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大学事例|自ら学ぶキャリア学習で社会を読み解く力を育む|山口大学

長い歴史を有する山口大学は、1815年に創設された山口講堂を起源とし、現在では9学部1学環7研究科を擁する総合大学として数多くの卒業生を輩出してきました。キャリアも、大学で学ぶことのひとつです、というキャッチフレーズを掲げ、キャリア教育ではなく独自の「キャリア学習」に力を入れています。そのキャリア学習では、自ら学び続ける姿勢を育むため、本を読むこと・新聞を読むこと・対話をすることという3つの学びを土台にしているとのこと。今回は、キャリア学習の実践を中心に、25年以上キャリア支援に携わってきたキャリアセンター・就職支援部門長の平尾氏にお話を伺いました。

Profile

平尾 元彦
山口大学 教授 キャリアセンター副センター長 / 就職支援部門長1986年筑波大学第三学群卒業後、1991年に同大学経営・政策科学研究科修士課程修了。2004年に広島大学大学院博士課程社会科学研究科マネジメント専攻修了し、博士号を取得。2003年より山口大学学生支援センター准教授に就任し、全学の就職支援・キャリア教育に携わる。前任校である広島の私立大学から四半世紀以上、大学生の就職支援に関わり、多くの学生のキャリアの悩みに寄り添っている。

キャリアは教えるものではなく自分で学ぶもの

まず、長年学生のキャリア支援に携わってこられて、就職環境の変化をどのように感じているか教えてください。

私が大学で学生のキャリア支援を始めた頃は、まさに就職氷河期でした。当時は、卒業生がアルバイト先でそのまま働くことになるといったケースでも、本気で喜ぶような時代でした。それが今は売り手市場となり、環境は大きく変わったと感じています。

一方で、学生が「自分に向いていることややりたいことがわからない」と戸惑う姿は、昔も今も同じです。社会のことをほとんど知らない状態で大学に入学する学生も多いので、わからないのはむしろ自然だと思っています。私たちはそこをサポートしていければと常に考えています。

そうした中で、貴学のキャリア支援ではどのような考え方を大事にしているのでしょうか?

山口大学では、「キャリア学習」を重視しています。キャリアや就職は、あくまで学生本人のものです。周囲が助言をしたり、背中を押したりすることはできますが、最終的には自分で考え、選び取り、自分の人生を切り拓いていく必要があります。

だからこそ私たちは、キャリアは教えるものではなく、学生自身が学び続ける力を育てる支援である、つまりキャリア学習であると考えています。授業やイベントは、そのためのきっかけに過ぎず、大学が用意するのは、学ぶ材料や機会です。学生が主体的に自ら学ぶ姿勢を育てていきたいですね。

本・新聞・対話の3つのルートで社会とその見方を学ぶ

では、キャリア学習で行っていることについて詳しく教えてください。

キャリア学習の土台は、本・新聞・対話から学ぶことだと考えています。

1つ目の本については、3000冊の蔵書をキャリアセンターに用意してあり、キャリアや生き方を描いた本を学生たちに積極的に読んでもらっています。他者の人生に触れることで、自分はどう生きたいか、どんな働き方に共感するかなど、キャリアについて考えるきっかけになるからです。

1年で100冊読むことに挑戦する「キャリア学習マラソン」では、普段なら選ばない本にも手を伸ばすことになり、とりあえず読んでみようという好奇心が、新しい発想や感性につながっていきます。

2つ目の新聞については、単にニュースを知る手段なのではなく、出来事の意味や背景、その物事の見方を教えてくれる教材だと思っています。山口大学では日経電子版のギフト機能を使い、希望する学生に毎日私が選んだ記事を配信しています。最初から読みこなせる学生は少ないため、読めるようになるには練習が必要だと伝えながら、継続する力を養っています。

3つ目の対話については、わからないことがあれば人に聞くということです。これはシンプルですが、最も実践的な学びです。学内で企業と直接話せる学内業界・企業研究会を通年で実施し、採用説明ではなく学生が学ぶための場を提供し、対話から学びを得てもらっています。学生が自分の興味や疑問を言葉にしていくことで、学びが深まり、企業理解も広がっていくと考えています。

オンラインのツールも主流な世の中になっていますが、対話の場を活かすうえで、どのような工夫をされていますか?

