学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取組を表彰する「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」で優秀賞を受賞した日本大学。今回は日本のモノづくりを支える「経営管理能力を備えた技術者」を育成し続ける生産工学部の「生産実習」というキャリアデザインプログラムに焦点を当ててご紹介します。大学内でも日々の学びと関連づけ、発展させるための結び目を担う中核的な科目だと言います。70年以上の歴史がある中で、ブラッシュアップし続け、受賞に至った生産実習の魅力や今後の可能性について、土木工学科の中村氏と数理情報工学科の細川氏にお話を伺いました。
Profile
中村 倫明 氏
日本大学 生産工学部 土木工学科 准教授
2011年に博士(工学)を取得。電力会社にて環境アセスメントに従事。その後、助手、助教、専任講師を経て2022年から現職。環境水理学を専門とし、現地調査、数値シミュレーションから海洋の汚染状況を把握。現在は千葉県船橋市と協定を結び、都市から排出されるマイクロプラスチック問題の解決に挑む。
細川 利典 氏
日本大学 生産工学部 数理情報工学科 教授
1987年~2003年まで大手電機メーカーに勤務し、大規模集積回路(VLSI)の設計自動化ソフトウェアの研究開発に従事。2001年に博士(工学)を取得。2003年に日本大学生産工学部の助教授に着任し、准教授を経て2009年から現職。VLSIの設計・テスト・故障診断・セキュリティに関するソフトウェアの研究を専門としている。現在、電子情報通信学会ディペンダブルコンピューティング研究専門委員会の委員長を務める。2022年から生産工学部就職指導担当。
必須科目として全員が学ぶ実習先は800社を超える
―「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」での優秀賞の受賞、おめでとうございます。受賞された感想をお聞かせください。
中村:正直、やっと受賞できたという思いです(笑)。実は今回受賞した「生産実習」は70年以上の歴史があり、昨今の社会においてインターンシップなどが盛んになる前から実施しているプログラムです。過去にも応募したこともあったのですが、今回改めて、「学生に説明する視点」に立って応募したことが受賞につながったと思っています。また、これまでにご協力いただいた数百の実習先とプログラムに携わっているすべての教員の皆さまに感謝を伝えたいと思います。
—今回受賞されたプログラムである「生産実習」について、より具体的な内容を教えてください。
中村:生産実習は必須科目であることが特徴で、実習は基本的に3年生の夏休み期間におこなわれます。プログラムの流れとしては、生産実習NOTESというものを教材として、事前教育、実際に企業でおこなう70時間の実習、事後教育となっています。
事前教育では、自己探究や業界研究、マナー講習などをおこない、事後教育では実習での目標達成度や自身の成長などを自己評価と他者評価で比較します。このように1年を通してキャリアプログラムを実施し、社会人に求められるスキルとエンジニアとして求められるスキルを同時に磨くキャリア形成を目指しています。
細川:日本最大規模の大学である日本大学は、あらゆる企業に日大出身者がいる強みもあり、800もの企業が実習を受け入れてくださっています。国内のみならず海外の企業も含めたさまざまな業種や業態の企業が受け入れ先となっているため、学生自身が興味のある分野を選んで、その希望に沿った企業を我々教員がマッチングさせるという仕組みです。
中村:ただ、単に学びたいことややってみたいことだけでマッチングしているわけではありません。実習を受け入れてくださる企業から事前にアンケートを取得し、実習でどんな能力が伸びるのかという部分をデータ化しています。学生側は、そのデータを利用して「伸ばしたい能力」という点からもマッチングができる仕組みを構築しています。
緻密に考えられたキャリア教育で経験を学びに変える
―では、より具体的にプログラムの特徴や背景について教えてください。
中村:生産工学科目は、キャリアデザイン教育とエンジニアリングデザイン教育を柱として成り立っています。その二つの教育の結び目になるのが、生産実習だと考えています。
低学年時には、キャリアデザイン教育の中で、卒業生インタビューや企業インタビューなどの経験を通じて社会というものを学び、自己分析や業界研究をおこないます。エンジニアリングデザイン教育では、第一線で活躍されている技術者の方々からキャリアや仕事についての講義を受けます。
これらの間接的な経験を生かし、次のステップである生産実習で直接的に社会を経験し、その経験を学びに変える。このサイクルを生み出しているのが、このプログラムの最大の特徴です。
細川:生産実習内の事前教育では、自分が本当にやりたいことは何かという問いにしっかり向き合うことで、興味のある分野や企業を自分で選ぶことができます。さらに事後教育では、自身で振り返るだけでなく、実習を終えた秋頃に受け入れてくださった企業を招いて学生が作ったパネルの展示をおこなっています。実習では、大学で教える学問という部分だけでなく、社会のリアルな部分や根底にある部分を、学ぶことができることも特徴だと考えています。このように質の高いプログラムをおこなうことで、個々の学びをしっかり成長させる手助けをしています。
―緻密に考えられたプログラムですね。今後チャレンジしたいことはありますか?
