同で開催しました。会場いっぱいに学生たちが集まり、真剣にメモを取っていましたね。国際機関で活躍する先輩がいるということも誇りに思ってくれたようです。こうした部署を越えての取り組みは活発で、今年度は学生の保護者などのご支援を得て、生涯学習センターと協力して低学年向けの講座を開催しています。
―卒業生だけでなく、大学全体、そして保護者の方まで支援の輪は広がっているんですね。そのような温かい支援がある環境で、学生の反応はいかがですか。
各種取り組みの際にアンケートを答えてもらっているのですが、多くの学生がびっしりと記入してきます。理解できた、興味を持った、自分はこう考えたと、自分を伝えようとしてくる。普段の授業はもちろん、先ほどお話しした「JWU社会連携科目」でもインプットからアウトプットまでの一連の流れを学ぶことに重点を置いているので、そこで自己を発信する伝達力を学んでいるのかと思います。学び、考え、整理し、伝えるというサイクルを自然と身に付けている。大学卒業前には、集大成として全員が卒業論文や卒業研究、卒業制作に取り組みます。自分を表現する姿勢は、生涯にわたって役立つはずです。
多様性の時代、学生一人ひとりに届く支援を
―社会で活躍する女性育成のポイントをお伺いできたと思います。他の大学へのメッセージはありますか。
多様性の時代と言われる今、学生たちの個性の幅広さを日々目の当たりにしています。そのため、同じ支援をしても、一人ひとり反応や効果が異なる。日本女子大学は、幸いなことにOGの協力も厚く、多様な女性のロールモデルを提示することができています。女子大なので、学生たちは普段から力仕事なんかも自分たちでしていて物怖じすることも少ないのですが、それでも社会に出たら女性としての悩みや迷いにぶつかることはある。そんな時に、道しるべとして卒業生の存在を思い出してほしいです。世の中が大きく変わり、学生も多様に変化し、多くの大学がどうしたらもっと学生に届くのか、よりよい支援ができるのかを模索していることと思います。大学同士でよりコミュニケーションを密にとり、一緒に大きな学生支援の輪をつくっていけましたら幸いです。
Editor’s Comment
『大学事例』初の女子大学の取材でした。不確実性の高いこれからの時代には男女関係なく、主体的に行動し、多様な価値観を持つ他者と協力しながら、正解の無い課題に挑戦していく人材が求められます。今回の取材では、そのような人材を育むため、様々な他部署と連携しながら機会や場を作り、また卒業論文・卒業研究・卒業制作を全学科必修とし、発表会を実施するなど、大学全体で支援している印象を受けました。
またOGとの繋がりも強く、各種セミナー講師の協力だけでなく、OGの就職活動、入社後のリアルな情報が蓄積されており、オンラインインフラが普及した現代においても「人との繋がり」をとても大切にされている大学だと感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
「マイナビキャリアサポート」は
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長い学生生活の出口で、学生たちを社会へと送り出す。その大きな役割と責務を担っている皆さまに寄り添い、活用いただける情報をお届けするため、2022年にサイトをリニューアルいたしました。
より良いキャリア支援・就職支援とは何か。答えのないその問いに対して、皆さまの学生支援のヒントとなるような情報をお届けして参ります。