思想堅実、穏健中正、質実剛健、積極進取という建学の精神に基づいた全人教育を目標としている福岡大学。10の学部をもつ福岡大学ですが、薬学部が立ち上げた「ふくやくプロジェクト」は、2023年から始まった薬学部ならではのPBLを導入したプロジェクトです。薬剤師国家試験合格を目指す6年間の学びの中で、「資格を取るため」だけではなく、「どんな薬剤師になりたいか」という視点を持てる学生を育て、キャリア観の醸成と社会人基礎力の育成を目指しています。今回は、本プロジェクトの担当教員である牛尾氏と薬学教育センターの鮎川氏に、このプロジェクトの魅力についてお話を伺いました。
Profile

牛尾 聡一郎 氏
福岡大学 薬学部 救急・災害医療薬学 助教
2009年に福岡大学薬学部を卒業後、九州大学にて博士課程を修了。2023年に岡山大学病院薬剤部勤務を経て、2023年に現職。過去に自身が薬局と病院で勤務した経験から、「ふくやくプロジェクト」の意義を感じ立ち上げる。

鮎川 洋 氏
福岡大学 薬学部 薬学教育センター
2001年に福岡大学薬学部を卒業。2020年に現職。薬学予備校の講師や企業の人事部での経験を活かし、薬学部の学生の学習支援に加えて、キャリア相談にも対応している。「ふくやくプロジェクト」においては、他の担当教員と学生のサポートを行い、更に学生と企業とのマッチングを支援している。
ただ資格が欲しいだけじゃない、目指すのはその一歩先へ

―まずは、「ふくやくプロジェクト」を始めることになったきっかけについて教えていただけますか?
牛尾:薬学部に入ったからには薬剤師を目指す。もちろん、それ自体は間違いではありません。ただ、それだけではもったいないのではないかと思います。薬剤師になったその先、自分はどんなことをしたいのか、どんな未来を思い描くのか、そこまで学生が考えられる時間が大学生活の中にあった方が良い、そういった思いが出発点でした。ちなみに、その根底には、薬剤師としての就職の選択肢が狭まっているという現状を感じていたことも理由です。薬剤師になるための学びだけでなく、様々な学部を持つ総合大学である福岡大学だからこそ、もっと視野を広げてたくさんの選択肢の中から自分の未来を決めてほしいと考えました。そこで、6年間の学生生活を通して、自分の進むべき道を見つけるための手助けとして始まったのが、この「ふくやくプロジェクト」です。
プロジェクトでの経験値が学生の明日を築く力になる

―実際どんな内容なのか、「ふくやくプロジェクト」の概要について教えていただけますか。
牛尾:基本的には課題解決型学習、いわゆるPBLをベースにしています。具体的には、地域への貢献や環境課題など、漠然としたテーマを出したうえで、学生たちが自分で問題を見つけ、原因を追求し、解決策を考えます。学生は、問題解決をしていくなかで直面する様々な障壁をどうクリアしていくかを考え、それぞれが意見を出し合います。さらに、プロジェクトにはビジネスマナーやコーチング、ファシリテーションなど、社会で必要とされるスキルも取り入れています。一方で、私たち教員はあくまで学生を支える役割です。つまり、問題を解決するために必要な道具を渡すのみで、学生自身の力で考えて行動するというプロセスに重きを置いています。
鮎川:カリキュラムの特性上、ふくやくプロジェクトに参加できるのは、1年生から3年生までの低学年の学生のみとなっています。現在、プロジェクトは約70名の学生と6名の教員で実施しており、完全な自主参加制のプロジェクトなので、もともと意欲的な学生が多いことも特徴ですね。
―ちなみに、学生たちはどういったことまで自主的に挑戦するのですか?
牛尾:大きく3つのステップがあり、シーズン1ではアイデアソンを行い、与えられたテーマに対し、学生はアイデアを出し合います。シーズン2に入ると、課題解決に関わる予算を計算したり、試作品づくりまで挑戦します。さらに、シーズン3に入ると、企業や行政の人たちとどう関わっていくか、新規事業の立ち上げのようなことまで学生たちは経験します。
―2023年に始まったプロジェクトということで、今年で3期生になるかと思うのですが、見えてきた成果はどんなことが挙げられますか。
牛尾:アウトプットの質が格段に上がりました。たとえば、低学年にも関わらず、学会発表に挑戦したり、学内研究助成金を獲得したりといった目に見えた成果があります。プロジェクトを経て、地域を深く知り、その地域の在宅医療に関わりたいと、訪問した薬局に就職を決めた学生もいます。逆に、薬局や病院以外の働き方に気づく学生もいて、それもまた良い成果だと思っています。低学年で自分が何をしたいのか、どんな未来を描きたいかということに向き合うことが、学習の意欲につながり、それがいわゆるガクチカにも影響しますからね。さらに、この取り組みはコア・カリキュラムともうまくマッチしている内容であるといえます。
鮎川:福岡大学はマイナビのMATCH plusを1年次から継続的に活用しているのですが、そのデータを見ると、プロジェクトに参加した学生は、そうでない学生と比較して、とくに主体性、実行力、計画力の項目が明らかに向上しています。これらはまさに社会人基礎力であり、1年次からプロジェクトに主体的に関わることで、「自分にもできる」という自信が育まれているのだと思います。学生自身は自分の能力が可視化できるので、モチベーションにもつながり、成績の伸びも顕著なのです。また、福岡大学としてもMATCH plusの導入により、プロジェクトの教育効果が可視化され、学内での報告も客観的な数値として行いやすくなりました。
大学の強みを活かしプロジェクトの付加価値を築く

