2023年10月、関西大学、中央大学、法政大学は3大学合同で初のデータサイエンス・アイデアコンテストを開催しました。本コンテストはマイナビが協賛。数理やデータサイエンスの日頃の学びを実践するこの場に、3大学と併設・附属・付属高校から56件ものエントリーが集まり、最優秀賞の中央大学のチームをはじめ各賞が出揃いました。2021年度より文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」も始まり、注目されるこの分野。専門の学生だけではなく、多くの学生に自分ごととして捉えてほしいと本コンテストを運営された、関西大学 植田氏、中央大学 石倉氏、法政大学 鈴木氏にお話を伺いました。
Profile
植田 光雄 氏
関西大学 学長室 次長
関西大学 経済学部を卒業後、1996年に入職。学部事務室、入試事務局などを経て、現職。大学の将来構想や全学IR、SDGs、DX、データサイエンス教育などの各種プロジェクトを担当している。
石倉 孝一 氏
中央大学 AI・データサイエンスセンター事務室 事務長
中央大学 理工学部を卒業後、1989年に入職。施設・設備やコンピュータネットワークおよびセキュリティ担当などを経て、同大のデータサイエンスを推進する、AI・データサイエンスセンターの立ち上げに携わる。
鈴木 弘一 氏
法政大学 総長室付 教学企画室 部長
法政大学 経済学部を卒業後、1989年に入職。大学基準協会出向や総長室、大学評価室などを経て、現職。数理・データサイエンス・AI教育プログラム(略称:MDAP)を開設するデータサイエンスセンター事務局も兼任している。
高まるデータサイエンスへの気運
—初開催となった3大学合同「データサイエンス・アイデアコンテスト」。そのきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
鈴木(法政大学):3大学とも、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(MDASH)」リテラシーレベルの認定を受け、学内で同分野の推進に取り組んでいるところで、そのなかで情報交換しておりました。文系も理系も有する私立の総合大学、そして規模も似ているという背景からです。
石倉(中央大学):本学としても、専門家を育成するビジネスデータサイエンス学科を設置していますが、全学部を対象としたデータサイエンス教育を推進する必要性を感じていました。そこで、全学的にデータサイエンスの教育・研究・社会連携を推進する機関が必要だろうということで、2020年4月にAI・データサイエンスセンターを立ち上げたのです。法政大学さんからお声がかかったのは、教育の活動でMDASHリテラシーレベル認定を受けた、まさにそのタイミングでした。
植田(関西大学):本学でも、もともと学部ごとに独自プログラムを展開していたのですが、先述のMDASHがきっかけとなり全学的な取り組みが始まりました。そうなると、一部の学生に留まらず、データサイエンスに興味を持つ学生の裾野を広げていかなければならない。その課題は3大学共通だったこともあり、起爆剤とするべく、アイデアコンテストの話につながっていきました。
石倉(中央大学):加えて、本学では担当メンバーが2人という、学内対応にスピーディな体制ではあるものの、新しい挑戦をするとなるとマンパワー的に難しいものでした。そのため、合同開催という案はありがたかったですね。さらに、私どものデータサイエンス科目で授業を担当してもらっていたマイナビさんにもお声掛けしたという次第です。
初開催だからこその苦労も多かった
—学内でのデータサイエンス推進と並行してコンテスト開催に向け、準備されたと思いますが、ご苦労はありましたか。
石倉(中央大学):初めての取り組みだったので、やはり学内での説明や調整はそれなりに大変でした。また、これはどの大学も悩まれたと思うのですが、学生への周知ですね。学内ポータルサイトやX(旧Twitter)、学内のデジタルサイネージを駆使したりしました。さらに、マイナビさんに協力してもらい、能力開発プログラムを開催。そこでも告知しました。ただ、いちばん反応がよかったのは担当の先生からの声掛けだったようです。やはりリアルな学内の協力は大切だと感じました。
鈴木(法政大学):本学も、多くの学生に伝えていくために頭を悩ませまして、データサイエンスセンターの定例会議でも先生方から学生へ伝えていただくようにお願いしたりもしました。また、キャリアセンターにも協力を仰ぎました。学生が大勢の前でプレゼンテーションするという経験は、キャリア形成にも役立ちますからね。
植田(関西大学):あと今回、大学での勉強に関心を持ってもらおうという意図もあり、それぞれの併設・附属・付属校の高校生も対象にしたのですが、そのぶん、テーマ設定にはだいぶ苦労しました。高校生でも取り組める内容でありつつ、メイン層である大学生が興味を持てるものは何か。毎回1〜2時間ほどの3大学オンライン会議を何度も実施しました。
石倉(中央大学):その会議を経て最終的に決まったテーマが以下です。
- テーマ(課題)
- 「労働力人口減少の社会問題に果敢に取り組む幅広いアイデアをデータに基づき提案」
1)「いつでもどこでも生き生きと働くことができる社会」を実現するには
2)「地方に移住し、地域で働くライフスタイル」を日本に広げるには
3) 1)あるいは 2)を実現する「仕事選びの方法」は
