江戸時代、京都御所内にあった学問所「学習院」が起源。1877年に開設された華族学校の名称として「学習院」が継承され、1947年の学校教育法、教育基本法施行により私立学校に。そして、1949年に学習院大学として開学。「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」を教育目標と置き、学生の個性を尊重しながら基礎教育と多様な専門性を有機的につなげる教育を実施。豊かな緑と歴史ある建築物に彩られた目白の杜とよばれるキャンパスで将来に向けて過ごす学生たちについて、キャリアセンターの淡野氏にお話を伺いました。
Profile
淡野 健 氏
学習院大学 キャリアセンター 担当次長
学習院大学卒業後、人材関連の会社に入社し、新規事業や採用業務などの責任者を歴任。退社後は静岡産業大学特任講師、スポーツ選手のセカンドキャリア支援会社の起業を経て、当時の学習院大学学長の「キャリアセンター職員として、学生にとっての人生の先生になってほしい」という言葉に感銘を受け、母校でキャリア支援に携わることを決意。メディアや講演で登壇多数。
低学年のうちは、学生生活の心構えを入学時に伝えるだけ
―高い就職内定率にも定評がある学習院大学のキャリア教育について、多くの人が気になると思います。考え方についてお聞かせください。
キャリア教育については、就職活動や内定という「点」ではなく「面」で捉えています。どの講座も、大学生活も、そして人生もすべてがキャリア教育。大学生活でも「あらゆる機会を自ら能動的に学んでいくアクティブラーニングの機会と思ってほしい」と考えています。
そのため本学では、低学年においては座学形式のキャリアプログラムは特段設けていません。入学時にだけ、大学生活がより有益なものになる心構えやその気づきにつながる簡単なワークを体験してもらいます。具体的には、隣に座った学生との40秒プレゼンから開始。「今まで何をしてきたの?この大学で何をしたいの?まだわからない人は、それをちゃんと相手に伝えてみよう、相手の意見を尊重しながら議論してみよう」と。
―なるほど。ただ、入学直後で学生も緊張しているかと思いますが、様子はどうですか?
はい。最初は戸惑っていますが、それも社会に出ていくための訓練。最後に「いい友達になれそうだと思ったら手を挙げて。このコミュニケーションを忘れないでね」と話します(笑)。社会ってそういうことですから。相手をリスペクトすることから何事も始まる。大学生になったら今まで会わなかったタイプの人とも出会う。そういう人たちとどのように関係を築いていくかという経験から、学ぶべきことは多くあります。
だから、部活でもサークルでもアルバイトでも、何でもいいから組織に入るようにも言いますね。ちょうど入学式のあるこの時期は、キャンパスへ出たら先輩たちが新歓コンパで待ち構えているタイミング。「今日から1週間はお財布持ってこなくても、昼ご飯も晩ご飯も先輩たちが食べさせてくれるよ。気にしなくていいよ、先輩たちもそうやって過ごしてきたから」って(笑)。
そういう経験を積み重ねて、自分は大学時代にこれをやったということを1つは見つけてほしいと伝えます。目白の杜で過ごす一秒一秒をキャリアの糧としてほしい。そして「就職活動を控えた3年生の春のガイダンスでまた会うけれど、その時に2年間どんな風に過ごしたのか教えてね」と言って終わり。今はコロナ禍ということもあって2年生でも学生生活の振り返りの機会を一度設けていますが、低学年のうちはそれだけです。
自己分析、志望動機、プレゼンテーションの3本の柱
―驚きをもって伺いましたが、確かに座学の講座だけがキャリア教育ではないですよね。では、3年生にはどのような支援を行っていますか。
就職活動の3本柱は「自己分析」「志望動機」「プレゼンテーション」だと伝えています。でも、これも就職活動だけの話ではないんですよね。
たとえば、先ほども話したサークルの新歓コンパ。「高校時代は何をしてきたの?」「なんでこのサークルに興味持ったの?」という先輩との会話があると思います。前者は自己分析、つまり過去を知ること。後者は志望動機、今と少し先の未来の話。あとは、それをプレゼンテーションで伝えていく。その中で、相手に質問をして共通点を見つけたり、相手を少し褒めて会話しやすい雰囲気を作ったりと工夫をしますよね。それは、もう面接と一緒だと思うのです。つまり、「君たちはもうその練習を積み重ねてきたんだよ」と。
―いいですね。ちなみに、貴学の面接といえば「面接対策セミナー(通称メンタイ)」も長年行っていますよね。
