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地方創生賞|学生時代からプロとして実践的に社会を学ぶ|久留米工業大学

「人間味豊かな産業人の育成」を建学の精神とし、近年はAI教育やDX化、地域の課題解決など地元密着型の活動を展開する久留米工業大学。その大学の取り組みの一つであるASURA(アシュラ)というプログラムが「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」で「地方創生賞」という賞を受賞しました。このASURAは大学の授業とはまったく異なる観点から、社会で多くのことを実践的に経験できるといいます。会社のような仕組みで動くASURAの魅力について、発起人でもある工学部 建築・設備工学科の成田氏にお話を伺いました。

Profile

成田 聖 氏
久留米工業大学 工学部 建築・設備工学科 准教授
2009年に九州大学 大学院芸術工学府博士課程修了。国立文化財機構 奈良文化財研究所、現代美術艸居を経て、2016年より現職。2017年にASURAの前身となるグループを設立し、2019年には建築・設備工学科の正式なプロジェクトとして運営。専門は日本建築史、地域活性化、空間デザインなど。

教授ではなく地域と学生をつなぐ上司のような存在

「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」の「地方創生賞」の受賞、おめでとうございます。受賞された感想をお聞かせください。

大変光栄な賞を受賞できてありがたい反面、ここまでやってもまだ改善の余地があるのかと、正直悔しい思いがあります。これまで、このASURAというプログラムを続けてきて、成長した学生や地域・大学に寄与できたことにおいては自負している部分がありました。

我々には、人的にも予算的にも大きな制約があります。そのなかで制約をいかに逆手に取り、視点を変えて成果を出せないかということを常に考えています。地方創生も同じです。実行して成果を出すのは本当に難しいことですが、こうした厳しい環境下でも成果を出し続けなければならないと改めて感じました。

それでは、ASURAを立ち上げた経緯について教えてください。

大学に赴任してから、計画立ててシラバス通りに進める講義だけでは学生の成長に限界があると感じていました。講義とは違う観点で学生を育てられないか、学生に足りていないピースは何か、と考えました。そこで、地域の企業の声と学生の声をつなぎ合わせたASURAを立ち上げたのです。

しかし設立当初は、私のビジョン自体が現代教育や時代の流れと真逆だったこともあり、誰からも応援も期待もされていませんでした。今では日本最大規模の建築学生プロジェクトへ進化し、本学や地域のキラーコンテンツになりつつあります。

ASURAは、大学とは少し離れた存在で、会社のような仕組みです。私は教授ですが、会社の上司のような存在として、厳しく目を光らせています。戦い続けるASURAで、夢や方向性、自分が向いていることなどを見つけ出し、やりたいことに全力で取り組めるような学生になってほしいです。

大人として責任感と夢を叶える力をつける

本プログラムの特徴について教えてください。

最大の特徴のひとつは会社のように運営していることです。ASURAには例年、1年生から大学院生まで、年により異なりますが40人から70人ほどの人数が在籍しています。参加している学生のことはプロジェクトに関わる一人の大人として認識しています。いわゆる共同運営者のようなものです。学生は18歳を超えた大人ですし、このプロジェクトに対して大学からも企業からもお金をいただいています。そのためASURAの学生は、緊張感を持って、プロとして成果を出すことを念頭に取り組んでいます。

私は、今の日本の学生は配慮の積み重ねの世界で生きていると感じています。少子化で学生が貴重な存在になっている今、その数を確保し、経営を健全化するという観点から、過剰な配慮が学校で見受けられていると思うのです。学生だから配慮してもらって当たり前、何かやるにしても準備も今後のビジョンも不足している。そんな今の学生を変えたい。責任感を持って取り組み、夢を叶えられる力をつけ、どんな会社からも必要とされる人間に育ってほしいと思っています。

成田先生の熱い思いが伝わってきます。ASURAのプロジェクトでは、具体的にはどのようなことに取り組むのですか?

