わが国で最初の国立大学院大学として、1990年に創立された北陸先端科学技術大学院大学。学部の設置はなく、独自の教育研究組織とキャンパスを有している。また、学生の半数が留学生という環境で、教育と研究は世界水準。科学技術分野の高度な研究開発にも定評があり、産学連携の実績が多いのも特徴。今回は産学連携を発展させた産・学・官・金連携の場を創出し、さらに学生のアイデアを社会につなげる機会を提供している、地域イノベーション推進センター長の中田氏に、企業、大学、公的機関、そして学生が自然とつながっていく取り組みについて伺いました。
Profile
中田 泰子 氏
北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 地域イノベーション推進センター長、准教授
大学および大学院修士課程では化学を専攻。卒業後は、材料を扱う地元北陸の商社で商品開発に携わったのち、産学連携のコーディネーターとして研究員に。そのきっかけから、北陸先端科学技術大学院大学で知識科学の学位を取得し、現在に至る。
地域をつなぐハブとなる
―高度な科学技術分野の研究で有名な北陸先端科学技術大学院大学ですが、産学連携にも注力されていると伺いました。
その前にひとつ、よろしいでしょうか。じつは、私たちは直接的なキャリア支援部門ではないため他大学の場合と少し異なるかと思いますが、広い意味でのキャリア教育と捉えていただけますと幸いです。ご質問いただいた産学連携を中心に、学生と企業がつながる場を提供する取り組みを行なっています。それが、産学官金連携の場である「Matching HUB」、そして学生のアイデアコンテストである「M-BIP」です。
―産・学・官・金と多方面をつないでいるのですね。では、まず「Matching HUB」について教えていただけますか。
2014年度から地方創生の取り組みとしてスタートさせました。もともと産学連携が盛んな大学ではあり、半数が留学生ということから海外との連携も積極的でした。しかしながら、地域企業との連携が少なく、地方におけるプレゼンスが弱かったのです。その課題感から、地元企業への訪問活動、ニーズ調査をスタートさせました。すると、どの企業も好意的に受け止めてくださり、多くのニーズを集められたのですが、すぐに私たちだけで対応できる量を超え、内容的にも本学の専門分野外もあったりしました。
また、大学であるため、ときに企業側と仕事を進める上で時間軸が異なり、連携を進めるのが難しいこともありました。しかしながら、この膨大な情報をそのままにしておくのはもったいないと思い、また、この企業とこの企業がつながれば面白いことができそうだということも見えてきました。それならば、私たちがその場を創ろうと始めたのが、「Matching HUB」になります。シーズとニーズが出会い、ビジネスの種を創るイベントです。企業も、大学も、公的機関も、金融機関も一堂に会して開催します。企業と企業をつなげるという、産学連携ならぬ、もはや産産連携もあります(笑)。
「Matching HUB」は他にも小樽や熊本でも開催しています。この9月には長岡でも「NaDeC 構想推進コンソーシアム」という大学などを中心とする団体により開催されました。
学生と企業の新たな出会い方
―学生のアイデアコンテスト「Matching HUB Business Idea & Plan Competition(M-BIP)」は、「Matching HUB」のなかで実施されているんですね。
第4回の「Matching HUB」から開催しています。もとから北陸3県の国立大の学生に「Matching HUB」への参加を呼びかけていたのですが、参加学生から良い反応が多かったのです。企業の研究開発担当者の方と直接話せるなんて、就活でもなかなかないと。そして、企業側からも、積極性のある学生たちにもっと会いたいという要望がありました。
しかしながら、就活イベントではないため、より多くの学生に参加を促すとなると工夫がいります。そこで「M-BIP」というビジネスアイデアコンテストを導入したのです。参加対象は、高専から短大、大学、大学院です。毎回の参加学生の男女比、文理比はそれぞれ半々くらいで、理系に特化しているわけではありません。エリアも年々広がってきていて、1回目は北陸からの応募だけだったのですが、「Matching HUB」が北陸以外でも開催されていることもあり、いまや全国から応募があります。
