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大学入学前教育とは?重要性や実施時のポイント、事例を解説

大学入学前教育とは?重要性や実施時のポイント、事例を解説

文部科学省のデータによると、大学受験における学校推薦型選抜と総合型選抜(旧AO入試)を合計した大学進学者の割合は、2000年が33.1%であったのに対して2024年は51.1%と大幅に増加しています。こうした早期入学決定者の増加にともない、入学前教育の重要性が高まりつつあります。

しかし、大学によっては入試広報担当者が入学前教育を担うケースもあり、キャリア・就職支援の立場からどのように関与できるのか悩んでいるキャリア・就職支援担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、入学前教育の重要性や事例、実施にあたってキャリア・就職支援担当者が取り組みたいことについて解説します。

入学前教育の重要性とは?

文部科学省は、学校推薦型選抜や総合型選抜における大学独自の多面的・総合的な選考方法について評価する一方、早期の合格決定が学習意欲の低下を招く恐れがある点や、大学教育への円滑な接続につながっていない点を指摘しています。

そのため、同省は「各大学は、入学手続をとった者に対しては、必要に応じ、これらの者の出身高等学校と協力しつつ、入学までに取り組むべき課題を課すなど、入学後の学習のための準備をあらかじめ講ずるよう努める」として、入学前教育の重要性について言及しています。
特に、12月以前に入学が決定した(年内入試)学生に対しては、高校と大学が連携して「積極的に対策を講ずる」旨の通知が出されています。

こうした背景から、大学側では学習習慣を維持しながら、学生が入学後も円滑に学業に集中できるよう、入学前教育をおこなう事例が増えています。具体的には、専攻分野の基礎学力を身に付けるプログラムや、高校までの学習内容を復習するプログラム、大学生として必要な教養を広く養うプログラムなど、内容はさまざまです。

出典:文部科学省「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」

入学前教育の実施目的

では、各大学ではどのような目的で入学前教育を実施しているのでしょうか。ここでは、主な目的を3つ紹介します。

学生間の基礎学力の差を埋める

一般選抜で入学する学生は、入試本番まで受験勉強を続けるため、基礎学力を維持・向上させる時間が長くなります。一方、学校推薦型選抜や総合型選抜で入学する学生は、それよりも2〜3ヵ月程度早い時期に受験を終える傾向があります。そのため、入学時点で一般選抜で入学する学生と学校推薦型選抜・総合型選抜で入学する学生との間に学力の差が生じやすくなります。

そうした学力の差を少しでも埋めるため、入学前教育で基礎学力の向上を目的とした課題を与える大学もあります。

学習意欲を維持する

学習意欲を維持するためには、学生自身に目的・目標を持たせることが重要です。
学校推薦型選抜や総合型選抜での合格が決まると、「大学に合格する」という目標を達成してしまい、その後の具体的な目的・目標を失ってしまう学生もいます。

そのため、入学前教育では大学入学後の学びに向けた新しい目的・目標を設定し、適度な緊張感を保つことで学習意欲を維持することを目的としています。
なお、文部科学省は、早期に合格が決定したあとも学習意欲を継続するために、以下のような内容を推奨しています。

  1. 各高等学校においても、大学と連携し学習意欲を維持するための必要な指導を行うよう努めること。
  2. 学校推薦型選抜の場合、合格決定後も、高等学校の指導の下に、高大連携した取組を行うことが望ましい。(例:入学予定者に対して大学入学までの学習計画を立てさせ、その取組状況等を高等学校を通じ大学に報告させる等。)

出典:文部科学省「「高大接続改革」に係る質問と回答(FAQ)|3-5-1入学前教育の充実を図るために、どのような方策がとられるのでしょうか。」

学生が抱える不安を解消する

入学前の学生が抱える不安や悩みを解消することを目的に、入学前教育を実施するケースもあります。

マイナビ進学が実施した「高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査」によると、大学入学直前の学生の43.3%が「将来やりたいと思う仕事が見つけられるか」という不安を感じていることがわかります。

