学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取組を表彰する「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」で「文部科学大臣賞」という栄えある賞を受賞した関西学院大学のCross-Cultural College (CCC)※Global Internship in Japan。10年以上にわたって続けてきたこのキャリアデザインプログラムは、コロナ禍も乗り越え、カナダの4大学と共同で行われています。そのプログラムで学生が得られるものは、単なる英語力の向上だけではないといいます。グローバル化が進む社会の中で、企業にも学生にも求められるキャリアデザインプログラムの魅力をCCCカレッジ長を務める国際教育・協力センターの矢頭氏、国際連携機構事務部 国際連携課の住岡氏にお話を伺いました。
※Cross-Cultural College(CCC)…関西学院大学とカナダの4大学(トロント大学、クイーンズ大学、マウント・アリソン大学、ウエスタン/キングス大学)が協働で運営するバーチャル・カレッジ。日本とカナダの学生による「寝食をともにした協働学習」をキーコンセプトに、国際ビジネスをテーマにしたプログラムを複数提供。全編英語で実施するプログラムであることから、同大において最もレベルの高い国際教育プログラムの一つとして定着しており、中長期の海外留学を終えた学生のさらなる学びの機会としての役割も果たしている。
Profile
矢頭 典枝 氏
関西学院大学 国際教育・協力センター 教授/CCCカレッジ長
外務省専門調査員(在カナダ日本国大使館勤務、政務担当)、オタワ大学言語学科客員研究員、神田外語大学外国語学部教授を経て、2023年に関西学院大学教授。専門はカナダ研究、社会言語学。CCCでは2023年にチーフアカデミックディレクターを務め、2024年カレッジ長に就任。日本カナダ学会会長(2024年~)。
住岡 尚樹 氏
関西学院大学 国際連携機構事務部 国際連携課
人材紹介会社で約2年半勤務した後、2011年に関西学院大学に入職し、現職は12年目。外国人留学生の受入れ、学生の海外派遣、国際ボランティア、海外大学等との協定など、幅広く国際関連業務を担当。2014年度からCCCに携わり、2015年度には関西学院大学トロントオフィス(カナダ)に約5ヶ月間駐在した経験を持つ。
語学力だけではない求められるグローバル人材の育成
―「第7回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」の「文部科学大臣賞」の受賞、おめでとうございます。受賞された感想をお聞かせください。
住岡:今回受賞したGlobal Internship in Japan(以下「GIJ」という。)は2012年度にスタートしたもので、これまで運営に関わってきた本学およびパートナー大学であるカナダの4つの大学の多くの教職員の熱意と想いが込められています。その汗と涙がこのような形で実を結ぶことになったことを本当にうれしく思っています。学生にとってはとてもチャレンジングなプログラムですので、その苦労や葛藤を乗り越えて目標を達成した学生の皆さんのことを心から誇りに思います。そして何よりも、プログラムの趣旨をご理解のうえ、ご負担の大きい英語でのインターンシップ実施にご協力くださった企業関係者の皆さま、加えて、優秀な学生を日本に送り出してくれたカナダの協定大学の関係教職員の皆さまに対して、心より感謝申し上げたいと思います。本学の力だけでは、これほど教育効果の高いプログラムを実施できなかったと思っていますので、支えてくださった皆さまに取らせていただいた賞だと考えております。本当にありがとうございます。
—10年以上行われているプログラムということですが、どのようにしてこのプログラムは始まったのでしょうか。
住岡:CCC設立にあたって、海外進出に積極的な企業約70社に調査を行いました。そこで、グローバル人材に求めるスキルとして、英語を含めた語学力・問題発見及び解決力・多国籍環境下でも活躍できる力が挙げられました。これらを身につけられるプログラムを考えた結果、当時からパートナーシップを結んでいたカナダの大学にオファーし2011年にCCCを設立し、翌年にはGIJをスタートして現在に至ります。
わずか2週間で異文化対応力と幅広い視野を育てる
―では、より具体的にインターンシップの流れやプログラムについて教えてください。
住岡:日本とカナダ双方の夏休み期間に、カナダ側が来日し、2日間の事前講義、10日間のインターンシップ、さらに事後講義も行う約2週間のプログラムになっています。協力してくださる各企業に日本の学生1人とカナダの学生1人のペアを派遣し、与えられたビジネス課題を解決してもらいます。昨年度は10社の企業が協力してくださり、合計20人の学生がプログラムに参加することができました。
矢頭:プログラムに参加する学生は2年生以上となっており、日本の学生の選考では英語による面接を行っています。こちらが提示するテーマに沿って4人1組となってその場で話し合い、アイデアを出すというもので、カナダの学生と英語で議論ができる英語運用能力を備えているかを確認しています。また、事前講義においては、日本・カナダそれぞれの学生に対して、英語という観点での指導も行っています。日本の学生に対して、理解できなかった話をわかるまで聞くよう伝えるのはもちろんですが、カナダの学生に対しても歩み寄りの重要性を教えています。非英語圏の人々にとって英語での議論がいかに大変かということに気づかせ、多国籍な環境では相手に配慮した英語が求められるという点を強調しています。また、学生たちにはただの仲のよい友達に終わってほしくないと考えています。相手の価値観や考え方を尊重し、寄り添うことは大事ですが、安易に妥協点に落ち着いてしまうのではなく、共通目標の達成に向けて、衝突を恐れず納得するまでお互いの意見や考えをぶつけあえる関係を築いてほしいと思っています。
―さまざまな思いが込められたプログラムなんですね。実際、どういった効果が得られていますか?