―このプロジェクトを遂行していくうえで、難しさを感じていることはありますか。
鮎川:学生は、仕事を振り分けるということに慣れていないため、仕事が一部の学生に偏ってしまうことがあります。社会に出たらレールを引いてもらえることばかりではありません。自分で問題を解決しなければならない場面がたくさんあります。私たちがどこまでサポートするのかを見極めるのは難しいですが、うまくいかないことも学びだと捉え、社会に出るための練習と思って取り組んでもらっています。
―プロジェクトで今後、挑戦してみたいことはありますか。
鮎川:大きな目標としては「福岡大学薬学部の学生は、ここまでできる」ということが社会に認知されることです。それが大学のブランド価値を高め、学生の進路の幅をさらに広げると考えています。このプロジェクトで多くの経験を積んだ学生は、私たちとしても胸を張って送り出すことができますからね。そのためには、「ふくやくプロジェクト」自体のブランド価値を高めることも大切です。具体的には、「ふくやくアワード」を作り、学生が社会に出るとき、「あのふくやくプロジェクトで頑張っていたのですね」「福岡大学の薬学部出身なのですね」などと評価されるような仕組み化をしていきたいと考えています。
牛尾:プロジェクトを開始してまだ3年目ですが、すでに入試課とも連携して、オープンキャンパスやHPなどで広報活動を行っております。福岡大学への入学を希望する高校生のなかには、大学の特色ある取り組みに興味を持って、入学を希望する学生もいます。「このプロジェクトに参加したい」といってくれる学生が出てくると非常に嬉しく思います。 多彩な地域連携のフィールドを活かし、福岡大学ならではの醍醐味を学生に味わってもらえるよう、より一層プロジェクトの質を高めていきたいです。
キャリアサポートとは学生の夢を見つける手助け

―最後に、他大学の皆さまへメッセージをお願いします。
鮎川:薬学部は、どうしても薬剤師国家試験の合格が目標になりがちですが、自分は何がしたいのか、という問いに向き合うことが重要だと感じています。その問いは学びを深め、意欲を高め、何より学生自身の人生が充実します。その仕組みづくりが重要だと考えています。
牛尾:そのなかで、私たちがすべきなのは、学生の夢を見つける手助けだと感じています。そういった取り組みが、大学の色やブランド価値をつくる礎になればと考えています。これからも皆さまの取り組みを勉強させていただければと思います。
Editor’s Comment

「ふくやくプロジェクト」は、薬学教育にキャリアデザインという視点を取り入れた、極めて先進的な取り組みであると感じました。単なる資格取得に留まらず、学生一人ひとりが“自分はどんな薬剤師になりたいか”を考え、実践を通して社会人基礎力を養っていくプロセスは、まさに時代の要請に応える教育の在り方です。低学年からの挑戦と成長が数値としても可視化されている点は、非常に参考になると感じます。薬学部教育の新たなスタンダードとして、今後の発展に大いに期待しております。
(メディカル事業本部 キャリア開発支援統括本部 末吉夢大)
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