このような不安は、入学前教育で軽減できる場合があります。将来の自分の姿を思い描き、大学で何を学ぶべきかまで考えられるよう、入学前からサポートをおこなう大学もあります。

また、受験校を選択する段階と大学入学直前の段階で各悩みの回答割合を比較すると「友達ができるか」という不安を抱える学生が入学前に急増していることもわかります。

加えて、大学の学びではより専門的な知識が求められるため、先行して学びたいと思っているものの、何から学んでよいのかがわからないという声もよく聞かれます。

こうした学生の不安に対して、大学側は入学前教育を通じて、大学での学びに必要な内容を入学前教育で提示したり、学生同士が交流できる機会を設けたりして学生が安心して入学を迎えられるよう支援することが求められます。

出典:マイナビ進学総合研究所「高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査(2024年3月実施)」

入学前教育の実施状況

では、実際に入学前教育ではどのようなプログラムが実施されているのでしょうか。

マイナビが実施した「2024年度キャリア・就職支援への取り組み調査」で入学前教育で取り組まれている内容(予定含む)を聞いたところ、大学によって実施内容はさまざまですが、自習だけでなくレポートを記入させたり、対面でのスクーリングをおこなったりと、大学が積極的に入学前教育に取り組んでいる状況がわかります。

取り組み内容全体(%)国公立(%)私立(%)
外部の教材(e-learning)を送付し自習、レポート等の記入17.7%5.4%20.9%
スクーリング(対面)15.6%2.7%19.0%
大学オリジナルの教材(e-learning)を送付し自習、レポート等の記入14.3%8.1%16.0%
外部の教材(e-learning)を送付し自習のみ9.9%5.4%11.0%
アセスメントテストの実施6.0%0.9%7.3%
大学オリジナルの教材(e-learning)を送付し自習のみ5.0%2.7%5.6%
スクーリング(WEB)5.0%6.3%
合宿・交流会4.8%2.7%5.4%
実施していない11.7%24.3%8.5%

※取り組み内容として「その他」「わからない」については除外

出典:マイナビキャリアリサーチLab「2024年度キャリア・就職支援への取り組み調査」

入学前教育のプログラム例

続いて、入学前教育でおこなわれているプログラムの例を紹介します。

入学前の交流会で友達作りをサポート

前述のとおり、入学が近づくにつれて友達ができるかどうかについての不安・悩みをもつ学生が増えています。こうした新しい環境への不安を解消するために、入学前教育で友達作りをサポートする大学もあります。

具体的には、校内に仕掛けられたミッションをグループで一緒に解決していくことで仲間意識を醸成するオリエンテーリングをおこなったり、入学までの過ごし方と学修計画についてグループワークで考えたり、先輩学生との交流会を実施するといったプログラムがおこなわれています。

入学前に実施するキャリア教育科目の単位認定

大学生活をどう過ごすかを考えるきっかけとして、入学前教育でキャリア教育を実施している大学もあります。

入学前教育のキャリア教育では、自己分析により自分自身の長所や短所を認識したうえで将来のなりたい自分を想像します。そのうえで、大学で何をすべきなのかを考えることで、学びへのモチベーションを高め、キャリア意識を育むことを目的としています。

具体的な取り組みとして、座学と個別のワークを中心とした授業をおこない、地方からの入学予定者も参加できるよう、対面とオンラインを組み合わせた形で実施している大学もあります。
さらに、入学直前の3月末には、対面でのグループワークを実施するなど、段階的に学びを深め、修了すると正規科目として単位が認定されるプログラムもあります。