本でも企業でも、まずは量です。そのため、「キャリア学習マラソン」と同様に、企業と会う量を増やす仕組みとして、「チャレンジ100」という取り組みを行っています

1年間で100社の企業と出会うことを目標にしたプロジェクトで、学内業界・企業研究会に参加するたび、日付と企業名、気づきを1行ずつ記録してもらいます。100社分のシートが埋まると、協力企業から預かったノベルティをプレゼントするという、小さなご褒美付きの企画です。

興味がある会社だけを選んでいたら、出会える世界は限られてしまいます。100冊の本、100社の企業と向き合うことで、自分では選ばなかった本や興味があるかどうかわからなかった会社にも触れられるようになる。

そうした量の経験を通じて、学生が自分で考え、自分で育み、行動する力が少しずつできつつあるのではないかと感じています。

自ら学ぶ姿勢を養うためのきっかけと機会を提供

こうした取り組みを進めるうえで、難しさや課題を感じる点はありますか?

一番の課題は、やはり学生の自主性をどのように引き出すか、ということだと思います。本や新聞、研究会などの機会を提案し、最初の一歩を踏み出してもらうことはできます。

ただ、その先、自分の力で学び続ける段階までたどり着く学生は、まだ一部に限られています。また、取り組みの成果を数字で示しにくいもどかしさもあります。

それでも、「キャリアも、大学で学ぶことのひとつです」というメッセージを掲げ続け、地道に機会を提供し続けることが大事だと思っています。

低学年に対するキャリア学習についても教えてください。

本を読む、新聞を読む、対話をする。これらは、早ければ1年生からでも始められることですし、できれば早いうちから習慣にして欲しいと感じています。

ただ一方で、低学年からキャリアのことだけを一生懸命やらないといけないとは考えていません。低学年次では、大学生活を存分に楽しみ、幅広い教養と自分の専門分野をしっかり学ぶことが何より大切です。

サークルや部活動も含め、自分の興味関心を深める経験を積んでおくことが、その後のキャリア学習の土台になるからです。そのうえで、3年生の頃からは、卒業後の人生を意識しながら、本や新聞、企業との出会いを通じて学びを深めていって欲しいですね。

学ぶ姿勢を持ち続けるには謙虚さと貪欲さが不可欠

学生の皆さんに、今とくに伝えたいことはありますか?

最近意識していることがあるのですが、それは、学びに対して「謙虚」であることです。今はAIを含め情報が簡単に手に入り、少し触れただけでもわかったつもりになりやすいです。

しかし、本当に理解して自分の力にできているかというと、そうではないことが多いと思います。だからこそ、まだ知らないことやわからないことを素直に受け止め、人から教えてもらう、本や新聞で学ぶ、という姿勢が大切だと思っています。

同時に、学びには「貪欲さ」も必要です。表面だけで満足するのではなく、背景や理由まで追いかけてみる。そうすることで、視野や発想が大きく広がります。就職活動もその一つで、早く決まったからと終わりにするのではなく、社会を知る良い機会として、もっと学びに使って欲しいですね。

最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。

学生の生きる力や社会に出て働く力を育てることが、大学の大切な役割だと思います。そのためには、学生が学べるためのきっかけや土台づくりが不可欠です。

就職支援にとどまらず、広い意味でのキャリア支援を行えるよう、学び続ける力を育むという視点を、ぜひ一緒に大切にしていければ嬉しいです。

Editor’s Comment

25年以上、学生の就職支援・キャリア形成支援に携わる平尾先生を取材しました。就職氷河期も現在の売り手市場も経験された先生は、「キャリア教育」ではなく「キャリア学習」という考え方でご指導されています。先生が重視されているのは、本や新聞を読み、物の見方や考え方を学ぶことです。ネットですぐに情報が得られる環境においても、情報を鵜呑みにせず自ら考え、クリティカルな視点を持つこと。それが、物事の本質の理解につながるというお考えに、私は就職支援・キャリア形成支援の枠を超え、これからのAI時代に人間が持つべき強みだと感じました。また、「ネットによってすぐに答えが得られることで、知った気になってしまうこと」にも警鐘をならしています。「謙虚に学ぶ」という言葉に、私も深く共感しました。
(マイナビ編集長:高橋)

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