矢頭:インターンシップの終盤に企業訪問をして学生たちの様子を確認していますが、学生たちはビジネスの難しさや文化の違いを乗り越え、共通の目標を成し遂げる経験ができているようです。英語力やビジネスのスキルだけでなく、学生たちはこれからのグローバル時代に求められる異文化対応力や、さらに自分自身の力で道を切り拓いていく自信をも身につけることができていると感じています。
住岡:ちなみに、学生自身が異文化対応力の向上を実感している理由のひとつに、密度の濃い異文化交流が考えられます。CCC設立以来、最も大切にしているキーコンセプトとして「寝食を共にした協働学習」というものがあり、2週間のインターンシップ期間はホテルの相部屋で共同生活を送ってもらっているのです。文化や習慣が異なる学生と共同生活を送ることはストレスだと思いますが、このプログラムが終わっても連絡を取り合っていたり、お互いにそれぞれの国に会いに行っていたりと良い関係性が築くことができている学生も少なくありません。GIJを通じて、異文化理解をもう一歩深くまで得られ、国境を越えて一生の仲間をつくることができるという点も、このプログラムの大きな効果と言えますね。
矢頭:また、プログラムを通して企業を知り、仕事の面白さを知り、視野が広がるという効果も得られています。インターンシップ受け入れ企業は多種多様で、事前講義や事後講義では学生同士でプレゼンテーションを行い、情報をシェアしています。そうすることで、実際にインターンシップに行く企業は1社であっても、幅広い企業や業界について学ぶことができ、学生の多様な進路やキャリア選択につながっています。その結果、インターンシップ先やまったく視野に入れていなかった分野の企業にエントリーする学生もいます。
制約が多いプログラムだからこそ価値を高めていく
―このプログラムを行っていく上での難しさを教えてください。
住岡:まずインターンシップを受け入れてくださる企業の確保に難しさを感じます。GIJには、日本とカナダの学生をペアで受け入れること、使用言語が英語であること、課題解決型のインターンシップであることという3つの特徴がありますので、こういった前提条件を受け入れてくださる企業に大学側からアプローチする必要があります。たしかに受け入れ企業の確保に頭を悩ませてはいますが、長年にわたりご協力してくださる企業も多数あり、大変ありがたく感じております。しかし、日本とカナダの学生の夏休み期間に行う必要があるなど、さまざまな制約があり、たとえ趣旨に賛同いただいても、受け入れにいたらない場合もあります。
―今後、さらに目指していることについてもお伺いできますか?
矢頭:現状協力していただいている企業は10社ですが、今後はさらに枠を増やして20社を目指しています。GIJのような海外の学生とインターンシップを行うプログラムは、学生のキャリアにとって非常に有益であると確信しておりますので、より多くの学生にこのユニークな学びの場を提供できればと思っています。
住岡:企業側としてはやはり受け入れた学生を採用につなげたい思いもあるので、3年生のインターンシップを希望されると思うのですが、大学側としては、2年生でも4年生でもメリットは十分にあると考えています。2年生にとっては、早期に自分の弱みや課題と向き合う機会となりますので、1年後の就職活動に向けて、大学での学びやスキル修得に対するモチベーションとなりますし、4年生にとっては、大学での学びを実践で試す集大成の場であり、社会に出るまでの準備や心構えを認識する機会になります。3年生以外の学生を受け入れたとしても、日本と海外のグローバルな視点で学生のフレッシュなアイデアを得られる機会であるという企業側のメリットを見出し、このGIJというプログラムの価値を高めていきたいです。今回の受賞を通してGIJがより多くの企業に認知され、プログラムに協力していただける企業が増えることを願っております。
多様化した社会で強みを活かしたキャリア形成支援を
―最後になりますが、他大学の皆さんにメッセージをお願いします。
矢頭:やはり今は多様化の時代であり、キャリア形成支援に求められることも多様化しているように思います。本学の強みは国際性ですが、専門性のある大学や、カナダではなく例えばアジア諸国の大学との関係が強い大学など、それぞれの大学の強みや特徴を生かしたキャリア形成支援が考えられると思います。今回のアワードのような機会を利用してお互いのプログラムを共有し、切磋琢磨していけたらいいですね。
住岡:まさに、日本中の大学が自分たちの強みや特徴を生かした教育を通じて、多様な能力を身につけた人材を輩出していくことが、日本や世界の発展につながり、学生のより良いキャリア形成にもつながっていくことになると信じています。ぜひこれからも、学生たちの豊かな人生の実現に向け、各大学の皆さんと知恵やアイデアを出し合っていきたいと考えております。
Editor’s Comment
関西学院大学 国際教育・協力センターの矢頭様、住岡様にインタビューさせていただきました。2012年度から長期にわたり継続されている本プログラムは、多くの民間企業から協力を得るだけでなく、カナダ4大学との協働運営、事前・事後講義など、参加学生のために多くの時間をかけ、入念に準備されたプログラムです。「『学生に良いプログラムを提供したい』という熱意を持って取り組んでいる。熱意があってこそ企業やカナダの大学の協力が得られる。」というお言葉が印象的でした。各大学の強みと熱意を掛け合わせれば、どの大学も独自のプログラムを提供することができると感じました。
(キャリアデザインプログラムアワード 実行委員長:久保)
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