高校から大学への学びの連携

高校までの学びと大学での学びを結びつけることを目的に、入学前教育を実施している大学もあります。

具体的には、共通テストまでは他の受験生と同じように各自で高校での学びを復習し、共通テストの受験と自己採点をします。

その後、共通テストの自己採点成績を大学に報告し、大学が出す各学部・学科に関連する課題や自身で決めたテーマの研究に取り組み、大学で学ぶための準備を進めます。このなかで、大学でのレポートの書き方を学んだり、オンライン講義で入学後の学習内容を予習したりと、大学での学びを体験します。

さらに、入学前教育での学びをスクーリングの場で発表するなど、高校の学びと大学の学びを段階的に接続しているケースもあります。

入学前教育の実施にあたってキャリア・就職支援担当者ができること

最後に、入学前教育の実施にあたってキャリア・就職支援担当者ができることを紹介します。

関係部署と連携して実施内容を整理する

まずは、これまでに実施した入学前教育の内容を振り返ります。
例えば「キャリア形成に対する意識を高める」という目的で取り組んでいた場合、実施内容を整理したうえで関係部署と連携し、入学前教育の実施によってどのような影響があったのかを確認することが重要です。具体的には、「履修科目を選択する際に将来を意識した」「履修する目的を意識して講義を受けることができた」などの波及効果が生まれているかをヒアリングします。

その結果を踏まえて、入学前教育の方向性を再検討し、目的に即した内容となるよう、関連部署と連携しながら今後の実施計画を整えていきます。

キャリア形成支援の観点から実施内容を検討する

高校までの学習は、幅広い知識と基礎学力を身に付ける学習が中心であり、多くの学生にとっての目標は大学受験に合格することでした。しかし、大学では自らが選択した分野について、より専門的かつ自主的に学ぶ姿勢が問われます。そのため、大学入学後に何のために学ぶのかがわからなくなり、目標を見失ってしまう場合もあります。

一方、学生が入学前教育を通じて卒業後になりたい姿を描き、今の自分とのギャップを理解することができれば、大学に入ってから取り組むべき課題が見えてきます。やるべきことが明確になれば、学習意欲が生まれ、有意義な学生生活を送れるようになるかもしれません。学生にそうした機会を提供するためにも、入学前教育の実施内容はキャリア形成支援の観点から検討することが重要です。

マイナビでは、大学生~社会人をゲーム上で体験することで、大学生活へのモチベーション向上とチームコミュニケーション力を養うことを目的とした社会人基礎力ボードゲーム「MyCHOICE!」を提供しています。

ゲームを楽しみながら大学生活の目的や目標を考えることができ、学生自身が今後のキャリアについて考えるきっかけにもなるため、入学前教育のプログラムをご検討中の場合は、ぜひ貴校担当のマイナビキャリアサポーターまでご相談ください。

今後のキャリア・就職支援につなげる

入学前教育でキャリア教育プログラムなどを実施しても、実際に入学すると学生はさまざまな刺激を受け、当初思い描いていた理想像や将来の方向性が変わることがあります。そのため、キャリア・就職支援担当者は、入学後も継続的に学生と対話を重ね、状況に応じた支援をおこなうことが重要になります。

具体的には、キャリア面談などを実施し、入学時に描いていた計画とのギャップが生じていないか、次のステージに進むために何をすべきかを一緒に考えることなどが挙げられます。
順調に進んでいれば成果を称えて背中を押し、苦戦していれば悩みに寄り添いながら適切なサポートをしてあげましょう。

まとめ

一般選抜から学校推薦型選抜・総合型選抜へと大学入学選抜の比重が変化するなか、教育の現場では、高校と大学が一体となって学生の学びの意識を高めていくことが求められています。
その一環として、学生がスムーズに大学での学びを始められるよう、さまざまな大学で入学前教育がおこなわれています。

また、入学前教育は学生のキャリア形成への意欲を高めるきっかけにもなります。そのため、キャリア・就職支援担当者は、関係部署と連携しながら、キャリア形成の観点からどのような取り組みが可能か検討することが求められます。

マイナビキャリアサポートでは、キャリア・就職支援担当者に有益な情報を発信しています。これからもご活用ください。

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