愛知県名古屋市と豊橋市に3つのキャンパスを展開する愛知大学。1946年に設立されて以来、15万人を超える卒業生を輩出してきた歴史ある私立大学です。文学部、国際コミュニケーション学部、地域政策学部など全7学部・短大を有し、国際社会や地域社会に貢献する人材育成を目指しています。地域連携や実践的な学びを重視し、地元企業や自治体との連携も盛んな愛知大学では、キャリア支援の一環として、マイナビと協力して行うPBL教育を行っています。今回は、そのPBL教育を実施している地域政策学部の学部長である鈴木氏と昨年までキャリア支援課長として活躍されていた入試課長の竹下氏にお話を伺いました。
Profile

鈴木 誠 氏
愛知大学 地域政策学部 学部長 / 教授
愛知大学卒業後、大学院を修了。岐阜協立大学(旧岐阜経済大学)で20年間勤務したのち、2011年に愛知大学での地域政策学部の新設とともに、同学部に着任。キャリア支援センター委員を経て、現在は地域政策学部の学部長としてキャリア教育に携わる。また、日本地域経済学会会長、コミュニティ政策学会の理事も務める。

竹下 賢 氏
愛知大学 企画部 入試課長
愛知大学入職後、入試広報、大学広報、エクステンション講座など多彩な企画に携わる。キャリア開発講座運営を経て、2021年から2024年までの3年間、豊橋キャリア支援課長としてキャリア支援に携わり、2025年から現職。
自立・自走型の地域社会人の育成を目指す

―まずは、大学全体のキャリア教育・キャリア支援の考え方や方針について教えていただけますか?
竹下:愛知大学は、変化する社会の中で、自らの能力を活かして社会の課題に立ち向かうことができる自立・自走型の人材の育成をモットーにキャリア支援を行っております。長いライフステージで幸せに生き抜く力を育んでほしいと思っています。
―なるほど。そのうえで、本日は地域政策学部と文学部のある豊橋キャンパスの取り組みを中心にお伺いしたいのですが、どういった特徴があるのですか?
鈴木:まず、豊橋キャンパスは愛知や静岡といった東海地域から進学してくる学生が多い点に特徴があります。そして、「地域社会に役立ちたい」「地元経済の一員として活躍したい」という思いを持った学生が多いのです。特に、豊橋キャンパスは地域政策学部もあり、学部教育の目標としても「地域を見つめ、地域を活かす」を掲げています。
そういった背景から、キャリア教育においても地元で活躍する企業、コミュニティ、地方自治体と連携し、マイナビにも協力していただいている正課の授業や、毎年300名以上の学生が参加する地域政策学部独自の正課外活動「学生地域貢献事業」などの豊富なPBL型の「地域社会人」養成教育プログラムを展開しています。
▼マイナビが運営する企業課題をテーマにした企画アイデアコンテスト
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地域社会人として地域に貢献できる力を養う

―どちらも、非常に興味があります。まず、正課の授業から教えていただいてもよろしいですか?
鈴木:こちらは地域政策学部と文学部の1〜2年生が受講できる選択型の総合科目として5年前からスタートしました。毎年、抽選で約40名が受講しています。1セメスター(半年間)で合計15回の授業があり、前半の7回は民間企業からいただいた課題と向き合い、グループをつくって仲間と討論や調査を行いながら、課題解決の方法と内容を学んでいきます。後半は同じグループで、スタートアップ企業や行政を支援者として、地域防災・減災、生態系保全、地球環境対策、地域福祉、貧困対策、外国籍市民との共生など地域の多様な課題の掘り起こしと解決に向けた「起業提案」「政策提案」などに挑戦します。
竹下:ちなみに、講義前半でその課題を提出してくださる企業との橋渡し役として、マイナビには本当にお世話になっています。最初から学生が自分たちだけでグローバルな課題や地域の課題を見つけていくのは難しいですからね。
鈴木:そうですね。そして、学生たちは一つひとつステップアップしながら、コミュニケーション能力や課題分析能力を高め、地域課題の発見や解決方法を探り出し、社会貢献型の大企業や地域と共生する中小企業、地方自治体やNPOなど多様な組織の人たちの能力を活かして実践的な提案に結び付けていきます。こうして地域公共人材として必要な能力を身につけていくのです。
―低学年から濃い内容を学んでいくのですね。では、正課外の取り組みについても教えていただけますか。
竹下:たとえば、大学の地域連携センターが主催する地域連携活動や地域政策学部固有の学生地域貢献事業といったプログラムは、豊富な実績を生んでいます。こちらは正課の総合科目よりも多くの学部・学生が参加することができ、そのプログラムの中で地域の自治体や専門家、地域企業やNPO法人などで活躍する方々と連携して地域独自の課題に向き合い、解決の糸口を見つけ出す取り組みを行います。
このプログラムでは、様々な専門家の助言を得て、解決策が誰にどのような利益を生み地域貢献につながるのか、地域社会を暮らしたい市街地・移住したい農山村として再生提案するところまで考え、ソーシャルビジネスの起業によって提案を実現できるかまで考えていきます。
また、低年次(大学1~2年生)対象のキャリアフィールドという地元の社会や現場に触れることができるプログラムも用意しています。以前実施した具体例としては、地元の鉄道会社とタイアップして100周年記念弁当を企画、制作するプロジェクトを行いました。こうした体験ベースの実践的な学びは、自身のキャリアのビジョンを構築する手助けになると考えています。
鍛えられたメンバーがキャンパス全体に良い影響を

