マイナビも後援している、学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取組を表彰する「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」。文部科学大臣賞を受賞された北九州市立大学 地域創生学群の片岡寛之氏に、受賞対象となった「地域創生学群チャレンジプログラム」についてお話を伺いました。文系4学部・1学群、理系1学部、大学院4研究科を有する公立の総合大学として、地域貢献・環境への取組・グローバル人材の育成に力を入れる北九州市立大学。その一学部である地域創生学群の学生たちは同プログラムを通じて、どのような経験をし、どのような力を身に付けたのでしょうか。プログラム開発の過程も含め、詳しく話していただきました。
Profile
片岡 寛之 氏
北九州市立大学 地域創生学群 地域創生学類長 チャレンジプログラム担当
九州大学大学院修了後、安藤建設株式会社に入社して2年間の現場管理の実務を経て、財団法人北九州都市協会にて調査研究業務に従事。その後、北九州市立大学にて大学教員としてのキャリアをスタート。加えて、2012年には兼業で(株)北九州家守舎の取締役に、2020年には(株)寿百家店の取締役に就任。
チャレンジプログラムで文部科学大臣賞を受賞
—この度は、文部科学大臣賞の受賞、おめでとうございます。受賞対象となった「地域創生学群チャレンジプログラム」の立ち上げの経緯から教えていただいてもよろしいでしょうか?
ありがとうございます。2015年から開始したプログラムですが、こうした公の場で評価されるというのはやはり大きな励みになりますね。そもそも、このプログラムをスタートする以前から、私たちの所属する地域創生学群という学部自体が「実践と理論」の両立を教育目標として掲げ、大学1年生から3年生まで必修単位科目として地域での実習を取り入れているような学部でした。そして、実習を通して1~2年生で基礎を固め、3年生で創造的な活動に取り組んでもらうことを想定していました。しかし、当時の就活時期が早まったため、せっかく頑張っていたのに3年次で実習に本腰を入れにくい雰囲気がではじめるなど、全体的に小さくまとまったような雰囲気になってしまいました。
そんな状況を打破するため、更なる挑戦意欲をもつ学生向けに、ハードルの高い尖った実践の機会を設けようと誕生したのが、この「地域創生学群チャレンジプログラム」です。
起業やインターンシップのお膳立てはすべて取り払う
—ということは、これまでの3年生の実習とは大きく異なる内容なのですか?
はい。これまでの実習も実践の場として効果を発揮していましたが、とはいえ、大学側がお膳立てした環境の中でのトライでした。しかし、このチャレンジプログラムはそのお膳立てをすべて取り払いました。
たとえば、参加する際の人数。このプログラムでは、自ら考えた事業を長期間にわたって実施する「起業トライアルプログラム」と受入企業などで週3〜4日のフルタイムインターンシップに取り組む「リアル就職プログラム」の2つのコースがあるのですが、どちらの場合も1人で挑戦してもらいます。チームメンバーや一緒にインターンシップに参加する仲間がいるとどこかで頼る気持ちが生まれると思うのですが、その部分も取り払います。
さらに、起業トライアルであれば、事業のための資金を集めるところから自分でやってもらう。リアル就職プログラムでは、家から通えない会社でのインターンシップになった場合は、その会社のある地域に一時的な移住をしてもらいます。月に一度は報告を兼ねて大学に顔を出すこともありますが、基本的にはその会社の社員と同じような環境、同じようなタイムスケジュールで働きます。そこまでやって、初めて身に付く力があると思うのです。
プログラムに参加した学生たちは発言も雰囲気も大きく変わる
—それは、すごいですね。ここまでリアルかつチャレンジさせているプログラムは初めてです。
あと、ここまでやったからこそ身に付く力というのも気になります。
