秋田県設立の公立大学法人により、2004年に開学した日本初の地方独立行政法人運営の大学。「グローバルリーダーの育成」をミッションとして掲げ、ディスカッションを含め授業はすべて英語で行われています。1年間の寮生活、そして51カ国・地域の203大学より選択できる1年間の留学を必須としており、場所にとらわれず自活する経験を通し、多様な価値観や文化を感じ人間的にも成長していくことを目指しています。今回は「不易と流行」をモットーに、1学年170人ほどの小規模大学だからこそできる支援を模索し続けている、キャリア開発センター長の三栗谷氏にお話を伺いました。
Profile
三栗谷 俊明 氏
国際教養大学 キャリア開発センター センター長
東京都の私立中高一貫校で、20年以上、国語の教員として教鞭を執る。2006年に出身地である秋田県へ戻り、国際教養大学キャリア開発センターに入職。国公立、私立の垣根を越えてキャリア支援の課題に取り組む「一般社団法人 大学生の未来を支援する会」の立ち上げに携わり、現在も代表理事を務めている。
第1期卒業生とともに模索したキャリア支援
―三栗谷さんは、国際教養大学の第1期卒業生から、ずっと同大のキャリア支援に携わられているんですね。
そうですね。当時は、本当に必死に模索しながらの支援でした。新設の大学だったため、企業の人事の方とのつながりは0。アポイントをお願いして、お断りされることも。そのため、多くの企業さんが集まる合同説明会などで、学校案内と名刺を持っての挨拶回りから始めました。人事の方々もお忙しいので、30秒ですべてが伝わる学校PRを考えて(笑)。ただ、グローバリゼーションのタイミングで、ちょうど社会から求められている教育方針だったこともあり、お話しすると共感してくださり、その後は多くの企業のみなさまに助けていただきましたね。
そして、じつは、この30秒学校PR。当時、就職活動に臨んでいた第1期卒業生たちと一緒に考えたんですよ。学生たちにとっても、新しく開学された大学に進学し、そして卒業していくことは、期待とともに不安もともなう、大きな挑戦でした。進学を決めたときに、ご両親や周囲の方に反対された学生もいたようです。だからこそ、「自分の選んだ道が正しいと胸を張って言えるように、就職はがんばらないと」なんて言っている学生もいましたね。そういう意味でも、開学当初の卒業生たちとは、先生と学生という立場を越えた戦友のようなものだと、私は思っています。いまだに困ったことがあると、私から相談することもあるくらいです(笑)。
就活を経験した学生だからできるキャリアサポーター
―学生との距離感が非常に近い印象です。キャリアサポーターという、内定を獲得した学生によるキャリア支援の組織もあるんですね。
学生全員の名前を覚えられるくらいの小さな大学ですからね。キャリアサポーターの取り組みも、小規模大学だからこそ、一人ひとりにスピーディかつ丁寧に対応したいという考えのもと誕生しました。また、海外留学というカリキュラムがあるため、就職活動の時期が人によって異なるという本校の事情も加味しています。さらに、内定を獲得した学生たちで組織されているため、年々変化する就職活動の最新事情を把握するのにも非常に役立っています。海外でのジョブフェアーやインターンシップ、リファラル採用、オンライン面接など、年々進化する就活の現場のことは、私たちよりも、ついこないだ体験した学生の方が遥かに理解していると思うので。
毎年、だいたい十数人のサポーターたちが活動し、後輩の相談にのったり、ES添削をしたりしています。他にもサポーターたちが、ES書き方講座、面接対策講座の動画もつくったり。また、サポーターのもうひとつの大きな仕事は、来校される企業の対応です。説明会の仕切りや機材準備、議事録作成など。一緒にお昼をとってもらうこともあります。企業にサポーターの学生たちを通して本校らしさをお見せすることもできますし、一方で社会人間近の学生たちの成長にもつながる。やはり、第一線の社会人と話すことで、得るものは大きいようです。
そして、じつは、今後このサポーターに現役就職活動生や低学年生も誘おうかと思っています。というのも、いまの体制だとその年ごとの新たな取り組みには対応しやすいものの、一方で学年を超えて引き継がれる継続性には課題も感じているのです。だから、3年生には活動をつないでいってくれるハブ的な存在になってもらおうと思っています。また、これから就職活動をする1〜2年生にとっても、有意義なものになるはずです。先の企業対応では、「あんな良い会社だったら、受けておけばよかった!」という内定獲得後の学生もいたりするので(笑)。
ちなみに、キャリアサポーターの活動は有償で参加してもらっています。責任を持って取り組む姿勢を身につけてもらうためです。こうして学生と一緒にキャリア支援をつくっていけるのは、小規模大学のいいところかもしれませんね。もう、いろいろ教えてもらっていますよ。先日は「もうメールなんて見ないよ。Instagramでしょ」なんて言われて、アカウントをつくってもらいました(笑)。