やはり、データサイエンスを学ぶ意味を自身のキャリアにつなげてほしいと思い、行き着いたものです。エントリーされる案が画一的にならないよう、自由度が持たせられるテーマであることも気を付けました。
期待以上に熱量の高い案が集まった
—学生のエントリー状況、そして結果はいかがでしたか。
鈴木(法政大学):本学としては、35件のエントリーが集まり、内容も面白いものが多かったです。それゆえに審査が非常に難しいものになりました。審査基準も事前に話し合っていたのですが、あらためてデータ分析の技巧を評価するのか、アイデアを評価するのかが難しい。見えてきたのは、やはり理系の能力だけ、文系の能力だけで達成できるものではないということ。また、本コンテストの目的は、興味を持つ学生の裾野を広げることでした。じつは、最終選考に進んだなかにはデータサイエンスの授業を履修していなかった学生もいることがわかりました。学部専門教育と全学共通データサイエンス科目の関係性を深めるという意味では、狙い通りだったのかもしれません。これをきっかけに興味を持ってもらえたら嬉しいです。
石倉(中央大学):興味深い内容が多く、学生たちが時間をかけて取り組んだことが伝わりました。じつは、先生方も進めるにあたって多少の指導をしたりと、応援してくれていたみたいです。今回、中央大学のチームが最優秀賞をいただいたのですが、本選2週間前から根を詰めてプレゼン練習していたようで、苦労が報われたと喜んでいました。一方で、来年必ずリベンジしますと言っていたチームもいました。また、高校生でずば抜けてよかったチームもあり、本選へ進みました。対象を広げてよかったと感じました。
植田(関西大学):じつは、この3大学での連携をきっかけに、本学でも併設校やパイロット校の高校に向けてデータサイエンス科目履修の門戸を開いたんです。そのような他大学の高大連携・接続のよい取り組みを知れたのも収穫でした。また、コンテストの結果の話に戻りますと、ひとつのテーマ設定から、これだけいろいろなアイデアがでてくることに驚かされました。単純に、データサイエンスのスキルだけでは十分ではないな、と。分析結果がうまくいかなくても、その視点や考察、アプローチに見るべきものがあるチームもありました。また、3大学合同で開催したことによって、他大学の学生がどのような考えを持って、どのような発表をしているのかを目の当たりにし、刺激となったようです。
3大学の連携はこれからも続いていく
—学生のみなさんが意識を高く取り組んでくれたことがわかりました。第2回の開催もあるのでしょうか。
鈴木(法政大学):開催していきたいですね。本学で優秀賞を受賞したチームは、最優秀じゃなくて悔しかったと言っているくらいです。また、本選に進めなかったチームも、意識高く取り組んでくれました。選出できずこちらが申し訳なく思うくらいに。そのため、コンテストという枠組みを出るかもしれませんが、次回はフィードバックの機会も設けられたらよいですね。データを扱うにあたって、最も難しいのはその解釈です。裏に隠れている事象をどのように読み解くか。せっかく、これだけの学生が集まってくれたので、そのようなことを話し合うプログラムが実施できたらと考えています。
石倉(中央大学):初回開催で実績がつくれたので、学内の会議でも発信しやすくなり、先生方の協力も得やすい状況になりました。参加しなかった学生たちへ波及する施策も、いろいろ考えているところです。また、附属高校でも校長先生が話してくれたりと、次につながっていきそうです。
植田(関西大学):これからデータサイエンスは、読み書きそろばんのように、誰もが身に付けていくものになっていくんだろうなと考えています。でも、まだピンときていない学生が多いことも事実。そんな学生に対して、コンテストというわかりやすい形で伝えていけるのは大きいですね。
鈴木(法政大学):本学では、通信課程でもプログラム提供を始めたりと、あらゆる人に裾野を広げていきたいと考えています。また、他大学の学生と切磋琢磨する場をつくれたことは学びの動機付けに大いになったと思います。そのためにも、コンテストをさらに盛り上げていきましょう。
石倉(中央大学):2025年には、新学習指導要領をもとに、高校でデータサイエンスを学んだ学生も入学してきます。そのため、学生が能動的に楽しめる仕組みをもっと考えていかなければなりません。ぜひ、引き続きの連携をよろしくお願いします。
Editor’s Comment
私も最終選考会の審査員として参加させていただきました。白熱した最終選考会は一日で終わりましたが、上記の通り、学内調整、学生への告知などを含めると非常に長い期間、取り組みをご一緒させていただきました。やはり学生の参加動機付けは難しく、これは今回のコンテスト同様、キャリアプログラム共通の課題だと感じました。しかし、今回参加した学生と話すと、ほとんどの学生が「次回も参加したい」、「もっと上位を狙いたい」という声ばかりだったので、回を重ねるごとに参加学生は増えてくることでしょう。ぜひ他校の皆様も参考にしていただけましたら幸いです。
(マイナビ編集長:高橋)
「マイナビキャリアサポート」は
キャリア支援・就職支援に関する総合情報サイトです
長い学生生活の出口で、学生たちを社会へと送り出す。その大きな役割と責務を担っている皆さまに寄り添い、活用いただける情報をお届けするため、2022年にサイトをリニューアルいたしました。
より良いキャリア支援・就職支援とは何か。答えのないその問いに対して、皆さまの学生支援のヒントとなるような情報をお届けして参ります。