「メンタイ」は、OBグループの一人として30年ほど前に私が立ち上げに携わりました。3年生の1月に、2日間連続で本学のOBOGと取り組む講座です。エントリーシートの書き方や面接対策もありますが、最大の目的は社会人との対話から働くことを考えてほしいということ。立ち上げ当初は6人のOBで開催したのですが、今や300人以上のOBOGが集結。「後輩の役に立ちたいから参加させてほしい」と年々人数が増えていきました。これは、本当に本学の宝ですよ。
近年は、内定者の4年生もサポーターとして参加してもらっています。また、4年生の内定者は3年生の夏に行う「保護者向けセミナー」にも登壇。以前は、協力会社の方に話してもらっていたのですが、よりリアルな話を、自分の子供と年齢が変わらない当事者の立場からしてくれるとあって保護者の皆様からも好評です。
3年生の夏にすべきことは本当にインターンシップなのか
―3年生の夏となると、インターンシップが盛んな時期ですね。
3年生の夏はインターンシップに参加すべきということについて、私は全員に当てはまるのか疑問です。インターンシップに参加しないと入社できないという企業はほぼありませんよね。3年生の夏までに、部活やサークル、アルバイトなどの活動で何かを見つけられた学生はいいかもしれません。しかしながら、まだ大学時代において語れるものがない学生もいます。そういう学生は、部活に入っているならば最後のリーグ戦、文化部ならば作品制作に集中するという選択もあるはずです。また、アルバイトならば、リゾート地に片道交通費だけ持って行けば濃密な経験ができると思います。
さらに自分一人では見つからない学生には、私たちキャリアセンターが企画する「ベトナムインターンシップ研修」もあります。これは、現地企業への訪問や現地社会人、学生との交流がメインプログラムなのですが、私たちは同行するけれど、「どのような準備をしてどのように臨むかはあなたたち次第だよ」という指導をしています。また、現地でもアクティブラーニングを実施。たとえば、「今日の朝食はホテルではなく、それぞれでガイドブックにも載っていないようなお店に行ってきてみたら」と。異国での小さな冒険です。コロナ禍で運営の難しさもありますが、今年も小規模で実施しました。
学生をリスペクトすることからキャリア教育は始まる
―型にはまっていない支援のお話が非常に刺激的です。現在、そしてこれからのキャリア教育について思われることはありますか。
本学のキャリアセンターでは、協力会社の方々を「業者」と呼ばないという取り決めがあります。入学時に学生にも伝える、相手をリスペクトすることを実行しています。それは、学生に対しても同じ。たとえば、ベトナム研修などのプログラムでも学生にヒアリングします。「この内容が響くと思って企画したけれど、実際はどうだった? 改善点はある?」と。学生をリスペクトし、学生から学ぶことで、より良いキャリア教育はつくられていくと考えています。
今、就職活動は本当にカオス状態。玉石混淆のビジネスや情報があふれています。本来、大学は思う存分学ぶ場所であるにもかかわらず、大人の事情に侵されつつあり、主役である学生たちが大人に翻弄されている。その中で学生たちを守り、本質をぶれさせずに導く、それが私たちの責任ではないでしょうか。
加えて、このコロナ禍で学生たちは本当の学びに飢えています。アクティブラーニングの機会を用意すると、目を輝かせて反応してくれる様子が印象的です。全国のキャリアセンターの方々は、コロナ禍の中で学生とのつながりを保つのに苦労されていることと思います。でも、それを言い訳とするのはやめましょう。学生に一番近い大人として、若者たちがプライドを持てる未来を描けるように、私たちも仕事に誇りを持って彼らを導いていきましょう。
Editor’s Comment
「キャリアセンターとは何か?学生のことを一番知っている組織であるべき」と、熱く語る淡野さん。取材した印象として、とことん学生目線で考え、キャリア支援を考え抜き、就職活動の時期だけ戦い抜くだけでなく、卒業後の人生も輝かせたい、と考え指導されているな、と感じました。アクティブラーニングを積極的に取り入れた各種講座で学生同士がやり取りしている様子を以前直接拝見しましたが、全ての学生の目が輝いていたのが印象的でした。また、記事以外のお話にありました、キャリアセンター職員に対し「学生支援はティーチングではなく、コーチング」というお言葉にも強く共感しました。
(マイナビ編集長:高橋)
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