そうですよね(笑)。そもそも、地域創生学群の学生たちは大学1〜2年次の実習活動でその下地となる経験を積むことができているし、最近ではこのプログラムを目指して志願する高校生が増えているという背景もあります。そして、大学3年生の中でも「やってみたい!」と自ら手を挙げた学生が対象ですからね。
だからこそ、このプログラムに参加した学生は本当に大きく成長します。私たちもチャレンジプログラムを通して育まれる力を大きく5つ定義しているのですが、「失敗力」「言語化力」「当事者創造力」「やり抜く力」「巻き込み力」は相当に高まると思います。リアル就職プログラムでいえば、大学時代に1度就職したくらいの経験ですからね。ここで何度も壁にぶつかったり、失敗の経験をしたりしたからこそ、新卒入社した会社では、多少失敗しても凹んで立ち直れないようなことはありません。
さらに、ある程度の責任ある仕事も任され、自分よりも年上の先輩社員たちとコミュニケーションを重ねた経験があるから、戻ってきた時は明らかに雰囲気が違いますよね。このプログラムが終了した後に報告会で発表してもらうのですが、みんな自信がみなぎり、堂々としていますね。その姿を見て、大学1〜2年生やうちの大学を志望している高校生の目の色も変わることが多いですね。
—やはり、そこまでの経験をすると、学生は大きく変わるんですね。でも、その一方でこうしたプログラムを支え、続ける大学側の苦労も相当に大きいのではないでしょうか?
はい。全部自分でやってもらうとはいえ、長期にわたって精神面のフォローをしていくのはなかなか大変ですね。あとは、チャレンジしたいという学生の質と人数などをうまくキープしていく方法については、まだ私自身、答えが出ていません。
これだけのプログラムですから、当然、挑戦する学生にとって相当な覚悟が必要です。そのため大学1〜2年生の時からこのプログラムに対する憧れる雰囲気を醸成していきながら、学生たちが最終的に自ら踏み出すのを待たなければなりません。現在は、学部生の1割くらいが参加していますが、その数を増やせるのかどうかも難しいところ。受け入れていただける企業様の数は年々増えているため、もどかしさもありますが、そのマッチングの精度も含めていきなり増やすことも出来ない状況です。
さらに、現在は私がひとりでプログラムをまわしているのですが、この取り組みをどこまでシステマティックにするかどうかも迷っています。いい意味で、少人数かつ指導する側もじっくり向き合う環境があるからこそ生まれている雰囲気、熱量もあるでしょうし。なので、この辺りはまだまだ検証し、模索していく必要があると考えています。
無限の可能性を秘める若者にチャレンジの機会を提供したい
—ありがとうございます。では、最後に他大学の職員や教員の皆さんにもメッセージをお願いできますか?
チャレンジプログラムに参加して成長する学生たちを見ていても感じるのですが、若者の可能性というのは無限大ですよね。だからこそ、その可能性を潰さず、伸ばしてあげることが重要だと思います。もちろん、大学は教育の場ですし、教えなければいけないこともたくさんあるでしょう。ただ、同時に実践の場を提供し、見守りながらも学生たちを信じ、挑戦させてあげる。言い換えると、実践と理論の両立を図りながら挑戦するマインドを醸成させる。このさじ加減が難しくも、大切なんだと思います。
私自身もまだまだ迷いながらトライしているところですが、ぜひ、他大学の皆さんとも一緒に考え、社会全体で若者たちにチャレンジできる機会をたくさん用意してあげられるといいですよね。ぜひ、連携しながら、キャリア教育の質を高め合っていきましょう。
Editor’s Comment
「学生が挑戦したいと思い、挑戦することがあたりまえの雰囲気を作ること」。自らも会社で働き、会社を興した経験のある片岡先生は挑戦することの重要さと同時に、失敗から得られることの重要さも学生に伝えながらプログラムの開発と実施をされていました。
またインターンシッププログラムに参加することは「自分と向き合うこと」と内面の成長にもフォーカスされており、日々変わる学生の価値観や志向の変化に合わせ、指導の方法も柔軟に変えている印象を受けるインタビューでした。
(マイナビ編集長:高橋)
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