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大学事例|有償制インターンシップで育む薬学生のリアルなキャリア観|武庫川女子大学 薬学部

武庫川女子大学は、イギリスのイートン・スクールやオックスフォード大学、ケンブリッジ大学の全人教育に感銘を受けた校祖・公江喜市郎が、1939年に武庫川学院を創設しました。大学開学は1949年。「一生を描ききる女性力を。」をビジョンに掲げ、社会に貢献できる女性を育成しています。23年度、新たに心理・社会福祉学部、社会情報学部、スポーツマネジメント学科を開設。大学12学部19学科、短期大学5学科、大学院8研究科14専攻、1専攻科と幅広い学域を有する全国最大の女子総合大学です。また、建築や薬学分野においては、その高い専門性にも定評があります。
今回は薬学部 臨床薬学教育センターで教育指導とともに、キャリア支援にも携わる田内氏にお話を伺いました。

Profile

田内 義彦
武庫川女子大学 薬学部 臨床薬学教育センター
教授 薬剤師 博士(薬学)
製薬メーカーで漢方薬の研究職として勤めた後、大学で薬剤学研究に従事。その頃、薬剤師養成の教育課程が4年制から6年制になることを知り、自身の経験を教育に役立てることを決意。臨床経験を積んだ後、神戸薬科大学に臨床教員として着任。2021年からは武庫川女子大学 薬学部で、臨床教育及びキャリア教育を担当。

この10年、大きく揺れ動いた薬学生の就職活動

―今回は、薬学部のキャリア支援をテーマにお話をお伺いします。まず、就職活動の状況についてお聞かせいただけますか。

現在にもかかわる大きなトピックとして、2006年度に薬剤師養成の教育課程が4年制から6年制になったことがあります。誤解されることもあるのですが、4年制薬学部は現在もあります。ただ、薬剤師国家試験の受験資格がないこともあり、在学生は少数です。本学の薬学部でも全体の2割程度。しかしながら、薬の知識を有しているので、活躍の場所は意外と少なくありません。こちらはまた後ほどお話ししますね。

では、まず、6年制の進路について。国公立大学の学生は大学や企業で研究方面に携わることが多く、一方で、私たち私立大学の学生は、病院や保険薬局、そしてドラッグストアという調剤の現場を選択することが多い傾向にあります。さらに、その採用市場はこの10年間で大きく揺れ動きました。

従来、病院の新卒採用は定期採用の限られた枠と欠員の際に募集があるのみで狭き門でした。一方、保険薬局やドラッグストアは比較的、新卒学生の需要が高いという構図。しかし、教育課程年数の変更によって、新卒薬剤師がいなかった2010年、2011年を境に状況は一変。病院の採用枠が一気に拡大し、保険薬局とドラッグストアからの需要はさらに高まるという、いわゆる売り手市場が加速しました。たしか求人倍率10倍以上という年もあったと思います。それが落ち着き始めたのがここ2、3年ですね。採用市場がガラッと変わりました。つまり、今はまさに新たな局面に対応したキャリア教育が求められているのです。

有償制インターンシップだから得られること、育めることがある

―なるほど。長らく、学生にとっては就職活動がしやすい環境だったのですね。

そうですね。私も教員になったばかりの頃は、正直、そこまでキャリア教育を意識していませんでした。本業務である臨床教員としての教育に注力していたのですが、その中で気づくことがあったのです。専門性の高い分野に進学しているにもかかわらず、薬剤師の業務を知らない学生が多い。話を聞くと、他に強く志望する学部がなく、家族や高校の先生にすすめられて進学したというパターンでした。

そのような学生が、5年生の実習で現場を知り「自分は薬剤師に向いていなかった」と悩むことが少なからずありました。というのも、調剤や服薬指導というプロセスは、非常に高度なコミュニケーションが必要なのです。飲食業などとはまた異なる、医療従事者としてのコミュニケーション。さらに、病院、保険薬局、ドラッグストアなど、就職先によって求められるコミュニケーションや能力も異なる。病院では、医師たちとともに治療法の検討に携わりますし、保険薬局では医療事務の方々と協働し、薬局運営していくマネジメントする力が求められます。また、ドラッグストアでは、セルフメディケーションという領域もある。そして、近年は各現場の経験をベースに取得する資格もあり、それぞれの専門性はさらに高まっていると感じています。

つまり、少し前までは病院で数年働き地力をつけてライフステージの変化で保険薬局やドラッグストアに転職するという考えもありましたが、現在はそうしたキャリア観のままだと後々苦労することもあるのです。そうした変化も含め、薬学部の学生の就職活動・キャリア教育はまさに過渡期と言えます。そこで、私たちは全学部共通のキャリア教育に加え、薬学部独自の低学年対象の有償制インターンシップを2022年の夏から実施することにしたのです。

有償制というのは、学生に報酬が発生するということですか?