ひとつの大学でできないことも集まればできる
―小規模校ならではの良さがあるのですね。一方で、苦労されていることもありますか。
マンパワーの問題はありますね。そのため、できないことはできないと判断し、その施策は時代にマッチしているのかと常に自問し、時代に合わせて変化することを躊躇わないようにしています。また、どうしても数が少なくなってしまうというのはある。お会いできる企業にしても、集客という面での学生にしても。そのため、積極的に、他大学とのアライアンスを組んでいます。最初は、同じ文系の小規模大学ということで、一橋大学にお声がけして。そこから、西日本にも広げて同志社大学や大阪大学。一緒に合同説明会などを実施する取り組みから始めて、いまでは一般社団法人にまで発展しました。「大学生の未来を支援する会」として、私も代表理事を務めています。
その他にも、国際系大学でのアライアンスも組み、昨年はオンラインでの合同説明会を実施しました。効率よくターゲット学生に会えるので、企業側からも好評でしたね。学生としても連携することにより、多くの企業に会えるというメリットもあり、さらに私たち職員としても困っていることを補完できるという利点もあります。「ここがわからないんだけど」ということがあると、他大学さんが教えてくれたり。コロナ禍で合同説明会ができない時期もありましたが、その間も情報交換だけは行っていました。なるべく、キャリアセンターの第一線にいる職員、特に若手に参加してもらうことで、活発な意見交換を目指しています。
そして、学生たちにとっては、他大学の学生と交流を持てることは刺激があるようです。私たちとしても、他大学の学生を見ていると新たな発見もあり面白いですね。去年は、初の低学年向けイベントも開催しました。国公立、私立という垣根を越えて、このような関係を築けているのは、本当にありがたいです。
スクラップ&ビルドでキャリアセンターを更新していく
―開学以来、新たな挑戦を積み重ねてこられたお話をお伺いできました。さらに目指されていることはありますでしょうか。
じつは、いま、卒業生の転職活動についても支援を始めようと思っています。転職を考えている卒業生はもちろん、受け入れたい、つまり中途入社社員を探しているという卒業生も。双方をどうつなげていけるのか、その方法を模索しているところです。当初は、新卒を担当しているなかでどうなのか…と思った部分もあるのですが、リカレント教育の重要性が叫ばれるなか、そのあとのフォローも用意するのは大学としてもあるべき姿だと、いまは考えています。目標が見えなくては、学びもぼやけますからね。
そのような背景もあり、最近では、新卒の学生にも、30歳の自分を思い浮かべようと言っています。少し前までは、50歳を照準にしていたのですが、時代としては、ファーストキャリアをどう築いて、そしてその先につなげていくかという重要性が増していると感じていますし、まずはスキルを磨くもよし、大きな看板の下に入りたいもよし、帰りに青山でお買い物したいという希望もよし。偽りのない、自分の本音を突き詰めてほしい。そうすることで、個人によって、本当に多種多様な将来像が見えてくるんですよね。
そして、本校はそれに対して、柔軟に対応していきます。キャリア教育に正解はないかもしれませんが、その大学らしい活動を続けていくことで、蓄積されるものがあるはずです。その過程で、できないことはできないと割り切ってもいいと思うんです。就職活動って、社会構造が変われば、会社も変わり、人も変わる、とすべてが変化していくもの。そこで、私たちキャリアセンターだけが変わらないというわけにはいきません。スクラップ&ビルドではないですけど、必要なものとそうでないものを分ける。そして、取り入れるものは取り入れる。ひとつの大学だけではできないことも、他大学と協業すればできますし。いま、自分たちに何ができるか。これからも、いま必要なキャリア支援のあり方を考え続けます。
Editor’s Comment
昨年実施した支援プログラムでも学生や社会の状況が変われば躊躇わず翌年は新しいプログラムにリニューアルする。2006年の開学一期生から就職・キャリア支援に携わってこられた三栗谷センター長だからこそできる支援があると思いました。キャリア支援や大学の規模、職員・学生の状況や抱えている課題に合わせて、支援プログラム内容や回数を充実させることも重要です。しかし、時代も学生のキャリア観も変化していくなか、より効果の高い支援を実現するには思い切った決断も大切だと感じました。
(マイナビ編集長:高橋)
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