さらに、多くの学生が挑戦できるよう、アイデアを重視するビジネスコンテストとして敷居はあえて低くしています。提案に採算性がなくても、プランが未熟でも大丈夫です。
それは、「Matching HUB」がニーズとシーズが出会う場だから。輝く種さえあれば、足りない部分はこちらがどうにかする。そのために、入選者にはアイデアを実現するための手法や知財、事業化の仕組み、若手起業家と話すブラッシュアップセミナーを用意しています。また、実際の出会いの場も提供しています。
「Matching HUB」の2日目、入選者たちのブースを会場に並べポスターセッションを実施します。そこに企業の方々が話しかけにいき、それが提案のブラッシュアップになったり、逆に企業の研究内容を知ったりします。この場をきっかけに企業へのインターンシップや大学への進学につながったケースもあります。また、最優秀賞には、地域企業の経営者と面談できるという副賞もあります。「M-BIP」は企業からの注目度も非常に高く、企業提供の賞である機関賞は毎年、満員御礼状態です。昨年はファイナリストが12であったにもかかわらず、18も機関賞をご用意いただいたくらいです。
産学連携の先に得られるもの
―非常に面白い取り組みですね。しかしながら、貴校よりも、周囲のマッチングを促進している印象もあります。
よく言われます(笑)。でも、この取り組みのいちばんの目的は地域貢献なのです。そして、私たちとしては、それを達成することでプレゼンスを高めたい。回り回って学生へのアピールにもなります。また、まず地域が活性化しなければ、私たちの活躍する場所がつくれないと思っています。実際、3回目の開催くらいから、地元企業との共同研究が増えてきました。
さらに、何よりも得がたいのは、企業や他大学、公的機関とのつながりがつくれることです。いま、「Matching HUB」に参加した学生同士のネットワークづくりにも挑戦しています。ワークショップ形式で、難易度の高い課題も出されるのですが、皆さんモチベーション高く取り組んでくれています。
―一方で、課題に感じられていることはありますか。
つなげた、その先についてですね。シーズとニーズをつなげても、私たちは大学なので、その先、つまり最終製品までお付き合いができない、見えてこないのです。だから、「Matching HUB」を通してどのようなアウトプットとなったのかが、なかなか把握できませんでした。しかしながら、こちらも解決策が見出せそうです。北陸の自治体、大学、経済団体で「北陸RDX」というものを設立しました。経産省の産学融合拠点事業の一環で、マッチングしたビジネスの事業化を支援するアライアンスです。毎年の「Matching HUB」から50ほどの種があり、そのなかで10ほどの案件を重点的に支援しています。いま3年目ですが、花開くのが楽しみですね。
キャリア支援の新たな場として活用してほしい
―この記事を読まれているキャリア支援に携わる方々へメッセージはありますか。
今年で10回目となる「Matching HUB」ですが、よりマッチングの精度をあげながら続けていきたいと思っています。一緒に開催している「M-BIP」も、本当に毎年、ポテンシャルの高い学生が来てくれると感心しています。おかげさまで、大学間の連携も、北海道、新潟、九州と増えてきまして、他地域での開催も実現しています。
学生の考えや想いを発信できる場ですので、柔軟な発想で多くの学生にチャレンジしてほしいと思います。産学連携はじつはなかなか時間が掛かるものです。ぜひ私たちが持っている場を活用していただきたいです。「Matching HUB」は、この11月にも開催されますので、まずは見学にきていただき、私たちのコンセプトに共感いただける多くの方々と連携できましたら幸いです。
Editor’s Comment
学部を置かない大学院大学である北陸先端科学技術大学院大学では、どのようなキャリア形成支援に取り組まれているか、私自身も興味深く取材させていただきました。取材を通しての印象は、研究はもちろん、産学連携、地域連携に早い時期から力を入れている点でした。「MatchingHUB」、そして「MatchingHUB」へとつながるビジネスアイデアコンテスト「M-BIP」は全国に広がりを見せていますが、研究内容をいかに地域活性や社会貢献につなげるか、という変わらぬ一貫した姿勢と熱意を感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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