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大学事例|学生の「いま」を見つめキャリア支援の質を高めていく|椙山女学園大学

1905年に名古屋裁縫女学校として開校されたことから始まり、1949年には家政学部の単科大学として椙山女学園大学が開学。社会の変化、学生のニーズに応えながら各学部学科を開設し、現在は7学部11学科を有する女子総合大学に。そして、2024年4月には、現代に呼応した新たな5学科を新設予定。さらなる進化を遂げるタイミングで、いまの学生を取り巻く環境、学生たちが抱える問題、そして、それを乗り越え自立した人生設計へと導くキャリア支援について、キャリア育成センター長の𠮷田氏にお伺いしました。

Profile

𠮷田 あけみ 氏
椙山女学園大学 キャリア育成センター長 兼 人間関係学部教授
上智大学大学院にて家族社会学の研究を行ったのち、広島文教女子大学(現・広島文教大学)助教授として学生指導及び研究に従事。2007年から椙山女学園大学にて教鞭を執るかたわら、キャリア育成も受け持っている。また、キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワークの立ち上げにも参画し、現在も諸問題解決のため活動中。

トータルライフデザインの第一歩である就職

―𠮷田センター長は「女性とライフステージ」「ライフスタイル論」などの授業も担当されていると伺っております。ご専門も、キャリア支援と深く関わりそうですね。

そうですね。本学が掲げているキャリア教育のコンセプト「トータルライフデザイン教育」についても、椙山人間学研究センターにおいて、他の先生方とともに「女性論プロジェクト」で継続的に研究しています。この言葉に込められた想いは、男性ももちろん、女性においては特に結婚や出産というライフイベントもあり、仕事を続けていくことは容易ではないからこそ、トータルで人生を考え自ら設計していくことが自立して生きることにつながるというところにあります。この方針に基づいて、キャリア教育の授業では、経済学や社会福祉学、法学、社会学、ジェンダー論などの知見をもとに、女性が働き続けることやワークライフバランスについて多角的に学んでもらっています。

そして、その学びの上に、きれいごとだけではない実践、「就職活動」が訪れる。トータルライフデザインといっても、その一歩目である就職が成されないと何も始まりません。そのため、学生全体に向けての「就職ガイダンス」、一人ひとりに向けての「個人面談」を両輪として、就職支援には力を入れています。

支援の質を数値化し見えてくるものがあった

―就職ガイダンス、個人面談ともに、参加率が非常に高いと伺っています。

就職ガイダンスは、全9回ですが、昨年度実績では平均して全学生の8割程度が参加していますね。やはり、回を重ねるごとに出席率が下がるので、欲を言えば最後まで全員がいてほしい…とは思いますが、いまの学生環境を考慮し実施している施策が、この出席率に結びついていることに手応えは感じています。

たとえば、学内掲示や教員からの呼びかけ、そして「椙キャリメール」という学生全員が登録しているメーリングリストでの開催数分前までの定期連絡…。さらに、本学ならではの施策として、ハガキによる広報も挙げられるかもしれません。じつは、本学の約9割の学生は、愛知や岐阜、三重の親元から通学しています。そのため、ご家族の方も就職活動に深く関わることが珍しくなく、毎年、保護者向けの就職説明会を開催しているほどなんです。そうした環境だからハガキを見つけたご家族が参加を促してくれることも多く、メールをなかなか見ないSNS世代の学生にとっては、メールよりも効果がある印象です。

2つ目の施策は、参加の動機づけです。ガイダンスであっても、90分のうちの約半分は、アクティブラーニングを実施。自己分析やエントリーシートの作成などを実際に行います。また、業界研究から始めて1社を調べ、それをもとにお互いの調査結果や考えの共有をする時間も。他の学生からも学べる機会を作り、そこでしか得られない生きた情報を持ち帰れるようにしています。また、意外と宿題も好評ですね。真面目な学生が多いのか、やることがある状況だとしっかりと出席し、取り組んでくれます。

さらに、先ほど両輪とお伝えした個人面談は、ガイダンスが3回ほど終了した際に全学生へ向けて実施し、そこでガイダンスでつまずいてしまった箇所をフォローしています。自分一人では不明瞭だったことも、コンサルタントの支援を介して見えてくるものがあるようです。私たちは、面談を非常に重要視していて、1学年1,500人ほどの学生が在籍しているなかで、年間延べ7,700回も実施しているくらい、細やかに執り行っています。

そして、最後は効果測定と改善です。ガイダンスでは、毎回アンケートを実施し、次回の内容に反映。さらに、今年から個人面談においては、その内容も数値化し始めました。いつ、誰が、何の目的で利用したのか。ちょうど先日、面白い結果がでました。4月からの2ヶ月間、個人面談の利用がもっとも多かったのは看護学部で、その目的は面接練習だったんです。民間企業を目指す割合が高い他学部より看護学部の利用が多いことは、意外でした。専門職を目指す看護学生については、キャリア支援の部分も学部のご協力を得ている部分が多かったのですが、学生たちからは、キャリア支援、さらに細分化すると面接対策の部分でニーズがあったのですね。これは一例ですが、今後も、どんな学生たちがどの時期に何を求めているのか、そのニーズを詳細に把握していきたいと考えています。