はい。その検討には少し時間を要しましたが、最終的には企業と学生間のアルバイトという形にしました。有償にこだわったのは、学生に「リアル」を見てほしいからです。6年制の学生は、5年生で実務実習があります。しかしながら、学生側はカリキュラムをこなすことに精一杯ですし、受け入れる側もどうしても学生に気を遣ってしまい、必要な実習を優先するため、事情のある患者さんの対応や逆にいわゆる雑用にあたるものはさせないのです。教育の場であるがゆえに、リアルな薬局運営を感じられにくい側面があるんですね。リアルな現場を見せるためには、学生にも業務上の責任が発生する有償制であることが必須だと考えました。

リアルな現場を目の当たりにし、学ぶ姿勢も変わる

―初回の参加学生と受け入れ企業の状況はいかがでしたか?

大学1~3年生から11名が参加しました。4、5年生は実務実習やその準備、6年生は国家試験がありますからこの学年となりますね。実施プロセスは、協力いただく保険薬局やドラッグストアの就業先、つまり店舗一覧を学生に提示し、募集。人数に限りがあるため、面談を経て参加学生を決定していきます。そして、大学の代表として相応しい振る舞いを身につけてもらうため、接遇の研修も事前に行いました。

その後、企業と学生間でアルバイト契約を締結。勤務する店舗で企業担当者、店長、私も交えて面談も行い、期間中も学生の日報を企業担当者と共有したり、店舗にお邪魔して進め方を調整したりとフォローを行いました。初めての試みのため試行錯誤しながらでしたが、企業側も成功事例の共有などもしてくださったりと前向きに協力してくださいました。

―参加した学生の変化は見られましたか?

ある学生は「今回の経験をもとに、一から勉強しなおそうと思います」と言ってくれました。プロのコミュニケーションを間近で見て、自分に足りないものを感じてくれたようです。

また、一部の学生は「在宅訪問業務」を体験させてもらいました。保険薬局の8割は実施している、国としても推進中の施策です。学生も授業で学んでいるのですが、イメージと実際は異なっていた様子。患者さんの事情で訪問の予定が変更になったり、訪問先で細かな依頼をされることも。また、送り出す薬局側でも、訪問先でスムーズに対応できるようセットアップのカスタマイズをしたり…。大変な現場を目の当たりにしたようですが、前向きに覚悟ができたという声もありました。この経験を糧に、大学での学びをより深めていってほしいと思いますね。

ちなみに、インターンシップ期間は1ヶ月ですが、企業と学生双方の同意のもとにアルバイトを続けることも可能です。今回も数名が続けており、保護者も「大学の紹介なら」と安心して見守ってくださっています。

学生へリアルを届ける新しいインターンシップを

―今後の課題や目標を教えてください。

次回のインターンシップは、2023年の春休みに実施を予定しています。大学のある西宮市の薬剤師会の協力もあり、受け入れ枠はやや増加しました。しかしながら、私たち教員のマンパワー不足という課題もあるため、徐々に学内外に協力者を増やし、この取り組みを広げていきたいですね。また、具体的な目標も一つあります。夏も4年制の学生が2名参加しましたが、じつは彼女たちの能力も現場から大きな期待を寄せられています。医療事務やドラッグストアのマネージャー候補という、薬剤師でなくても薬の知識が必要となる仕事があるんですね。そのため、この機会を大いに活用してほしい。たとえば「登録販売者」資格を在学中に取得し、インターン先で活用するということも考えています。

他の学部においても参考になる、リアルを伴うキャリア教育をお伺いできました。

どのようなキャリアを歩みたいか、早くから見据えておかなければならない薬学部特有の事情もあり、よりリアルな情報が得られる有償制インターンシップという選択をしました。「有償」に賛否両論もあり、どの大学にも適しているとは考えませんが、ただ、学生が志望する分野や職業別にきめ細かな対応が必要になってきている現状を感じます。三省合意によりインターンシップが大きく変化するタイミングで、アルバイトという形を取り入れたインターンシップも、選択肢の一つになりうるかもしれない。大学と企業の連携が深まる機会にもなりました。今後も多くの企業やステークホルダーと積極的に連携し、学生にキャリア観醸成のためのリアルなきっかけをつくっていきたいですね。

Editor’s Comment

インターンシップを含めた学生へのキャリア形成支援について、いま大きな転換期を迎えていますが、薬学部も例外ではないようです。かつて「薬学部の学生は就職に困らない」と言われ、卒業後のキャリアもイメージしやすい時期もありました。しかし今は他学部同様、自分は何が向いているのか、何をしたいのかを明確にした上でしっかり進路を考えなければならなくなりました。
また、今後「インターンシップの質の向上」について、産学が検討していますが、田内先生が現在取り組んでいる「学びから現場で実践へ」「有償インターンシップ」というキーワードに、一つの解が見えた気がしました。
(マイナビ編集長:高橋)

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