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大学事例|都留市に集う学生たちはここでの学びを携えまた日本中に広がっていく|都留文科大学

1953年、山梨県立臨時教員養成所として発足。1955年に都留市立都留短期大学となり、1960年に都留市立都留文科大学として4年制大学となる。2009年には公立大学法人へ移行したが、今もなお都留市との関係性は深く、「都留フィールド・ミュージアム」と呼ばれる地域連携活動も展開。その成り立ちから教職に就く卒業生も多く、また約85%の在学生が山梨県外の出身というのも、この大学の大きな特徴。そこで今回はU・Iターンも見据えたサポートについて、キャリア支援センターの田中氏、山田氏にお話を伺いました。

Profile

田中 昌弥
都留文科大学 副学長兼キャリア支援センター長
東京大学、同大学院で教育学を学んだ後、北海道教育大学 准教授職に就く。そして、2009年から都留文科大学 文学部 教授、2020年から副学長、キャリア支援センター長も兼任。

山田 淳
都留文科大学 キャリア支援副センター長
外資系広告会社において営業職に従事。2012年より都留文科大学 キャリア支援副センター長として、主に企業分野への就職支援を担当。1級キャリアコンサルティング技能士。

多様な友人との交流から他者理解、自己理解を学ぶ

―まず驚いたのが、学生の約85%が大学のある山梨県以外の出身ということです。そのことはキャリア支援にも影響を与えていますか。

田中:そうですね、一つの重要な要素になっています。本学は臨時教員養成所として始まった歴史もあり、教員養成に注力し全国へ教員を輩出してきました。それによって日本中から教員志望の学生が集まるようになり、民間企業への就職も増えてきた今でも続いています。北は北海道から南は沖縄まで。多種多様な価値観を持つ若者が人口約3万人の都留市で学び生活をしています。

ちなみに、本学の学生は約3,000人。つまり、市民の10人に1人は同じ大学の仲間という環境のため、自ずとその交流は深いものになります。都会の大学では、友人との交流は授業やサークルが主なものかと思いますが、ここでは生活のすべてが他者との関係を学ぶ機会。元気のない友人がいれば部屋を訪ねる。異なる都道府県出身の友人から新しい習慣を知る。たとえ価値観が異なる友人がいても交流するためにその術を学んでいくことになります。

そして、この輪の中に実家から通学している学生も加わる。留学生や地域の方との交流も加わる。濃密な人間関係から他者理解を学び、一方で他者を知ることで自分という人間を見つめ直し、自己理解を深めることができる。この環境が直接的なキャリア支援の前に、人としての底力を鍛え上げていると考えます。

変化の時代に強みとなりそうですね。学生はこの環境の魅力に気づいているのでしょうか。

田中:そこが課題です。学生たちには当たり前の環境なので自覚が薄い。就職活動の段階になり、他大学の学生と交流したり、企業の方に指摘されたりして、あの経験は自分を磨いてくれたんだと気づく。折を見て伝えてはいるのですが、より自覚を持って過ごしてもっと自信に変えていってほしいですね。

山田:そこで、この環境の利点に早くから気づいて有意義な大学時代を過ごしてもらうため、1年生から体系的なキャリアデザインプログラムを実施しています。その柱である「キャリア形成」は、「民間企業」「教員」「公務員」の3分野を中心にプログラムを設計。幅広い業界から外部講師を招聘したり、講師と学生が双方向発信となるワークを実施したりしています。そして、インターンシップも単位認定科目として導入。都留市主催のビジネスコンテストと連動したり、市役所と企業を並行して経験できる内容にしたりと新しい形にも取り組んでいます。

企業、教員、公務員 ―それぞれの進路に合わせた支援

―進路はどのような状況ですか。

山田:就職先は、民間企業が約55%、教員が約30%、公務員が約15%です。しかしながら、入学当初は教員を希望している学生も多く、教員志望層がメジャーな雰囲気があります。そして、長年の実績もあり、支援プログラムも充実しています。大学4年生の春頃、教職に就いている卒業生を招き都道府県別に懇話会及び試験、面接対策を実施。教員採用試験は都道府県ごとに特色があるので、同窓会と協力し、きめ細かに対応しています。昨年は新型コロナの影響でオンライン開催となりましたが、80名ほどの学生が参加。他方で、公務員については幅広い受験科目に対応した多様なラインナップの講座を設置。民間企業は、卒業生に協力してもらいながら講義や合同説明会、インターンシップを実施しています。

田中:また、U・Iターン希望者が多いことも特徴です。結果的に、教員で約70%、公務員で約60%、民間企業で約30%がU・Iターン。出身地で教員になるという、かつてのキャリア観から派生しています。