細川:まずひとつは、実習を長期化することで、さらに一歩進んだ実習にしたいと考えています。現在のプログラムでは実習後に振り返りをおこない、反省点や課題点を考える事後教育までおこなっていますが、新たな問題点や挑戦したいことなどに実際に取り組むところまでを実習に組み込めるようにしていきたいと考えています。
もうひとつは、海外の実習先を増やすことです。海外の職場に興味を持っている学生も増えてきているため、グローバルな視野を得られる機会をもっと提供していきたいと思っています。もともと数年前からインドのプネで実習をおこなっていたのですが、コロナ禍で中断していて、昨年度から再開しました。今年度はカナダのバンクーバーとベトナムのハノイで実施予定なので、今後はよりこういった機会を増やしていきたいと考えています。
中村:土木工学科としては、地域特有の課題を企業と共に考えて解決していくような、地域に根ざしたプログラムを作っていきたいと思っています。また、生産実習においては、我々が実習先といかにコミュニケーションを取れるかという点も重要だと考えているので、企業と密にコミュニケーションを取り、より良いプログラムを提供したいですね。学生が求めていることや実習内容について企業としっかり協議し、プログラムをブラッシュアップしていきたいです。
量も質も確保し個人に合った学びを提供
―実習先と就職先が直結することはあるのでしょうか。
細川:ほとんどの企業は実習に来た学生を採用したいという思いがあるように感じています。実際、実習に来た学生に就職しないかと名指しで声がかかることもあります。逆に、実習先に就職したいと考えている学生も多いので、この実習が背中を押すような形になっていることも事実としてあります。
学生には、本当に自分がやりたいことは何なのか、このプログラムを通じて真摯に向き合って欲しいと思います。大学側としては、学問として質の高い学びの場を提供し、企業側は学生が求めているものを知る機会である点にメリットを見出して、三方良しの実習をおこなっていくことが理想と考えています。
中村:土木工学科では、約20%の学生が実習先に就職しているというデータが出ています。10年ほど前は、実習やインターンシップは教育の一環として考えられていましたが、現在は実習と就職が連動して考えられることが当たり前になってきました。その結果、我々も教育と就職支援の双方をうまく両立していかなければいけないと実感しています。
というのも、実習後には企業に学生の評価をしてもらうのですが、就職につなげるためにすべて100点にするわけにはいきません。なので、採点基準を設けてルールを策定しました。この取り組みによって、コメントだけでなく、なかなか数値化できない能力についても点数がつき、目に見える形でのフィードバックがおこなうことができています。
―このプログラムをおこなっていく上での難しさについて教えてください。
中村:一番難しいと感じていることは、全員が参加する必須科目の本プログラムで、学生個人に対する最適な学びを提供することですね。たとえば、「土木工学科」と聞くと専門分野にフォーカスが当たっているように見えますが、システム関係や現場業務など活躍できる場は多岐にわたっています。情報があふれている現在、学生は丁寧に情報を取捨選択し、自分と向き合って本当にやりたいことを抽出しています。だからこそ、多様性のある学生に対して学生個人が求める学びを提供していくことに尽力したいと思っています。
細川:本プログラムは始まった当初から、単位として実習で70時間確保しなければならないという側面があります。しかし、さまざまな企業がインターンシップをおこなっている今、実習を受け入れてくれる期間が短く、実際に企業で実習ができる時間は限られたものになりつつあると感じています。その時間の壁を解消するために、企業と密にコミュニケーションをとって実習の質を担保しています。
教員も学生も同じベクトルで真摯に向き合う
―最後になりますが、他大学の皆さんにメッセージをお願いします。
細川:インターンシップがまだ珍しい時代は、教員と生徒が就職に関して、密にコミュニケーションをとること自体少なかったように思います。本学部では、学生のキャリアや将来について教員と学生がコミュニケーションを取りながら、一体になって考え、向き合っています。教員が目指すベクトルと実際に学生が向いているベクトルを合わせていくことが重要だと考えています。
中村:本プログラムは、さまざまな教員や企業の支えがあって成り立っていると感じています。教員や就職支援課の担当者だけが学生のキャリア支援を実施していくことは、かなり厳しいと思うので、組織で支え合っていくことが大切だと思います。学部の特徴を活かしたキャリア支援を協力して作っていきたいですね。
Editor’s Comment
生産工学部 土木工学科の中村准教授と数理情報工学科の細川教授に取材させていただきました。本プログラムの中核となっている生産実習は70年以上の歴史を持つという中で、生産実習NOTESや生産実習SYSTEMなど学びを可視化できる新しい仕組みを導入し、学生の個別最適な学びに繋がる細やかな工夫をされている点が印象的でした。また、学生・教職員が同じベクトルを向いて組織的にシステムを作ることが、効果を最大化する上で極めて重要なことだという姿勢にも大変驚かされました。
(キャリアデザインプログラムアワード 実行委員長:久保)
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