ASURAには現在、地域のカフェやナイトプールを手がけるものなど、8つのプロジェクトがあります。学生のやりたいことを企業に提案して協力してもらうこともありますが、企業からオファーがくることも多々あります。たとえば、川の駅再生プロジェクトの事例もオファーをいただいたものです。小さな道の駅のような施設を、学生が一からデザインや経営方針などを考えて改善しました。10人程度で2年半かけて行い、プロジェクトが成功するまで取り組みました。

学生はプロジェクトの中で、デザインなど華のある部分だけではなく、事務書類の手続きやクライアントへのヒアリング、リノベーションに必要な材料の手配など裏方の部分もしっかりと行い、責任感を身につけていきます。プロジェクトを実行する上で、ビジョンの違いによって学生同士がぶつかったり、足並みが揃わなかったりした時にだけ、私がプロジェクトの上司として指導するようにしています。この経験を通して、学生自身の適性や才能を見つけ、将来の仕事につながるとうれしいですね。

社会を知ることは学びの本質を知ること

―このプログラムを実践して見えてきた効果を教えてください。

効果はシンプルに学生が大人になったことですね。責任感や仕事をする上で欠かせない力を養ったおかげで、目指していた会社に入社できたり、内外のコンペで賞をもらったりと、確実に目に見える結果が出ています。企業に入ってから新入社員が数年かけて学ぶことを学生時代に身につけていますからね。

また、低学年から現場を経験しておくと、学生は自分は何ができていないのか、何に興味があるのかということがわかり、講義で学ぶべきことまで明確化できます。社会を学ぶことで、勉強の本質や学び方を知ることができる点も、ASURAの効果と言えますね。

プログラムを運営していく上での課題や今後挑戦していきたいことはありますか?

ASURAの知名度が上がるにつれ、参加したいと手を挙げる学生は今より増えるかもしれません。しかし、ASARAの方針に納得できていない学生を加入させたり所属させ続けるわけにはいかない。このジレンマが課題となっています。学生全員を対象にしたプログラムではASURAではなくなってしまい、真剣な学生ほど物足りなさを覚えるでしょう。ASURAらしさを鈍らせないように続けていきたいです。

また今後は、久留米市やグローバル企業と協力し、廃校になってしまう小学校の新たな使い道や建て替え時期のコミュニティセンターの集客方法、システムなどを含むデザインを行っていきたいと考えています。地域の再編によって、地域が活性化するだけでなく、学生を成長させる。全国的にこういった成功例を示したいです。

失敗を恐れずに平坦ではない道で戦い続ける

最後になりますが、他大学の皆さんにメッセージをお願いします

大学それぞれに課題や問題はあるかと思います。今の状況に穴はないか。学生ではなく、自分本位の考えになっていないか。キャリア支援部署であっても、学生課であっても、改善すべき点は、その都度変えていかなければいけません。問題を解決するためには、とにかく取り組めることから着手していかないと状況は改善されないと思います。
一般的な社会の流れや風潮、平凡な対策ではなく、それぞれの組織や学生にマッチした施策が必ずあるはずです。何かを新たに始めることは確かに難しいことです。しかし、失敗や非難を、社会の漠然とした何かを恐れずに立ち向かってほしいと思います。

Editor’s Comment

工学部 建築・設備工学科の成田准教授に取材させていただきました。地方自治体や企業との共同プロジェクト、建築物・公共空間等の調査・利活用など多岐に渡るプロジェクトが社会で実践的に学べる点が魅力的であり、実践的なプログラム設計にあたり参考になる話を伺うことができました。
またそれだけでなく、学生一人ひとりの主体的な行動を重視し、時に苦難や失敗を乗り越え、常に学生の成長欲求を刺激する環境を作られている成田准教授の熱意と覚悟が学生に届いたのではないかと思いました。
(キャリアデザインプログラムアワード 実行委員長:久保)

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