―正課も正課外も企業や地域のコミュニティなどと連携した実践的なキャリア教育やキャリア支援を行っているのですね。どういった効果が現れていますか。
鈴木:愛知大学のキャリア教育やキャリア支援は地域と連携した実践的なものが多いこともあり、成果を定量的な数字で可視化することは難しいのですが、学生たちの自立していく姿は日々実感していますし、自治体や企業の方々も高く評価してくださっています。
また、毎年40名ずつですが、正課の総合科目でレベルの高い授業を体験することで、学生たちは自己肯定感を持ち、自律した学生生活、主体的な問題意識を重視した学生たちの姿が見られるようになります。そうした潜在能力の醸成こそ、卒業後の働き方、暮らし方を見据えた積極的な各学部での専門的な学修活動、難易度の高い資格の取得、海外研修・留学などに自分自身を導いているように思います。
たとえば、そのメンバーが正課外の地域連携プログラムや学生地域貢献事業などにも積極的に参加することで周囲の学生も刺激を受け、主体的に地域へ参加し、市民や企業、自治体などと協働して新たな政策の提案や商品・サービスの開発など活動を始めてくれます。さらに、この経験を活かして、卒業後は自治体や企業の側から大学と連携したり、市民が暮らし続けたいと考える社会の実現に立ち上がってくれる人材へと成長してくれています。
竹下:また大学としても、この総合科目と正課外のプログラム、そして、大学の学びの中心である各学部の授業の3つのベクトルがあることで、社会から評価される能力を育み、地域で真に活躍できる人材を育成できると考えています。
―ちなみに、難しさや課題はありますか?
竹下:やはり試験などが実施できる学問分野と違い、キャリアは数字で評価できるものではないですからね。キャリア支援の成功というのは、いかに学生が納得して進路を決めることができたか、ということだと思うのです。そこで、私たちができることとしては、キャリアを考える後押しやきっかけの提供だと考えています。マニュアル通りではなく、目まぐるしく変化する社会や世の中の状況、多様化する学生に合わせて毎年試行錯誤しながら、ブラッシュアップしていくことが大切だと実感しています。
あらゆる側面を知る地域に根付いた大学の使命とは

―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
竹下:キャリア支援を行っていると、例えば学生たちが自己診断の結果に左右されていると感じることがあるので、それだけにとらわれずに学生の話をじっくり聞いたうえで、学生のニーズに相応しい助言やサポートが必要になるのではないかと考えています。そのためには、私たち自身が俯瞰的に物事を見て分析することや、現在の就職状況のエビデンスを示すだけでなく、自らの主観を信じて進むことが必要だと思います。学生たちの言葉にもじっくり耳を傾け、二人三脚で伴走し、学生たちのサポートをしていきたいですね。
鈴木:愛知大学は、1946年に開校したので、来年で80周年になります。長い歴史の中で、地域に根付く大学として地域の自治体や企業、そこで働く人々、そして卒業生たちなどとの多くのつながりがあります。特に、エリアとしては東海地域を中心に中部地方の都道府県、大都市、地方都市、農山村地域とは多様な結びつきがあり、地域固有の価値や人々の誇り、地域産業の強みも把握しています。地域に根付いて輝く企業は規模に関係なく学生たちに勧めたいですね。
また一方で、地域が抱えている今日的な課題は、将来大きなビジネスチャンスに繋がる可能性もあります。地域に根付く企業や小規模な自治体ほど、人口減少や労働者不足といった課題を課題で終わらせず、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスによって地域活性化のチャンスにしています。地域とつながることで、学生たちはどんどん潜在能力を開花させていきますね。
だからこそ、私たちは会社に利益を生む人材の育成だけを目指すのではなく、地域に貢献し、理想とする社会を構想し、導くことができるような人材を教職員がチームのように協力しあって育てていくことが使命であると感じています。
Editor’s Comment

変化の激しい時代を生き抜く「自立・自走型人材」の育成を目指し、キャリア支援と就職支援を行う愛知大学の鈴木教授と竹下課長に取材しました。印象に残ったのは「課題解決型プログラム」の実施です。少人数制という環境を活かし、学生が主体的に課題に取り組み、解決策を探るプログラムですが、課題意識と解決意欲を高め、その後の大学生活にも良い影響を与えていると感じました。これは、キャリア形成支援の成果といえると思います。また、1~2年生向けの「キャリアフィールド」では、地域企業(Community Based Company= CBC)と連携して新たなお弁当を企画するなど、実践的な活動を通して地域社会との関わりを深めていました。卒業後も地域の課題を自分事として考え、行動する人材の育成が期待できます。
(マイナビ編集長:高橋)
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