全国各地と連携し、U・Iターンをサポート

―U・Iターンとなると、ターン先となる地域の情報や支援が必要そうです。

田中:教員においては、卒業生を中心としたつながりがあります。先ほどの支援プログラムもそうですが、晴れて教員となった際にも地元で歓迎してくれる先輩がいる。惜しくも臨時採用で帰っても次回の試験の面倒を見てくれる先輩がいる。そして、いつかは自分も後輩を同じように気遣う。そういう良い循環が出来上がっています。

さらには教職に就いた後のサポートも。本学の特任教員が相談窓口を設置しており、全国各地への訪問やオンラインで悩みや不安に対応します。教員の離職は社会的な問題でもありますから、積極的に取り組んでいます。一方で、教員以外の領域で各地域との連携はまだまだ模索中です。全国津々浦々の市区町村の役所・役場や地場の企業とそれぞれ関係性を構築するのはなかなか難しいですが、地域の団体と連携して取り組んでいます。

山田:具体的には、各都道府県の商工会議所やジョブカフェなどと呼ばれているU・Iターンサポートセンターと協働し、相談会や面接対策などを開催しています。オンラインが普及したことで、以前より協力してもらいやすくなりましたね。学生を見ていると、最初はやはり名前を知っている有名企業を志望します。しかしながら、希望するU・Iターン先でそのような企業は限られてくる。そのような状況で、地域の方々からリアルな情報を得られることは非常に有意義だと思います。そして、その地で「自分は何をしたいのか」という観点でのマッチングも向上していると感じます。

身体性を伴う実践が思考力を磨く

―今後、さらに目指していきたいことを教えてください。また、全国でキャリア支援に携わる方々へのメッセージもお願いします。

山田:情報があふれている時代で、大学が発信する情報がその意義を持つものかということが問われていると感じます。そのため、双方向や実践という学生個人では得られないものを提供することに、今まで以上に努めていきたいですね。

実践といえば、先日企業の方からうれしいお話がありました。本学には国文学科という日本の文学や文化を学ぶ学科があるのですが、そこの学生がIT業界に進むことがある。どこが評価されるかと思っていたのですが、「読解力」「論理的思考力」「コミュニケーション力」が長けているとお褒めいただきました。この学科では、日常的に資料を読み、論文を組み立て、執筆している。その実践が社会で必要とされる能力を育てたのかもしれません。本学は全員が卒業論文を書くので、多かれ少なかれこの力が身につくはず。学んでいることが社会で活かせるという話も学生に響く形で届けていきたいですね。学生とのコミュニケーションの在り方は答えのない問題。ぜひ全国の大学と情報共有しながら、一緒に取り組んでいきたいです。

田中:2023年4月から都留ヒューマニティーズ・センターという施設が稼働予定です。そこには、デジタル工房という身体とITをつなぎ実践する部屋も用意し、学生がより主体的に取り組める環境を準備しています。先ほどの卒論の話ではないですが、やはり自分で課題を発見し解決していくという身体を伴った活動が深い思考力を育てると思うのです。

加えて2025年度には、都留市と連携した多世代交流の施設も開設予定。現在も地域交流「都留フィールド・ミュージアム」という活動を展開していますが、拠点として高齢者住宅や子どもたちの広場、そして本学の施設を常設します。より多様な人々と交流する環境ができ、ここから新たに体得することもあるはず。人間としての底力をさらに磨いていってほしいですね。今の学生を見ていると私たち世代よりも堅実で、そしてこのコロナ禍を助け合って乗り切る強さも持っています。その姿から私たちも大いに学ぶことがある。若い人に学び、そして私たちが助けられる部分では手を差し伸べる。そのような姿勢で学生と向き合い、次の時代を支える人材を育てていきたいですね。

Editor’s Comment

「都会の喧噪を離れ、自然豊かな環境で学ぶ」。この言葉だけであれば、全国で他にもあてはまる大学はありますが、企業、教員、公務員、大学院進学それぞれ志望する学生が一定数いること、また各都道府県や海外から学生が集まっている大学はあまり他に類を見ません。そのような状況の中、U・Iターン就職支援だけでなく、地域連携やOBOGによるキャリア形成支援など、学生が多様な価値観に触れながら、自分を見つめ、そして世界を見て欲しい、そのような願いを持って支援をされていると感じました。キャリア支援センター長である田中副学長の「学生はみんな素晴らしい力を持っている。それに気づかせたい。」この言葉が非常に印象的でした。
(マイナビ編集長:高橋)

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