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障がい者のキャリア支援とその後の活躍のために大学ができること

国の定める法定雇用率の高まりを受け、民間企業における障がい者の雇用も格段に増えました。しかし、学校のキャリア支援・就職支援ご担当者の中には、障がいのある学生のキャリア支援に課題を感じている方も少なくないことでしょう。今回はマイナビグループの特例子会社の代表を務める藤本と、障がい者採用を担当する同社の片之坂に、障がい者雇用の現状や大学の支援対策に関して話を聞きました。

Profile

藤本 雄
株式会社マイナビパートナーズ 代表取締役社長
株式会社マイナビの複数の事業部門で営業職・広告制作職を経験した後、人事採用部門で新卒・既卒の採用責任者として勤務。その後、2016年の株式会社マイナビパートナーズ(特例子会社)の設立に携わり、取締役を経て2018年より現職を務める。

片之坂 るゐ
株式会社マイナビパートナーズ パートナー雇用統括部 パートナー採用研修課
新卒で食品小売企業に入社、バイヤー業務を担当。その後、留学を経て英NGO日本事務所に入職し資金調達に従事。日本NGOスタッフとして国内、東アフリカで活動する。株式会社マイナビに転職後は新卒採用領域で経験を積み、現職に至る。

精神障がい者の雇用はこの10年で9倍増加

―まず、障がい者雇用の現状について教えて下さい。

藤本:民間企業における障がい者の雇用は年々増加しています。とくに、精神障がい者の雇用はこの10年で約9倍に伸びています。この背景には3つの理由があり、1つ目は国の定める法定雇用率がたびたび引き上げられていることが挙げられます。現在、常用労働者が100名を超える民間企業は全社員の2.3%以上の割合で障がい者を雇用する義務があり、達成していない場合は不足している人数につき月額5万円の納付金を支払う必要があります。これは、企業経営にとっても見逃せない金額です。

2つ目は、日本の身体障がい者の約6割弱は65歳以上のため、その方々の高齢化に伴い、労働市場においては相対的に精神障がい者が増えていくことになります。そして、3つ目。発達障がいやうつ病に対する認知度が高まり、受診への抵抗感の薄れから「精神障害者保健福祉手帳」の所持者数が急増したことです。

ただ、まだまだ障がい者雇用に二の足を踏む企業も少なくありません。とくに、精神障がいに関しては症状や対応の仕方についての知識不足から、受け入れのハードルが高いといった印象を持っている傾向があります。それでも、精神障がい者の雇用数が増えるにつれ、それぞれの職場における受け入れ力も向上しています。社会全体としては、障がい者にとって少しずつ働きやすくなっていると思います。

企業はとくに障がいの受容度を見ている

―ちなみに企業側は採用において、どのようなところを見ているのですか?

片之坂:もちろん企業によって見る視点は異なりますが、ご自身がどのくらい自らの障がいのことを理解し、受け入れているかといった「障がい受容度」を見ている企業が多いように感じます。そして、受容した上で、常に自分の状態を把握し、その状態における特徴を理解できていること。さらに、良好な状態を維持したり、不調時に良好に戻るためのセルフケアや周囲に配慮の相談ができる人を求めている傾向があると思います。

なぜなら、自身の障がいを「受容」し「障がいと共にどのように働いていくか」という視点に立てている人は、障がいについての理解を深めた上で「何が難しく、どのような配慮が必要か」を企業に伝えることができ、企業はその方の入社後に必要なフォロー体制を具体的に考えることができるからです。また、受容度が高いと自身の障がいについての理解度も高く、入社後、活躍への軌道に乗りやすい印象を持っています。

―なるほど。障がいを受容できているかどうかが大切なのですね。

藤本:はい。ただ、発達障がいや精神障がいの場合、本人が「最近になってわかった」というケースも少なくありません。たとえば、就職活動で面接をまったく通過できず、「もしかしたら…」と受診するケースや、就職はできたものの同期と比べて明らかに仕事のパフォーマンスに差が出てしまい、思い切って受診したら障がいの診断が下りたケースなど。

そして、そうした診断を受けたとき、ホッとする人と頑なに受け入れられない人に分かれるのです。頑なに受け入れられない人はそこからその障がいのことを調べることもしませんし、自らの対処法を考えることもしなくなる。そうすると、企業としてもますます採用や雇用が難しくなるのです。

まずは知ることから 早期の機会提供も必要

―そうした障がいを抱える学生のキャリア支援に対して、大学ができることはありますか?

藤本:まず、障がい者雇用の現状についてしっかり知ることが重要ではないでしょうか。法定雇用率や特例子会社といった障がい者の雇用を支援する仕組みがあること、さらに先ほどお話ししたように企業がどのような人を求めているのかといったことを知らなければ、支援の施しようがないからです。

そして、もう1つ重要なのが、いわゆる障がい者手帳の有無の確認です。病院で障がいの可能性が高いという診断を受けていても、手帳を持っていなければ、障がい者雇用の枠組みは活用できませんし、診断を受けていない学生に対して、大学側から障がいの話を切り出すのは難しいと思われます。

だからこそ、大学ではキャリアのサポートだけでなく、メンタルケアの専門家によるサポートも行い、できるだけ早い時期から学生が自ら確認できる機会を用意しておいても良いのかもしれません。障がい者手帳を持っていても、通常の就職活動はできます。それぞれの学生の障がいの種類や程度、受容度を共有しながら、お互いに最善の選択をできることが重要だと思います。

障がいの理解や対策立てに役立つ就活講座を開講

―最後に。マイナビパートナーズとして、お手伝いできることはありますか?

片之坂:じつは、マイナビパートナーズでは、2023年卒の新卒採用に関して、ご自身の障がいの理解や対策立てのヒントとなる新たな「就活講座」をオンラインで開講しようと考えています。対象は、障がい者手帳を取得し障がい者雇用での就職を決めている学生から、まだどうしようか悩んでいる学生まで。障がいのある学生が就職活動をする際、何が必要なのか。入社後に自分らしく活躍するためにはどんなことを意識しておけば良いのか。考えるヒントを得るとともに、ここから自己理解を深め、「自分に合った環境は?」と深堀りし、自身の就職活動の方向性を決めていくのも良いと思います。

障がい者に対するキャリア支援の情報はまだまだ少ないと感じているため、就職支援に力を入れているマイナビだからできる講座を開講できたらと考えています。ぜひ、大学のキャリア支援の一環として役立ててもらえたらうれしいですね。

藤本:大学によって、学生に対するキャリア支援の考え方も様々だと思います。手厚く行う大学もあれば、学生たちの主体性に委ねる大学もあるでしょう。サポート体制の構築には、経営判断も必要です。ただ、障がい者のキャリア支援に関しては、ある程度の専門性と体制づくりも必要と思います。マイナビとしては、それぞれの大学ごとに相談できるキャリアサポーターを配置しており、私たちマイナビパートナーズの知見も提供できます。より低学年次から取り組みをはじめ、学生一人ひとりが納得のいく就職活動、そして、その後の社会人生活を送るお手伝いができればと思います。

Editor’s Comment

今回の取材ではとくに「障がいの受容度」の重要性、早期からの専門家によるサポートの必要性、が語られました。また記事には載っておりませんが「発達障がいはグラデーション、濃度の問題で、誰もが持っているもの」という言葉も印象的でした。多様な学生を受け入れている教職員の方にとっては、全く他人事ではないとおもいます。まずはサポートする教職員の方が、該当する学生がいたときにどのように声かけをして、専門家への相談に繋げていくか。そこから考えていくことが必要なのかもしれません。
(マイナビ副編集長:谷口)

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