いまの学生を取り巻く環境を見据えての施策

量的な分析は他大学でもお伺いしますが、質的な分析も始められ、そして意外な状況も見えてきたのですね。

はい。この結果は、キャリア支援にかかわる職員による定例会議で共有しました。そして、早速、改善施策を話し合っているところです。というのも、本学は社会のニーズに対応して変化を遂げてきた大学であり、それはキャリア教育、キャリア支援にも根付いています。いまある施策のすべても、学生の状況を踏まえて実施しているものなんです。

大前提として、私たちの学生時代と、いまの学生を取り巻く環境は大きく異なります。だからこそ、学生の声に耳を傾ける、状況をつぶさに拾い上げる。先ほどお話しした保護者向け説明会でも、「親御さんの時代とは大きく異なりますよ」という現況をお伝えすることから始めています。

キャリア支援課に行って、適切な情報を手に入れればいいだけの時代ではありません。簡単に、たくさんの情報が手に入る時代ゆえに、ときに情報の海に溺れてしまう学生もいます。また、Z世代の学生が重視する「タイパ(タイムパフォーマンス)」という価値観から、情報を深く読み込まないという弊害も起こっています。加えて、コロナ禍であったこともあり、部活もアルバイトも、そして遊びにおいても体験が不足している。それが自己効力感や自己肯定感の低さにもつながっていると考えています。自信がないからか、自分の考えを言語化する能力も年々低くなってきている傾向もあるのではないでしょうか。こちらについては、論理的文章力のトレーニング講座も計画中です。

また、体験不足に関連して、能動性や行動力がなかなか育まれない学生も…。先ほどと同様、コロナ禍の活動制限もありますが、インターネットを介して、一挙手一投足が見つめられていると感じる社会状況も関係があるのかもしれません。だからこそ、大学では思いっきり体験し、失敗できる環境を用意してあげたいと考えています。特に本学は女子大学ですので、ジェンダーバイアスにとらわれない考え方や体験、リーダーシップを発揮する機会を数多く経験できるでしょう。

その一例として、主に大学2年生向けのキャリア形成実習、内容としては単位認定型のインターンシップがあります。大学3年生以降になると、インターンシップであれ、就職というものを意識しますよね。その前に、思う存分失敗していい場として、5日以上のインターンシップに参加してもらうことを促す施策です。そして、大学3年生以降のインターンシップの糧ともなるように、事前と振り返りの授業を大学側で提供しています。

そのキャリア形成実習で実施する、株式会社麦の穂との産学連携インターンシッププログラムが第6回学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード』において大賞に選ばれました。全国770件のキャリア支援の取組の中で最優秀として認められたことは、大変光栄に存じます。

安心して失敗できる環境で経験を積んでほしい

今後さらに取り組んでいきたいことはありますか。また、他大学のみなさまへのメッセージをお願いいたします。

いままでの取り組みの効果が現れてきたのか、昨今、行動できる学生が増えてきたという印象を受けます。自己分析やエントリーシートに自ら取り組んだり、インターンシップにも挑戦してみたり。今後の課題としましては、その行動の質をより高めていくことですね。学生たちの中には一挙手一投足を見られているのではないかと考え、受け身になりがちな学生も少なくありません。そのような姿勢で就職活動に入ってしまう前に、安心して失敗できる場としての大学で、大胆に挑戦してほしいですね。

そのためにも、コロナ禍が落ち着き、オンラインからリアルへ戻り始めている状況はありがたいと思います。ぜひ直接、友人や先生方とお互いに刺激を受けあってほしいですね。最後に、他大学のみなさまとは、今後も連携させていただき、良い施策の共有などもできましたら幸いです。それによって、変化し続ける社会環境のなかで生きる学生たちに、さらに質の高いキャリア支援を提供していければと考えています。

Editor’s Comment

取材を終え、「学生を一人も取り残さず、個人に合わせたきめ細やかなキャリア支援をされている」という印象を受けました。ややもすれば「キャリア支援=ガイダンスの回数を増やすこと」に注力しがちですが、椙山女学園大学さんは、ガイダンスの数週間前から数分前にも学生に通知することで、一人も取り残さないようにするという姿勢が伺えました。
また個人面談ではできるだけオーダーメイドの支援ができるようにとガイダンスの理解度やつまずきまで確認。さらにガイダンスや講座では、毎回全員からアンケートを取得し次回に反映するなど、スピード感の早さだけでなく、熱量の高さも感じました。
(マイナビ編集長:高橋)

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